偽装(1/3)
「なんか騒がしくない?」
ベルツリー急行のある一室にて、沖矢、りゅう、有希子の三人は部屋の外が騒がしいのに気がついた。
沖矢が立ち上がりスゥッと小さく扉を開けて窺えば安室の姿に蘭達の姿があった。
その会話に聞き耳を立てればなんでもこの列車内で殺人事件が起きていると言う。
「・・・・またかよ・・・;(事件ホイホイ)」
りゅうは小さく溜息を吐く。
扉を閉めて沖矢はクスッと笑った。
「どうやら天は我々に味方しているようですね」
有希子はその言葉に笑みを浮かべコナンへとメールを打っている。
「後は・・・哀ちゃんがこの事態に気がついた時、どう行動するかねぇ・・・」
窓の外を見ながら頬杖をつき言えば、沖矢はそれは問題はないと言う。
「え?」
「恐らく、彼女の事です。きっと・・・・」
そう言って沖矢は笑みを深めた。
りゅうはよく分からず、首を傾げるが、まぁいいか。と外の景色を眺めていた。
「・・・そろそろね。じゃぁ私は仕掛けてくるわね。赤井君に変装しているであろうシャロンにね。その後は合図があり次第哀ちゃんが逃げ込むであろう場所に待機してるわ」
有希子さんがそう言って部屋を出て行けば、りゅうは沖矢へと声を掛けた。
「ねぇ」
「はい?」
「本当に今有希子さんに言った部屋に哀ちゃんくるの?」
「恐らくは・・・・」
「なんでそんな事分かんの?」
「・・・・・姉妹だから・・・ですかね?」
あぁ、宮野明美と姉妹だから・・・そう言う事ね。
「・・・そりゃ三年?二年?ずっと一緒に居たんだもんね。行動位分かるだろうけど・・・哀ちゃんが同じ行動するかね?」
「問題はないと思いますよ?今まで見てきて彼女が行動してきたのを見ていれば・・・明美と同じように人を巻き込むまいと一人の方へと行くはずです」
「・・・・・あっそ」
フイッと素っ気なく返せば沖矢は苦笑いした。
「妬いてます?」
「はっ!?」
慌てて馬鹿じゃないの!?と叫ぼうとすれば沖矢の手で口を塞がれた。
「シッ・・・どうやら来たみたいですね」
扉の外から人の気配がする。
「・・・あんたの読み通りね」
なんか気に入らない。
そう思いながら事の成り行きを見ていれば・・・
沖矢が扉を開けた瞬間、恐怖に怯える哀ちゃんの姿。
「フッ・・・さすがは姉妹だな。行動が手に取るように分かる」
おいおいおい;何更に怖がらせるようなこと言ってんの!?
「さぁ・・・来てもらおうか?こちらのエリアに・・・・」
フッと笑みをさらに濃くし、言う沖矢に哀ちゃんは震え、目に涙を溜めながらも背を向けて走り出した。
「・・・やはり逃げてしまいましたね」
やれやれと溜息を吐きながら部屋へと戻ってくる昴。
「・・・・・・・」
その沖矢を冷めた目で見るりゅう。
「なんですか?」
「あのさ・・・あれで逃げないと思ってるあんたがやっぱおかしいよ」
「逃げると思ったので有希子さんに先回りしてもらうんですよ」
「逃げる前提で考えてるなら逃げないような言葉を選べよって言ってんの!」
あんな風に言われたら怖いよ!普通に!と言うが沖矢は本当に分かっていないのか首を傾げていた。
そんな様子を見てりゅうはガクッと項垂れた。
「・・・あんた哀ちゃんを護りたいの?怖がらせたいの?」
「護りたいから行動してるんですよ」
何を今更と言わんばかりの表情をする昴に一発蹴りを入れておいた。
だったら自分の行動を少し見直してほしいものだとりゅうはもう一度溜息を吐いた。
ピロリンーーーと携帯の音が流れてりゅうは携帯を見れば沖矢も覗いた。
「推理ショー開始・・・だってさ」
「そのようですね・・・・ところでりゅう、一つ、聞こうと思ってたことがあるんですが・・・」
「んー?」
「京都の時、車の中でコナン君の携帯を登録してないと言った時・・・」
沖矢の言葉でそういや、そんな会話したなーと思い出した。
