9、噂の美少女









授業がやっと全部終わってようやく放課後になり、部活へと向かう前に研磨を迎えに一年廊下を歩いていると、


ふと、見覚えのある綺麗な黒髪を見つけた。



彼女は移動教室の帰りなのか、腕の中に教科書一式を持っていた。




凛とした顔立ちに、
真っ直ぐな姿勢。



うちのクラスの男子が一年に美少女がいるとか何かで騒いでいただけはある。しかし俺はその噂の美少女を実際に見た事が無かったので、その時は興味が無かった。だが、その噂の美少女が研磨の部屋に居たとなれば話は別だ。研磨の友達って聞いて驚いたし、一気に興味深くなった。




実際に会ってみて驚いたのは

想像以上の「美少女」だったという事だ。


信憑性のない噂話はなるべく信じないようにしている。己の目で見たものしか信じないというわけではないが。




「美少女」だった、とまるで過去のように俺が言っているのには理由がある。噂の彼女が美少女であると同時に、実はゲームオタクだという事実を知ってしまったからだ。しかも暇さえあればゲームがしたいと言う程の熱っぷりだ。





「(あんだけの美少女なのに、ゲームの事になると性格が変わる)」



顔は良いのになぁ……そんな事を思いながら、廊下を歩いている彼女の後を静かに追いかけて、肩をトントンと叩いた。


案の定、噂の美少女である葵ちゃんは後ろを振り向いてくれた。






「どーも、葵ちゃん」

「あ、クロ先輩。こんにちは」


こっちを振り向いた彼女は、やはり息を飲み込むほど綺麗な子だった。それがゲーム一つで豹変するんだから驚きだ。学校ではあまりゲームが出来ないからあまり素が出ないんだろうな。






「研磨を迎えに来たんだけど、もう教室にいる?」

「研磨君なら、課題のノートを出しに職員室に寄ってから戻るらしいです。もう少ししたら教室に来ますよ」

「そっか、じゃあ待つか。あ、葵ちゃんちょっとお話ししようよ」

「? 別に構いませんよ」

「ていうか葵ちゃんて本当、ゲームしてる時と雰囲気違うよなー。今の方が凛としてていいのに」

「え。そんなに違います?」

「ウッソ、自覚なし?」




まさかそんな。





「ゲーム好きな事は別に隠してませんし、私としては普段通りなんですけど、そんなにも違うんですね」

「まじかよ、全然違う人みたいになってるんだけど?」

「そうなんですか……まぁどう見られてもいいんですけど、なんだか複雑な気持ちです。どっちも私なんですけどね」

「うーん」

「クロ先輩?」

「俺、君のそういうとこ好き」

「え?」

「俺実はさ、葵ちゃんて猫被ってるんだと思ってた。学校では優等生の皮を被ってるんだって、俺ずっと誤解してたごめん。やっぱり噂を信じちゃ駄目だねぇ」

「……よく分かりませんけど、私はきっとゲーム以外の事に興味がないんだと思います、どういう噂か知りませんけど、こればっかりは仕方ないですね」

「あー、だからか」

「クロ先輩、クロ先輩」

「うん?」

「クロ先輩から見て、私って優等生に見えますか?」

「くくっ……全っ然!ゲームしながら「くらえ超乱舞!」って言う奴は優等生じゃないねぇ」

「つい口に出ちゃうんですよね」

「ホント、葵ちゃんて面白い」




こりゃ研磨とも気が合うはずだわ。

アイツも葵ちゃんといる時は楽しそうだったしな。研磨があんなに喋るのって久しぶりに見た気がする。なんつーか、ゲームってすげぇな。




ていうか葵ちゃん凄い。






「なぁ葵ちゃん」

「はい」

「研磨の事、よろしくな」

「よろしく?」

「仲良くしてやってくれって事。」

「勿論です、あんなに気が合うゲーム友達は他にいませんし。こちらこそ私と仲良くして下さい、ですよ」




えへへ、と葵ちゃんは笑った。

あー、この子はこういう笑い方するんだなと、思わずつられて俺も笑ってしまった。周りは葵ちゃんの事を「美少女だ、優等生だ」なんだって騒いでるけどこの笑顔が一番可愛いんじゃねーか?









(二人共、何してるの?)
(研磨君、これからもよろしくね)
(へ?……クロ、何言ったの)
(別に?)



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