30
体育館に戻ると、せかせかと動き回る葵がいた、それもそのはず音駒のマネージャーは葵一人しかいないから、凄く大変そうだった。
それに比べて俺は練習もしないで、体育館の裏でアリの行列を見てサボって……休憩していた。
「葵」
「あ、研磨君。体調大丈夫?水分はマメにとってね」
「うん」
葵に貰ったドリンクボトルを受け取って渇いていた喉を潤した。葵の方を見ると、俺がずっと悩んでいた事なんて全然気にしていないようだった。
「(……俺ばっかり悩んでたのかな)」
「……。」
「どーした研磨?元気ないな」
「……クロは元気だね」
「そりゃまぁ、やっとさっき梟谷に一勝出来たからな。それより研磨?」
「何?」
「さっき研磨が居なかった時に葵ちゃんがやたら落ち着きがなかったっていうか、ボトル落としたり上の空だったりしてテンパってて面白かった。」
「え」
あの葵が?
俺が体育館にいない間に、そんな事が?
「葵ちゃん研磨の事さ、心配してたぞ?」
「……。」
「水分は摂れよ?葵ちゃんにあんま心配かけないようにな」
「……葵が俺の心配を」
「おう、まぁ、見た所…葵ちゃんも元どおりになってるわけだし?」
「クロ、俺さ」
「ん?」
「葵の事が好きとかそういうの分かんない」
「は?いきなりどうした」
「色々考えた、俺やっぱり得意なゲームみたいに目の前にある問題をクリアしていくなんて器用な事出来ない」
「お、おう」
「でも、葵とは一緒にいたい。これからも一緒にゲームしたいし、葵のマシンガントークを聞いていたい」
「一緒にいればいいじゃねーか」
「葵に好きな人が出来たり、葵が俺じゃない他の奴の所に行くのは嫌だ、でも俺じゃきっと駄目だ。俺は葵の隣にずっとはいられない」
「……お前はそれでいいのかよ」
「クロは俺にどうして欲しいの」
「どうって……」
「俺、葵に告白なんて出来ない、するつもりない」
「お前どうしたんだよ「告白ってどうすんの?」って聞いてきたからてっきり告白する決心がついたのかと思ってたぞ」
「もう無理、絶対しない。俺の精神崩壊する。ゲームオーバー怖い」
葵が俺の事を、なんてあるわけない。きっと告白しても葵を困らせるだけだ、だってさっきも葵は俺に手首を掴まれて困った表情をしていた。
俺が、困らせた。
こんな調子じゃ、面と向かって葵に告白なんて出来っこない。
「葵を困らせたくない」
「どういう意味か分かんねーけど、もしかして告白する前に失恋でもしたのか?」
「え」
「告白しようと思ったら葵ちゃんには既に彼氏、もしくは好きな人がいた。とか?」
「いや、そういう話はしないから分かんない」
「あ、そう」
「……。」
葵はきっと俺なんか好きじゃない。この先に恋愛関係なんて発生しないし、そういうイベントも起こらない。途中でセーブしたところで何回やっても結末は全部一緒に決まってる。
諦めて、別のルートに進むか
それとも別のゲームを始めるか
だってほら、何回ゲームを繰り返しても姫が魔王に捕まったり、ヒロインが死んでしまったりとか、やり直してもストーリーが変わらない事ってあるじゃん。それと一緒。
だからセーブしても無駄。
俺は葵に告白してフラれるという結末を迎えるのが怖くて、安全なルートを進んで行く。
「俺が別の行動を起こしたところでこうなるって決まってたなら何も変わらない」
「……お前らしくないな」
「だって葵は」
「あ、研磨君」
「!」
クロと話していると、後ろから葵が話しかけてきた、葵を見るとどうやらマネージャーの仕事はひと段落ついたようだった。
「葵……」
「あのね研磨君、お願いがあるんだけど」
「俺に?」
「うん、今日どうしても行きたいクエストがあって……手伝って欲しいなーって」
「いいよ、練習終わったらやろう」
「ありがとう!研磨君大好き!」
「!?」
大好き?
……今、大好きって
「おーおー、葵ちゃんってば研磨に愛の告白ですかー?」
「え?」
「ちょっとクロ……」
「葵ちゃんって研磨の事好きなの?」
「え、はい、すきですよ」
「え」
「マジかよ葵ちゃん……」
「でも「好き」だなんてあまり口にした事ないからなんだか照れ臭いね。私、バレー部のマネージャーをやって良かったよ。これからも頑張るから仲良くしてね研磨君」
「…え、あ、うん。俺も葵とゲームするの好きだし、そういえば期間限定のクエストとかまだやってないからクリアしないと」
「私もアレまだやってない!忙しくなるね!」
「うん」
「え、ちょ、葵ちゃん?研磨の事好きって……あれ?」
「あ、クロ先輩も好きですよ」
「え、あ、うん……アリガト」
(まさか、そういう「好き」っていうオチ?)
(クロ、暑いから休憩していい?)
(研磨はいい加減練習に参加しろ)
(……あつい。)
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