10、音駒男子バレー部
「え……GWって部活なの?」
「うん。だからあんまりゲーム出来ないかも」
「そっか、まぁ普通はそうだよね。GWは部活だよね……」
帰宅部の私とは違って、研磨君は休み中でもバレーを頑張ってる。しばらく会えず、一緒にゲームが出来ないけど、バレーの練習時間を奪うわけにはいかない。
「部活、頑張ってね」
「うん」
「バレー楽しい?」
「……。」
「え」
あれ?
楽しくないの?
「本当は辞めたいって思ってるけど、クロに、辛くても辞めんなって言われてる。俺が必要なんだって……だから俺が居ないとクロ達が困るし」
運動は苦手だけど、って研磨君は答えた。
「……。」
「やっぱり今の無し。忘れて」
「……。」
「葵?」
「格好良い!」
「え?」
「仲間の為に頑張るって格好良いよ研磨君!」
葵はキラキラした目で研磨を見つめていた。
「格好良い……?」
「私にとって仲間はゲームの世界での「仲間」しか居ないけど、私は困っている仲間を助けたりするし、助けられたりする。それってやっぱり大事だよ」
「……。」
「あ……部活の仲間の事をオンラインゲームの世界の仲間と一緒にしちゃった、ごめんね……」
「ううん。俺も同じだと思うよ」
「変な例え方してごめん……」
私……部活動とか、したことないから
出しゃばり過ぎたかもしれない。
「ありがとう、葵」
「えっと……部活、遅れるよ?」
「うん、そろそろ行く」
「頑張れ、研磨君」
私がそう言うと研磨君は鞄を持って、教室を出ていった。廊下にはクロ先輩が居たからちょうど研磨君を迎えに来た所だったみたい。
「……やだなぁ」
さっきの私、ちょっと嫌な奴になりかけてた。研磨君がバレーを辞めたら、私と一緒にゲームをする時間が増えるんじゃないかって。そんな事を思ってしまった。こんなの最低だ。
研磨君にとって
ゲームもバレーも仲間も大事なんだ。
大丈夫、私はバレーを頑張っている研磨君を応援したいんだ。研磨君からバレーを……奪いたくない。
仲間の為に頑張る研磨君は……格好良いなぁ。
※※※※
バレー部in体育館
「なーんか今日の研磨、機嫌良くねーか?」
一番最初に気付いたのはバレー部2年の夜久だった。
「研磨の機嫌が?」
それを聞いた黒尾は、他の部員と一緒にトスの練習をしている研磨の方を向いた。その様子を見て黒尾は「ははーん?」と何かに気付いたようだった。
「なるほどな」
研磨のやつ、あれはなんかあったな。
何があったかは知らねーけど、
「ボールの動きがいつもと違うな、静かだ」
「だろ?なんか柔らかいっていうか、いつもはなんかこう無機質っていうか」
「そっかそっか」
「なんだよ黒尾、何か知ってるのか?」
「うーん? まぁ、知ってると言えば知ってる。けどまぁ断言は出来ないけどな」
「?」
「こういうのは本人に確かめるのが一番って事だな、おーい研磨!」
山本にトスを出していた研磨を呼ぶと、「何?」と研磨が黒尾達のところに寄ってきた。
「練習中悪いな」
「いいよ、ちょうど俺も山本も疲れてきた所だったから、休憩しようと思ってたし」
「俺は全然まだ余裕っス!!」
「……。」
俺は疲れたんだけど。
「ところで、研磨?」
「何?」
「最近さ、葵ちゃんと何かあった?」
「……………………なんで?」
「うっわ、わかりやすいなお前」
やっぱり葵ちゃん絡みか。
最近の研磨は葵ちゃんの事になると表情豊かになるよなぁ。本当に分かりやすいよお前。
「なるほどな、研磨の機嫌が良い理由は葵ちゃんか」
「……別にいいでしょ。ていうか、俺そんなに分かりやすかった?」
「分かりやすい」
「……そう」
そりゃ葵に格好良いって言われて嬉しかったけど。いつもどおりだと思ってたのに。なんでクロにバレちゃうかな……。
「……。」
「悪い悪い、聞きたい事はそんだけ」
「そう」
「あ、あの……葵ちゃんって誰っスか?まさか女っスか!!? 黒尾先輩の彼女サンですかぁぁあああ!?」
研磨の機嫌が悪くなりそうだったので、黒尾はここで話を終えようとしたが、何故か山本が喰いついてきた。研磨の方をチラ見すると、「げっ」というような不機嫌そうな表情をしていた。
「ぶー。俺じゃなくて研磨の彼女ね」
「え」
「はぁぁああ!? け、研磨の!? おおおおお前、お前、お前、彼女いたのか!?」
「居ないけど」
「……え?」
「クロ、変な事言わないで」
「へいへい」
「じゃあ葵ちゃんって誰なんスか? 女の子ですよね?」
「うし、俺も休憩おーわり。ブロック練習するから山本スパイク打って」
「うす! ……じゃなくて葵ちゃんって誰なんスか!?」
「山本うるさい」
「すまん研磨!」
じゃなくて葵ちゃんって誰ぇええ!?
(そういえば葵がクロの髪型を面白いって言ってた)
(ほー、やっと俺の魅力に気付いたか)
(葵ちゃんって誰なんスか!?)
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