20
夏休みになり、
いよいよ恒例の合宿が始まった。
いつもより少し重いリュックを背負い、家を出た。
お母さんにこんな朝早くにどこに行くの?と聞かれて『部活の合宿』と言うと驚いていた。そういえば部活を始めた事も今日から合宿だという事も言ってなかったかもしれない。ごめんお母さん。
私はずっと帰宅部だったから、お母さんは口を開けたまま固まっていた。よほど意外だったらしい。
お母さん、娘の事なんだと思ってるの。
もう引きこもりなんかじゃありません。
「行ってきます」
そう言うと、お母さんは嬉しそうに「行ってらっしゃい」と言ってくれた。もしかしたら私に部活動をやって欲しかったのかもしれない。
「おはよう、葵」
「うぃーっす」
「おはよう研磨君、クロ先輩」
学校へ向かう途中、研磨君とクロ先輩に会った。二人は今日から合宿だというのにいつも通りだった。
私はこんなにも緊張しているのに!
やたら目立つ赤いジャージが3人揃って学校へと並んで向かった。
「今日も暑いね」
「……うん」
「大丈夫?」
「研磨は暑いの苦手だからなー」
「寒いのも苦手。葵は暑いの平気?」
「全然、無理」
「え」
「今まで夏はずっと引きこもってたから、暑いの苦手。うん……やばい、クラクラしてきた」
「え、ちょっと」
葵の顔を見ると、少し顔色が悪かった。
「大丈夫か葵ちゃん?合宿中もし辛かったら研磨を頼れよ」
「え」
「分かりました」
「え」
「あー、暑い……」
学校に着くとバスが止まっていた。
きっと私達バレー部が乗るバスだろう。合宿する学校は森然高校という場所らしく、バスで向かうらしい。
バスの中は外よりは涼しかった。
「葵、こっち」
「うん」
研磨君が私の手を取って、空いている席に一緒に座った。窓側が研磨君で通路側が私だ。
「おーい葵ちゃん、俺の隣も空いてるよ?」
「そうですね」
「えっ」
(そんだけ?)
研磨の奴、普通に葵ちゃんと一緒に座りやがった。見ろ、山本の奴が羨ましがってるぞ。
「葵、昨日のステージだけど」
研磨と葵はスマホを出して、お互いゲーム画面を覗いていた。
「(おいお前ら、顔が近い)」
これで付き合ってないんだから驚きだよなぁ。二人はあくまで「お友達」か。
「え、研磨君このステージクリアしてるの?」
「昨日やった」
「うー……』
「だって昨日、葵寝ちゃったでしょ」
「ああ、そういえば」
そうだ昨日、寝落ちしちゃったんだった。
「寝ちゃったって……お前ら昨日の夜何してたんだ!?」
研磨達の後ろ席にいた山本が立ち上がって、二人に言った。山本はどこかそわそわしていた。バスで騒ぐなよ山本ー!と黒尾が怒っていた。
「「ゲームだけど?」」
「へ?」
「昨日の夜でしょ?ゲームしてたよ」
「え?あの、二人はその一緒に居たとかじゃ?その……泊まったり……?」
「マルチプレイしてただけ。泊まり?」
「泊まり?」
「……すみません、なんでもないです」
「(負けるな山本!)」
まぁ泊まりは、流石にダメだろう。
遊びに行くのとはまた違う、仲の良い友達とはいえやっぱり男と女だしなぁ。研磨もその辺の常識は流石にあるだろうし、
「あ、着いた?」
しばらくバスが走り続けると見えて来たのは森然高校。バスを降りると東京よりは涼しかった。
体育館に向かうと、
ちらほら他校生が集まっていた。
今回の夏合宿は合同合宿らしく、
埼玉、東京、神奈川の学校合同で行われるとのこと
音駒、生川、梟谷、森然の4校が集まり合同合宿が始まった。
ずっと帰宅部だった私にとって部活の合宿なんて当然初めての事で、そわそわして緊張しているとクロ先輩が「いつも通りでいい」と言ってくれた。ありがとう先輩。
」お疲れ様です、タオルです」
練習試合は勝ったり負けたり、音駒のバレー部は決して弱くない、まだ足りない部分があるのだと感じた。
「(研磨君…?)」
練習試合を見て思った事がある。
研磨君が、コートに一度も立っていない事だ。
3年の正セッターは引退していないし、控えセッターは2年生だ。というか1年生はあまり積極的に練習試合出して貰えないようだ。
クロ先輩に聞いて見ると
「あー……うちの3年が根っからの体育会系で、年功序列とか気にするんだよなぁ、たまに練習試合に出して貰えるけど、本当にたまに」と言っていた。
「年功って1、2歳しか違わないじゃないですか」
「まぁね」
「……クロ先輩」
「葵ちゃんの言いたい事もわかる、俺も研磨や一年を試合に出したい。だけど今は我慢だ」
「……分かりました」
「あ、でも」
「?」
「研磨がバレー部辞めたいって言い出したら一緒に止めてくれ」
「研磨君が辞めたら、私も辞めます」
「……そう来たか」
「冗談ですよ、まだ未熟なマネージャーですけど私結構このバレー部が好きです。大丈夫です、研磨君は絶対に辞めさせませんよ」
「そう言ってくれると頼もしいなぁ、バレー部が好きって事は俺の事も好きって事でいい?」
「みんな好きです」
「……だよねぇ」
私がそう言うのを分かってたかのようにクロ先輩は笑った。大丈夫、みんな格好良いし大好きだ。
(なぁなぁ、研磨)
(なに)
(葵ちゃんが俺の事好きだってさ)
(え、氷室先生より?)
(氷室先生?誰それ)
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