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合宿3日目、今日は少し気温が低い。
……と言ってもやっぱり体調管理は大切だ。
身をもって知ったから、本当に大切だと思う。もう部員のみんなには心配をかけたくないから無理はしないでおこう。
「……。」
「どーした研磨?」
「なんでもない」
「そうか?」
どうしたんだ?
なんかやりにくそうだな、体調悪いのか?
「……。」
「研磨君」
「……葵?」
「ちょっとこっち来て」
「うん」
「(研磨と葵ちゃん、どうしたんだ?)」
葵ちゃんに呼ばれて、研磨はコートの端に向かって行った。一体何があったんだ?研磨の体調が悪いのか?研磨の顔色は悪そうに見えないけど。もしかしてゲーム失調症とかか??
「葵?」
「前髪、長くて前が見づらいでしょ?」
「……うん」
「ジッとしててね」
「うん」
葵は研磨の長い前髪を揃えて、黒いピンを二本そっと髪に差した。
「はい、出来た。これでとりあえずは邪魔にならないと思う」
「……ありがと」
「あ、もしかして嫌だった?」
「いや、見やすくて良いけど、なんか女の子みたいで恥ずかしい」
「ああ、なるほど。でも研磨君なら似合うと思うけど」
「……視界が良すぎて違和感」
「うーん」
目立つの苦手だもんね、研磨君。
うーん、でも長いと視界が悪くて怪我しちゃうかもだし、研磨君が怪我するのは嫌だし。
「あ、でも大丈夫、前髪さっきより邪魔じゃないし」
「そう?なら良かった」
「……でも少し前髪を切りたいかも、葵って髪切れる?」
「切れるけど、私でいいの?」
「うん」
「分かったよ」
「君ら本当に仲良しだなー」
研磨君と話をしていると、クロ先輩が覗き込んで来た。あー、相変わらずクロ先輩は背が高いなあ……とか思った。
「葵ちゃん、よく研磨の事分かったねぇ?俺ですら気付かなかったのに」
「なんとなくです、私はむしろ分からない事だらけですし」
「そうなの?」
「はい、ゲームの事なら大抵分かりますけど、マネージャーとしてまだまだですから」
「あぁ、まぁゲームはね」
クロ先輩と話していると、監督から呼ばれたのでクロ先輩達と別れて、監督の方に向かった。
「……。」
「なぁ研磨、」
「なに?」
「梟谷の先輩がさ、葵ちゃんの事狙ってるみたいだぞ」
「……そう」
「あれ?心配じゃないの?」
「だって、葵モテるから」
「……まぁ、そうだけどよ、嫌じゃないの?葵ちゃんが研磨以外の男と仲良くしてるのって」
「……。」
「?」
んん?おかしいな、
研磨は葵ちゃんの事、
好きだと思ってたんだけど、
本当に友達ってだけなのか?
「……葵が」
「おう」
「俺とゲームしないって言うのと同じくらい、俺以外の誰かと仲良くすんのは嫌、かな」
「おおう」
「……でも葵は俺だけの葵じゃないし、葵がその梟谷の先輩を好きなら俺はそれでもいいと思う、葵と一緒にゲームするのは楽しいけど、葵が誰と仲良くするか決めるのは葵自身だし」
「消極的だな、お前」
「……そうだね。」
「研磨はさ、人と話すの苦手って言ってたけど、葵ちゃんと話すの苦手か?」
「別に、葵は平気」
「そうか、」
「葵はよく喋るし、俺が喋んなくてもとにかく凄く喋るから、楽」
「お前なー……」
まぁ、確かに葵ちゃんは明るいし、
よく喋る子だけど。
「まぁ、こっからが本題なんだけどよ」
「?」
「研磨は、葵ちゃんに告白しないのか?」
「……え」
「告白、しねぇの?」
「!?」
研磨は分かりやすく、俺を見上げてきた。
あーもう、すっげぇテンパってる。
面白い。
「なんで、告白……?」
「なんでって、お前、葵ちゃんの事好きだろ?」
「好きじゃない」
「はいうっそー、」
「!?」
「分かりやすい反応してるぞお前、大丈夫だって葵ちゃんはバレてないって、で?どーすんの?告白すんの?」
「出来るわけないでしょ」
「まぁ、そう言うと思ったけど」
研磨の性格は、じゅーぶんに知っている。
これでも何年間、幼馴染やってると思ってんの?まぁ、そうだよなぁ、研磨が女の子に告白するなんて想像がつかねぇわ。
さーてどうすっかなぁ。
「クロ」
「ん?」
「告白って、どうやんの?」
「!?」
あの研磨が?
あの研磨が……。
あの研磨が俺に告白の仕方を聞いている!?
「え、どうした突然」
「別に、分からないから聞いてるだけ。クロなら分かるでしょ?」
「お、おう。お前、どうした?いつもの研磨か?」
「?」
「いや、うん。まぁ積極的でいいんじゃないか。えーっとまず告白だけど、お前本気で告白するのか?葵ちゃんの事、好きって事でいいんだな?」
「好きっていうか」
「ん?」
「俺以外と仲良くすんの嫌」
「好きなんだな」
「ああ、やっぱりそういう事なんだ」
そっか、
俺、
やっぱり葵が好きなんだ。
(研磨が、女の子を……青春だなぁ)
(でもクロって告白した事あるの?)
(ねぇな!)
(……。)
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