偽装(2/3)
そこから事が運んだのは早かった。
直ぐに沖矢は変装を解き、8号車へと向かった。
りゅうは赤井の姿で長居するのはまずいという事で、すぐ近くの部屋で待機した。
今は火事騒ぎがある為、どの部屋も大体開いていて、全員が前の車両の方へと避難しているので可能だったのだ。
直ぐ近くで爆発音が聞こえ、その後にもう一度先ほどとは違い大きな爆発音がした。
列車の結合部分を爆破し、貨物車を切り離し、離れた所で哀ちゃんが乗った貨物車を爆破させる・・・・予想通りだ。
ボウヤが予想し、赤井が予想した内容はどれも完璧で・・・恐らく有希子さんがシャロンを騙す為にする演技も見てはいないが完璧だっただろう。
「・・・・末恐ろしいわね」
赤井はもちろん、ボウヤの思考も相当なもの・・・赤井が死ぬ原因になったトリックもそもそもボウヤが考えていたのだと言っていた。
ここまでどれもボウヤの読み通りに進むことはある意味恐怖に値する。
「・・・・ベルモットがシルバーブレットと期待するだけの事はあるよね・・・・」
ボウヤと赤井、二人はやはり想像した通り・・・いいコンビだとフッと笑った。
ガチャッと扉が開く音がしてそちらを向けば赤井の姿。
「・・・・うまくいった?」
「あぁ。バーボンがこれで俺の死を不審に思い調べなおすだろう」
「それってさぁ・・・意味ある?」
態々危ない賭けに出なくともよかったんじゃないか?と問えば赤井はフッと笑った。
「恐らくバーボンは黒でなく白。ただ決定打がない。それを知る為でもある」
「・・・・本当に安室さんが黒だったら?」
あなたが生きていること、奴らにもバレるわよ?
「その時はその時さ」
いやいやいや・・・;その時はその時と言っても・・・一番危ないのは水無怜奈なんだけど・・・;
そう思うがまぁ、安室さんが白だと確信めいたものがあるのだろう。赤井の事だし、大丈夫だと思い、小さく息を吐いた。
「まぁいいや。早くメイクするよ」
そう言って赤井を座らせてスゥッと頬へと手を当てればいきなりその手を掴まれた。
「へ?」
グイッと引っ張られて体勢を崩し、赤井の方へと倒れ込んだ。
「ちょっ・・・いきなりなにすっ・・・んっ」
危ないでしょうが!と顔を上げて言おうとしたが、口を急に塞がれた。
「んぅっ・・・ちょ・・・あか・・いっ・・・」
「・・・・少し黙ってろ」
こんなことをしている場合じゃない状況下、分かってるのか!?と言いたくなり、抗議の声を上げようとするが、赤井にピシャリと言われる。
「んっ・・・はぁ・・・」
真っすぐにこちらを射抜く翡翠の目に、徐々に力が抜けて、顔も真っ赤になっていくりゅうに赤井はフッと笑った。
ーーートサッと椅子へと押し倒されて両手を顔の両サイドに抑え込まれた。
「赤井っ・・・」
今こんなことしてる暇ないんだってば!一刻も早く沖矢昴に変装しないと危ないのはあんたなのよ!?と言えば唇が触れるか触れないかの距離でジッとこちらを見つめる赤井。
「っ・・・・あの・・・聞いてます?」
全く反応せず、ただただ目を見つめてくる赤井に顔を真っ赤に染めるしかないりゅうだったが、なんとかこの状況を打破するために恐る恐る口を開いた。
「赤井・・・?」
微動だにしない赤井を不審に思いもう一度名を呼び、首を傾げると、彼はピクッと眉を動かした。
「秀一・・・・」
「へ?」
「赤井じゃなく、名で呼べ・・・・」
「はっ!?」
その言葉にまたも真っ赤に顔を染めるりゅう。
「沖矢昴の時は名で呼んで、俺の時は苗字か?」
「・・・・・・あんた自分自身に嫉妬でもしてるわけ?」
バクバクとうるさい心臓を必死に抑えて、りゅうは顔を朱に染めながら呆れたように言えば彼はフッと笑った。
「悪いか?」
その笑みが少し寂し気で・・・・
胸がギュッとしたのが分かった。
「っ・・・・・しゅ・・ぅ・・・いち・・」
「もう一度・・・・」
小さく、途切れ途切れに言えば、彼から催促のお言葉が・・・
「ぅ〜・・・・・」
「りゅう・・・」
顔を真っ赤にしたまま唸れば、赤井は愛おしそうに私の名を呼んだ。
「っ・・・・・」
「りゅう・・・・」
口を閉ざし、真っ赤なりゅうの頬へとチュッと小さく口づけを落としながら、何度も名を呼ぶ赤井。
それに対して、徐々に鼓動が早くなる。
「〜〜〜っ・・・・」
「りゅう・・・お前に呼んでもらいたいんだ・・・・」
どこか寂し気な目に、懇願するような言葉ーーー
いつものように、先ほどのように「呼べ」と言わずにそんな事を言う赤井に・・・悲し気な彼に困ったような表情をするりゅう。
スゥッと彼の頬へと手を伸ばしスルッと彼の頬を撫でれば、目を閉じ、その手を握る彼にフッとりゅうは優しく笑った。
「大好き・・・・秀一・・・・」
「っ・・・あぁ、俺もだ。りゅうっ・・・」
