1歩ずつ | ナノ


▽ 2話


『……』

あれからどれくらい経っただろう。
あの日は行ってきますと言って出て行った登校も今じゃ言わなくなった。
一人暮らしだから普通かもしれないけど。

朝の6時半、私はいつもこの時間に家を出るようにしている。
春といっても早朝の時間じゃ制服1枚じゃまだまだ肌寒くて、セーターを着てマフラーを巻く。
この早い時間なら大きい通りも人通りが少なくて他人が苦手な私にはとっても好都合。
学校まで徒歩30分あるけど人がたくさんいる電車にはとてもじゃないから乗れないけど、出るのが早いから学校に着くのだって7時を少し過ぎるくらいで、まだまだ早すぎる時間だ。

『おはようございます』
「おはよう、今日も相変わらず早いわねー」

真っ先に向かった保健室で半分呆れ気味に笑ったこの人は養護教諭の川瀬伊代先生。
実は入学式の次の日風邪を引いて2〜3日休んでしまって、治ってから登校はしてみたものの、教室の入口を覗くと既に登校していた人たちは仲良く話をしていて。
ここに私が入ったらどうなるのかとか、既に出来ているグループや教室の雰囲気に溶け込めるのかとか、他人が苦手なことも手伝ってか色々不安で怖くて結局逃げ出した。

『これ以上遅くなったら登校できません…』
「でもここへ来るだけでも成長したんじゃない?」

その他人が苦手な私が何で先生とこうやって話せるのかというのは、実は伊代さんは私の伯母さんにあたる人だから。
私の対人恐怖症はまだ軽い方で、家族や身内とは普通に接することができるし、私自身が他人を見ることに関しては全然大丈夫で、引きこもりになるほど重度のものじゃない。
ただ、私自身が他人から見られるのは怖い。
だから私は高校を選ぶときに伊代さんが養護教諭として働いているこの秀徳高校を選んだ。
何かあったら遠慮なくおいでと言われていた保健室にこんなに早くからお世話になるなんて情けない…

『我儘言ってこっちの高校に通わせてもらってますから』
「そうね、まあゆっくり頑張ればいいわよ。この環境だって涼香ちゃんが頑張ったからあるんだから」

幸い、私は中学の時に対人恐怖症になって以来、そのストレスを何かで発散したくて、対人恐怖症だってことから目を逸らしたくて暇があればほとんどの時間を勉強にあてていた。
そうすれば自然と学力は上がり、秀徳の入試では好成績を残したため…それから伊代さんからの学校長への申し出のお陰で特例として保健室登校が許されたのだ。

確かに今考えればそのお陰で保健室登校の形ではあるけどちゃんと登校できてる。
でもこのために頑張ったわけじゃないから…何だか自分が腹立たしい…

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