石垣の白さが太陽を受け、自ら存在を主張しているよう。
大鳥城はそんな城だった。


「これが大鳥城‥‥こんなに広いんですね‥‥」

「楓殿、見えますか?舘の山の西‥‥この城は父上の指揮の下、あちらの尾根を切り、土塁を築き、清水井戸を掘って築いたものです」

「え、山を切ったんですか?」

「ええ」


この時代に、山肌を削り取るなんて、どんなに大変な事なんだろう。
それがこの時代の当たり前なのかは分からないけれど、少なくとも私がいた時代のように機械がある訳でもない。

なおも続く三郎さんの説明にゆっくりと耳を傾けているうちに、どんどん山を登って行く。

眼下に広大な大鳥城が広がり、その更に下に大地。
そこにも人が住んでいるのだろうか。
ここからだと、手付かずの自然のようにも見えるけれど。


三郎くんは赤くなりながらも「危ないから」と手を差し出してくれた。
心遣いに感謝しながら手を繋ぎ、山道を踏みしめ、その間に色んなことを話した。

舘の山の地理。
此処が奥州平泉に近いことも教えてくれた。

そして佐藤家が主として仕えている、奥州藤原家の事。
御館みたちと呼ばれる人が奥州の頭領で、藤原秀衡と言うらしい。
奥州藤原家と言えば、歴史のテストが赤点スレスレの私でも聞いたことはある。
ただ、現在の頭領だという藤原秀衡ひでひらが何をした人か‥‥そこまで覚えてなくて、それが歯痒かった。


‥‥‥知っていたら、何かが変わるような気がしてならないのに。


妙な焦りを感じ始めた私の足元にひらりと舞い落ちる一枚の葉。
その葉を何気なく拾うと、三郎くんも足を止めた。

それは秋になると紅に色付く葉。

今は夏の終わり、まだ若葉色をしている葉が散るのはちょっと珍しいかも。


「楓の葉ですか‥‥楓殿が楓の葉を手になさるなんて、趣がありますね」

「それって趣と言っていいの?名前がたまたま同じなだけじゃない」

「ああ、楓殿はご存知ないのですね?」

「え?知らないって?」

「貴女に楓と名を付けた理由を」

「‥‥?基治さんからは『今日から楓と名乗るが良い』とだけしか‥」


三郎くんは私の言葉に、困ったように笑う。
それから、「くれぐれも四郎には内密に」と口元に人差し指を当て、話し出す。


「最初に貴女を楓と呼んだのは、四郎です」

「‥‥四郎?」

「ええ。諱だと名を呼ぶのに困る、と父上のお言葉に、ならば楓と呼べば良いと」


初耳。

どう反応すればいいか分からなくなって、私は三郎くんをじっと見た。


「父上は、何故に花でなく葉なのだと訊ねられて、あいつは‥‥‥‥」

「どうしたの?」

「私が申せるのはこれまでです。続きは当人に」

「え?」


言いかけた癖に途中で区切られて、気になるんだけどと三郎くんを睨むと、バツが悪そうに首を竦めていた。
‥‥まぁいいかと思わせるような、可愛さ。


「迎えが来ました」

「え?」


山道の下の方を指し示す手の動きに従って私も下を見れば、葉色と土色に溶け合わない黒が揺らめいていた。

こちらに向かって坂を上っているらしいと分かると同時に、何故彼が此処まで来たのかを疑問に思う。


「四郎?」


三郎くんに会いに来たのだろうか。
女房達が二人は仲のよい兄弟だと教えてくれた位だから、本当に仲がいいんだろう。

四郎は私達の前まで登ってくると、息を切らした様子もなく濡羽色の髪を背後に振り払い、それから三郎くんに一礼した。


‥‥‥あれ?

  

*戻る*

MAIN
 


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -