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熱気に包まれている体育館はとても暑く、ただでさえ暑いのが苦手な私は、自分でも分かるほどに少しふらふらしていた。水分補給もちゃんとしているから……このバテさ加減はきっと今まで家に引きこもって、体が弱くなってしまっているからだろう。運動不足とか情けない。
「……よいしょ」
普段よりも、なかなかハードなマネージャーの仕事に少し疲れが出てきた。でもハードなのは部員達も同じのようでみんな汗だくだった。
次から次へと行われる練習試合に加えて夏の暑さもある。部員達の熱中症や脱水症状に気を付けながら欠かす事なくドリンクの補充をしていった。
カゴいっぱいに入っている空のボトルを運ぼうと持ち上げると少し違和感があった。
「(こんなに多かったかな)」
そこそこ部員のいるバレー部だが、集まったボトルを見て、このカゴってこんなに重かったか?と疑問に思った。
少し重いが、持てない重さではない。
早く新しいボトルを作らなくちゃ、とカゴを持ち上げた。
「んー……」
持ち上げると少しフラついた、
目眩がして目の前がパチパチしたがすぐに視界がクリアになり、大丈夫なんとかなりそうだ……と歩み出した。
「大丈夫?」
「え?」
ふとカゴが軽くなったかと思えば、
私の手にボトルの入ったカゴは無かった。
「これ重いでしょ、フラついてた。あっち運べばいい?」
「あ、ありがとうございます」
目の前に現れた黒髪の男の子にお礼を言って一緒に水道がある所まで移動した。
「あの、助かりました、ありがとうございます」
「いいよ、見てて危なっかしそうだったから」
「う……」
全くその通りだったので、思わず目線を逸らした。ただでさえ運動が苦手で暑さに弱い私だ、ちゃんと適度に休んだ方がいいかもしれない。
「ねぇ」
「はい?」
ボトルの蓋を開けて洗おうかとしていると話しかけられた。なんだか無気力な人だなぁ、と思いつつ、うちにも無気力ボーイが1人いたなぁと友人の彼を思い浮かべた。
「君、音駒だよね」
「はい、そうです』
「音駒のマネージャーって1人?」
「はい、もう1人マネージャーが居たらといいな思いますけど、とりあえずなんとかなってます」
「……そっか、ていうか敬語じゃなくていいよ」
「え、でも先輩だし」
「俺、一年。」
「え、同い年?」
クールだし落ち着いてるから年上かと思ってた。あと私や研磨君よりもずっと背が高いし。
「ごめん、先輩かと思ってた」
「いいよ、俺梟谷の赤葦京治」
「あ、如月葵です。私も一年」
自己紹介されたので咄嗟に私も名前を出した。
「これからよろしく」
「うん?これから?」
「音駒なら、これからもまた会う事になる」
「そうなの?」
「今回の合宿もそうだけど、この4校を中心に練習試合が多いらしいよ。夏は特に」
「そうなんだ、じゃあこれからもよろしくお願いします」
笑顔でぺこりと頭を下げると、何故か赤葦君に目を逸らされてしまった。何故だ。
「あ」
「え?」
赤葦君がカゴに入ったボトルをひとつ手に取った。
「ごめん」
「え?どうしかした?」
「このボトル……梟谷のだ」
「え」
赤葦君は音駒と書かれたカゴの中を見て5本ほどボトルを持った。そのボトルには小さく「梟谷」と書かれていた。
「あ、どおりでいつもより重かったんだ」
「悪い、多分うちの奴が間違えて入れたんだと思う」
「ううん、私もすぐ気付けなくてごめん」
「間違えないように言っとく、ごめん」
「私も次は気付くようにするね、ごめん」
お互いに謝っていると、
お互いに笑ってしまった。
「練習試合、頑張ってね」
「如月さんもね、あと男ばっかりの合宿だから色々気を付けて。何かあったら頼ってくれていいから」
「(気を付けて?)うん、ありがとう」
彼は「じゃあ」と言って体育館の方に戻って行った。他校生と話せるなんて思ってなかったから凄く驚いた、けど赤葦君はクールで無気力だけど、すごく優しい。
全員分のドリンクを作り、カゴに入れる。
ボトルを数えるとちゃんと部員の数だけあった。次からはちゃんとあるか数えよう、と思いカゴを持ち上げた。
さて体育館に戻ろうかな、と顔を上げると
「葵!」
「あれ?研磨君?」
「大丈夫?」
「うん?」
「帰りが遅かったから……」
「ごめんね、ちょっとスクイズを洗うのに時間がかかっちゃって」
「重くない?大丈夫?」
「うん、あ、でも赤葦君?に手伝って貰っちゃった。マネージャーとして不甲斐ないよ」
「赤葦?」
「うん、確か梟谷って言ってたかな」
「……。」
「研磨君?」
「……体育館、行こう」
「う、うん?」
どうしたんだろう?
山(女子、女子がいる!)
黒(落ち着け山本、女子ならうちにもいるだろう)
山(で、でも、梟谷には二人も!)
黒(うちには夜久がいるだろう)
夜(どう意味だ?)
山(夜久サン、あの、スカート…)
夜(穿かねぇよ!!)
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