ギュッと抱きしめられてそれに応えるようにりゅうも抱きしめ返した。
「自分自身に嫉妬とか・・・変な人・・・」
「昴は俺であって俺じゃないんでな・・・嫉妬もするさ」
「・・・昴のあなたにも漸く慣れたし、安心はするけど・・・やっぱりあなたがいいな」
そう言って寂し気に笑うりゅうに、赤井はチュッと額に口づけを落とした。
「このヤマが終わったら・・・赤井秀一としてずっとお前の傍に居る」
約束する。と赤井はりゅうの耳元で囁いた。
「うん・・・・」
・・・・・ってちょっと待て!今あれからどの位経った!?その場の空気に流されてしまったが、こんな事をしている余裕はないはずだ。
そもそも火事騒ぎが嘘だと分かれば乗客が戻ってきてしまう恐れもあるし、きっと次の駅で停まるだろう。
早く赤井を沖矢昴に変装させなければと思い、慌てて赤井を押しのけた。
「ってか!早く変装!」
「・・・・・お前は切り替えが早いな」
慌てだすりゅうに赤井はやれやれと溜息を吐きのんびりと言う。
「特殊メイクにどんだけ時間かかると思ってんの!!?」
あんたは他人事だと思ってのんびりしすぎ!と騒ぎ、慌ててメイクに取り掛かった。
「りゅう」
「今話しかけないで」
次の駅に着くまでの時間との勝負なのだ。気が散る。と言えば彼は小さく溜息を吐いた。
10分程してメイクが終わり、りゅうは間に合ったと項垂れた。
りゅうが項垂れている間に沖矢は元の服へと着替えて変声機も装着し、声も変えた。
「お疲れ様です」
「・・・・そう思うならこんな所で時間ロスしないでくれない・・・?」
頼むから場所を弁えろと言えば沖矢はフッと笑った。
「折角元の姿になったのだし、どうせなら早くあなたに名を呼んでほしくてね」
「家でしてくれ・・・頼むから・・・」
こんな所でそんな事をすればリスクが高すぎると言えば彼は「あぁ、その事なんですが・・・」と口を開いた。
すると次の瞬間ーーー
ガチャッと扉が開いて、りゅうは驚きそちらを向けば、有希子の姿があった。
「やっほー。りゅうちゃん!」
「あ・・・有希子さん・・・吃驚しました」
有希子の姿を見てホッとするりゅう。
「駅に着きそうなんだけど、皆一号車から降りるから、りゅうちゃんと昴君は皆居なくなるまでこの部屋に居てね!」
ニコッと笑いながら言う有希子に、りゅうは「え?」と首を傾げた。
「あら?昴君言ってないの?」
「言おうとしたんですけど話しかけるなと言われてしまって言えなかったんです」
「は?何?」
有希子と沖矢の言葉に困惑するりゅう。
「この特急車の責任者の人が私の大ファンでね!警察に関わってマスコミにばれたくないって言ったら協力してくれるって言ってくれてね!」
だから、私とりゅうちゃんと昴君はこの部屋で皆が警察に行って居なくなるまで待機しててくださいって言ってくれたのーっと笑顔で言う有希子さん。
「・・・・え?じゃぁ何?慌ててあんたのメイクしなくても十分余裕があったって事?」
「言おうとしたんですけどね」
あぁ・・・確かに何か言おうとしてたのを私が話しかけるなと言ったな・・・そう思ってハァーっと疲れたように項垂れた。
「りゅうちゃん、警察嫌いだって聞いてたし、関わりたくないだろうなーっと思ったし、昴君はそもそも戸籍もないしね」
有希子さんの言葉に「助かります」と返して、りゅうは、そう言えばそうだったと思った。
次の駅が云々と言うよりも、警察の事情聴取にこいつが行けるわけがない。なぜそこまで頭が回らなかったのか・・・・いや、そもそもそんな話を聞いていなかったと思い、昴を睨めば彼は肩を竦めた。
「言おうとしたのに聞かなかったあなたが悪いです」
「・・・・・ソウデスネ」
まぁそれももっともだと思いりゅうは諦めたように項垂れた。
疲れた・・・精神的に疲れた・・・だが事情聴取に出向かなくていいのは有難かった。
警察に行き、事情聴取ともなれば安室さんと顔を合わすことになる。
逃げたくないとは言ったが、やはり顔を合わすのは避けたいのは事実・・・・
昴もそれが分かっていて有希子さんにお願いした部分もあるのだろうと思い、有希子と話している昴を見てフッと笑った。
偽装(そう言えば昴君、私がやるはずだった変装をりゅうちゃんに急遽変えて本来の目的は達成できたのかしら?)
(は!?)
(えぇ・・・ずっと願っていたことが叶いました。急に変更してしまってすみません)
(いいのよー!若いっていいわね!)
(は・・・?あ・・・そういえば最初有希子さんが昴のメイクする予定だった・・・ね)
(あなたはやはり、頭が切れるのか抜けてるのか分かりませんね・・・)
(うっさい!)
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