8、幼馴染という存在
「おーい研磨ぁー、電子辞書貸してェ」
「ん?」
研磨君のお家で、二人で黙々とゲームをしていたら、いきなり部屋の扉がバンッ!っと開いて、背の高い男の人がずかずかと入って来た。
(あ、もしかして研磨君のお兄さん?)
だったとしたらちゃんと挨拶しなくちゃ。
「あの、こんにち……」
「ん? あれ? え、 女の子!? な、なんで研磨の部屋に女の子が……!!」
「クロうるさい。ごめん葵、ちょっとゲーム止めていい?」
「う、うん」
「うっわー、何この子……研磨お前どこで拾ってきたんだよ」
「拾っ……?」
ゲームを中断して携帯ゲーム機をテーブルの上に置くと、部屋に入ってきた男の人は近付いてきて私の顔をジロジロと見てきた。そんなに真っ直ぐに顔を見られると、どうしていいのかわからないので大人しくしている事にした。
まさか研磨君にお兄さんがいたなんて、それにしても研磨君に全然似てないなぁ。研磨君のお兄さんと睨めっこをしながらそんな事を思っていた。
「ほぉー、へェー」
「……。」
研磨君のお兄さんは動かない私の頬を突いたり、顎をクイっと上げて見つめてきた。すぐ目の前には研磨君のお兄さんの顔があった。それにしても近過ぎではないだろうか? これってどうしたらいいの?
なに?
なにこれ?
ちゅーされるのか?
いやいや、勘弁して下さい。
私のファーストキスはまだ誰にも渡すつもりはありません。いや、恋愛ゲームでは何回もキスしてますけれども。むしろキスからストーリーが始まるといいますか。いやいやそういう問題じゃなくて、ゲームと現実の区別は流石に出来ているし……いやでも、こういう場合はゲームとは違うわけで何の役にも立たないし……えっと。
「ちょっとクロ何やってるの。はい辞書」
「ああ、悪ィな」
「……。」
研磨君のお兄さんは私から少し離れて、研磨君から電子辞書を受け取っていた。
「(そろそろ離れてくれないかなぁ)」
研磨君のお兄さんは、何やら私の事が気になるご様子。いやいや、そんなに見ても何も面白くないですよ?
にしても面白い髪型だなぁ、どうなってるんだろ。
「んで、研磨? この子誰?」
「(いや、貴方が誰なんですか)」
ちょっと、頭を撫でないで下さい。
あと匂いを嗅がないで下さい。
「うわぁ、髪の毛サラサラだねぇ、君」
「(ひいぃ……。)」
「研磨の知り合い?」
「同じクラスの如月葵さん」
「如月です……」
「研磨と同じクラスねぇ、そんだけ?」
何を思ったのか、研磨君のお兄さんは研磨君から私へと視線を向けた。どうやら私に聞いているようだ。
「……と、友達です」
なんだか尋問されているみたいで嫌だったけど、友達なのは本当だし正直に答えた。
ああもう、早くゲームがしたい。
「は? 友達? 研磨の彼女じゃねーのか?」
「違う、何言ってるのクロ」
「いやだって、研磨の部屋に女の子がいるなんて初めてだし」
「(あ、初めてなんだ)」
「彼女じゃないよ、葵はゲーム友達」
「いやいや! 研磨はまたそんな冗談を……」
「あの、私、ゲーム友達です」
「は? なんだそりゃ? ……って、あーなるほどね」
背の高い男の人は、私達の目の前にある携帯ゲーム機に気付いて、何かに納得したみたいだ。
これは……一応信じて貰えたのだろうか。
「まぁいいか。俺2年の黒尾鉄朗、よろしく葵ちゃん」
「あ、研磨君のお兄さんじゃなかったんですね……如月葵です。よろしくです」
「……クロは幼馴染、あと同じバレー部」
「バレー部の先輩?」
この人もバレーをするんだ。
背が高いなぁ……。
ちょっとバレー部、見に行きたくなってきた。
「さてと」
「……ねぇ、クロ何してるの?」
黒尾は部屋から出て行こうとはせず、躊躇する事なく自然に葵の隣に座り、テーブルの上に筆記用具を置いてワークノートを広げていた。
「何って課題。辞書をここで使った方が後で返しに行く手間がいらないだろ?」
「…………。」
「え……何? 研磨ってば、俺がいるとお邪魔だった? (小声)」
「!、別に」
「ほぉ」
「……葵、クエストの続きしよう」
「う、うん」
黒尾先輩、普通に居座ってるけど普段からこんな感じなのかな? 私には幼馴染という存在がいないから分からないけれど、お互いの家に出入りしたり、これが彼らの普通なのかもしれない。
イレギュラーなのは私かなぁ。
(敵、弱ってきた。葵行ける?)
(これ捕獲クエだっけ、うん任せて)
(……君ら仲良いなぁ)
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