絶体絶命(1/2)
カチャンと音を立てて外れた鍵を、安室はゆっくりと外して蔵の扉を開けた。
「・・・・・・」
ギィッと音を立てて開く扉。
真っ暗な蔵の中に開けた扉から光が徐々に入れば、蔵の奥で何かがあるのが見えて目を細めて安室はゆっくりとそれに近づいた。
ゆっくりとした足取りで近づいていた安室だったが、半分くらいまで歩いて目を見開き、慌ててそれに近づいた。
「りゅうさん!!?」
ぐったりとして倒れていたのは先ほど探していたりゅうで・・・
安室はスッと彼女に触れると息を飲んだ。
「冷たい・・・」
どのくらいの時間、ここにいたのかと思わせるほどに彼女の体は冷たくて、口元に耳を近づけると聞こえてくる微かな呼吸音に一先ずホッと胸を撫でおろした。
しかしこんな所で長居をすれば命に関わると安室はりゅうを抱き上げた。
するとギィッと音を立てて閉まる蔵の入り口に慌てて駆け寄るが、パタンと閉じてしまう。
りゅうを一度床へと座らせて、ダンダンと扉を叩くが、ガチャンと音が鳴り、去っていく音が聞こえて思い切り扉を殴りつけた。
「くそっ!!!」
ーーーダンッと大きな音を立てるがびくともしない扉に安室は諦め、すぐにりゅうへと近づいた。
「・・・・?服が・・・」
服が異様に冷たいことに気が付き服を触ればパリッと氷のような霜になっていた。
「まさか水をっ・・・!?」
安室は一瞬考えたが、このまま水で一度濡れた服を着せておくのは体温を奪うだけだと深呼吸した。
「すみません・・・りゅうさん」
失礼します、と呟いた後、服を脱がし始めた。
上の服と、ズボンを脱がし、下着姿になった彼女をできるだけ見ないようにしながらスッと下着に触れて確かめた。
「下着までは濡れてないみたいですね」
ホッと息をついて安室は自分の上着を脱ぎ彼女に着せ、毛布で包んだ。
足の間に彼女を座らせて服で体を包んでない場所はできるだけ肌がくっつくようにしてギュッと抱きしめた。
肌に触れる彼女の体は氷のように冷たくて、安室は一瞬言葉を詰まらせた。
「っ・・・・・りゅうさん・・・・」
そうだ、携帯・・・と思い出して取り出すが、圏外の表示。
「くそっ・・・・」
こうなったら誰かに見つけてもらうのを待つしかない。
徐々に熱を冷凍庫で奪われるのを感じながらしっかりと腕にりゅうを抱きしめた。
「・・・・・・」
どのくらい経っただろうか。安室の体も寒さに震え始めた頃、りゅうの目がピクッと動いた。
それに気が付いた安室は必死に声をかけた。
「りゅうさんっ・・・りゅうさん、わかりますか?」
りゅうさん!と声を掛けながら身体を少しでも温めようと安室は毛布でりゅうの身体をさすり続けていた。
「・・・・・・・寒い・・・・」
呟いたりゅうの言葉に安室はホッと息を吐いた。
「寒さを感じているのならまだ大丈夫です・・・よかった。目を覚まして・・・」
「・・・・・・・」
まだ目を覚ましたばかりのりゅうは意識が朦朧としていて視点が定まっていない。
「りゅうさん、何か話していましょうか・・・」
きっと毛利さんたちが助けに来てくれるはずです。と安室は体を震わせながら力なく笑った。
「助け・・・?」
「えぇ・・・だから・・・」
もう少し頑張ってくださいと言う安室の顔にりゅうはソッと手を置いた。
頬に手を置くりゅうに安室は首を傾げた。
「りゅうさん・・・?」
「にぃー・・に・・・」
「え?」
「にぃーにっ・・・ごめんねっ・・・私をっ・・護ろうとしたばっかりにっ・・・ごめんねぇっ・・・・」
「りゅうさん・・・・?」
りゅうの様子がおかしいことに安室は気が付いて目を見開いた。
「にぃーにっ・・・私がっ・・・私なんかがっ・・・妹でっ・・・ごめんっ・・・」
「・・・・・・」
ポロポロと涙を流しながら安室を見上げて、頬をスルッと撫でるりゅうに安室はズキンと胸が痛んだのが分かった。
ギュッと頬に置かれた彼女の手を握り「大丈夫・・・」と呟いた。
「にぃーにっ・・・苦しかったっ・・よねっ・・最後までっ・・苦しんでっ・・・医者に聞いたのっ・・・にぃーにはっ・・・苦しんで死んでいったってっ・・・・私のせいっ・・・」
「違う・・・・」
「私なんかがっ・・・居たからっ・・・母さんもっ・・・父さんもっ・・・にぃーにもっ・・・死んだんだっ・・・・」
「違うっ・・・・・」
「私なんか・・・生まれてきちゃっ・・・いけなかったっ・・・・あの優しい家族をっ・・・不幸にしただけのっ・・・死神っ・・・・」
ふっ・・・うっ・・・と涙を流すりゅうに安室はギュッとりゅうを抱きしめた。
「違うっ・・・お前のせいじゃないっ・・・白夜が死んだのもっ・・・あの人たちが死んだのもっ・・・お前のせいじゃないっ・・・」
「にーにっ・・・・・ずっと・・謝りたかったっ・・・・ごめんっ・・・苦しめてごめんっ・・・私が妹なんかでごめんっ・・・一人っ・・・私だけがっ・・・生きててごめんねぇっ・・・・」
「りゅうっ・・・・・・」
そんな風に、あなたはずっと自分を責めて生きてきたんですか・・・?
ずっと・・・謝り続けてきたんですか・・・?
ただ・・・生きているというだけで・・・それほどまでに罪悪感を抱きながらっ・・・
安室は今まで知らなかったりゅうの内側を見た気がした。
「りゅうっ・・・・・」
今だけでも・・せめて君を救えるのなら・・・・
「大丈夫だよ・・・りゅう。そんな事・・・考えるなっ・・・俺は・・・俺も父さんも、母さんもっ・・・お前が家族で・・・幸せだったっ・・・・」
俺たちの方こそ、護れなくて・・・一人にしてごめんなっ・・・と安室は彼女の兄のフリをした。
「・・・・幸せ・・でしたか?にぃーにはっ・・母さんはっ・・・父さんはっ・・・」
「あぁっ・・・幸せだったよっ・・・お前と家族になれてっ・・・今もずっと・・・お前の幸せだけを願ってるっ・・・」
安室がニコッと力なく笑うとりゅうはフワリと笑った。
目に涙を溜めたままだったが、その笑顔に安室は優しく笑い、頬に伝う涙を拭った。
「・・・仇っ・・・取るからっ・・・絶対にっ・・・あいつをっ・・・ジンをっ・・・・」
そう言ってフッと意識を失うりゅう。
「っ・・・・」
意識を失う直前に彼女が言った言葉に安室は目を見開いた。
「今・・・なんて・・・?」
ジン・・・彼女は確かにそう言った。
安室は停止しそうな思考を必死に働かせた。
「っ・・・今はそんな事考えてる場合じゃないっ・・・・」
気になったりゅうの言葉、だが安室は今考えることではないと首を振った。
「りゅうさんっ・・・起きて・・・起きてくださいっ・・・・」
必死に摩るが、彼女は震わせていた身体すら反応しなくなり、徐々に呼吸も脈拍も小さくなってきた。
「くっ・・・早くっ・・・早く見つけてくださいっ!!!」
そう叫ぶと同時にギィッと開かれる蔵の扉。
「安室さん!!」
「おい!大丈夫か!!?」
コナンの声と、小五郎の声に安室はフッと笑い、ゆっくりとその場に倒れこんだ。
「お・・そいですよ・・・。先生・・・コナン君・・・・」
「安室さん!!」
コナンが慌てて安室に駆け寄った。
「僕は・・・大丈夫ですっ・・・彼女をっ・・・」
「え!?」
安室の言葉にコナンは毛布に包まれ、しっかりと安室が抱きしめている人物に目を見開いた。
「りゅうさん!!?」
「え!?」
コナンの声に蘭も慌てて駆け寄った。
「早く救急車!!!」
小五郎が叫べばすぐに電話を掛けだしたのは園子だった。
「わぁぁぁぁあああ!!ごめんなさいっ・・・ごめんなさいっ・・・・」
彼女はきっと助からないと泣き出したのは、この別荘で起こった殺人事件の犯人の女の人だった。
コナンへとラケットをぶつけた張本人だ。
蔵から支えられて安室は出ると腕の中にいるりゅうを毛利へと手渡した。
「早くっ・・・脈が弱いんです・・・」
「安室さんも早くこれを・・・・」
小五郎がりゅうを持ってきた毛布で何重にも包む。
そして蘭も慌てて安室へと毛布を渡した。
「彼女・・・僕が見つけた時にはもう・・・かなり体が冷えていてっ・・・水を掛けられたみたいでっ・・・・」
安室の言葉にさらに泣きじゃくる女のひと。
「ごめんなさいっ・・・彼女がっ・・・私が落としたネックレスを見つけてしまってっ・・・気が動転してっ・・・・」
何も考えず、ただ足止めさせるために水を掛けて閉じ込めたのだと言った。
「・・・はや・・く・・・」
そういって安室は意識を失ったーーー
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