「うん?」
「私のも登録してないと言ってましたよね?」
「あー、うん。ってか電話帳は何も登録してないよ」
履歴もメールも全てその場で消すし・・・そう言うと沖矢は「何でですか?」と聞いてきた。
「え?なんで・・・・携帯がもしかしたら証拠になっちゃ困る・・から?」
「証拠・・・なるほど。なんらかの拍子で携帯が奴らの目に留まった時、赤井秀一の名、私の名があるとまずい・・と?」
「そうそう。まぁそんな事はないとは思うけどねぇー・・・念には念を・・・」
現にボウヤに一度見られてるし、あの時はあんたの名前登録してなくてよかったと心底思ったね。
「随分と慎重なんですね」
「やるからには足がつかないように徹底しないとね?まぁ、今となってはもうどうでもよくなってきたけど・・・」
「はい?」
「私の正体を知ってる人が何人もいる時点で独りの時よりは格段にリスクが高い」
「・・・・後悔してますか?」
「してるかもしれないね。でも・・・なんでかな?リスクは高くなってるはずなのに・・・今の方がずっと気が楽なんだ・・・・」
フッと笑うりゅうに沖矢も優しく笑った。
「それはきっと・・・今は独りじゃないからですよ。全部・・・独りで背負ってた時と違うから・・・」
トンっと沖矢の胸へと頭をつけるりゅう。
「・・・あんたも・・・独りじゃない?私がいて・・少しは楽・・・?」
「えぇ・・・もちろん」
りゅうをギュッと抱きしめる沖矢。
それに応えるように背へと手を回すりゅう。
「りゅうちゃん!昴君!大変!女の子がっ・・・ってあら・・・」
いきなりバンッと部屋の扉が開けば、焦っている有希子さんの姿。
「っ!!」
慌てて沖矢の胸をグイッと手で押しのけて距離を取るが、りゅうの表情は真っ赤で・・・
「クククッ・・・・」
そんな様子に沖矢は喉を鳴らした。
「ごめんね?お邪魔だったかしら?」
困ったような表情をする有希子さんに沖矢が「いえ」と答えた後、どうしました?と問えば・・・
「シャロンったら赤井君に変装してたとこまでは読み通りなんだけど・・・一人の女の子をスタンガンで気絶させて部屋に連れてっちゃったのよ」
「女の子?」
蘭ちゃん・・・にそんな手荒な真似をするような奴じゃない。園子ちゃんも手を出せば近くに居る蘭ちゃんが気づくはず・・・
だとすれば・・・・
「・・・世良真純・・・あんたの妹ちゃんじゃない?」
「・・・でしょうね」
「あら、妹がいるのね?その子の事は任せるわね。哀ちゃんには携帯を上手く渡せたし、隠れてるように言っておいたから大丈夫よ。じゃぁ私は今からシャロンが来るだろう自分の部屋に行ってくるわ」
「はい、分かりました。りゅうはここに居てください。真純を部屋に寝かしてきます」
そう言うと有希子と昴は部屋を出て行った。
「・・・・・ってかよく、真純ちゃんの部屋まで分かるな・・・」
蘭やコナン達の部屋、バーボンの部屋までならまだしも、今日いきなり居ることが分かった彼女の部屋までいつの間に調べたのか・・・;
「さてと・・・・」
窓を開けて身を乗り出せば外から飛んできたものを何とかキャッチした。
「おっと・・・・こっちは変装道具だね」
よいしょっと・・、部屋へと飛んできた荷物を入れて、一息ついたとき、もう一つトランクが飛んできたのが分かった。
「ぅえっ!?」
慌てて身を乗り出し、何とかキャッチして、フゥーと溜息を吐いた。
「まさかこっちも投げるとは・・・;」
有希子さんの私物のトランクも捨てようとした所を見る辺り作戦通りに事が運んでいるとフッと笑った。
有希子さんの部屋と同じ方を向いているこの部屋を取ったのはこの為。
ベルモットが有希子さんの持っている変装道具を外へと捨てるであろう事を予測し、仕掛けてすぐにベルモットが有希子さんの部屋の物を捨てた所を後方にある私たちの部屋でキャッチすると言うもの。
最初そんな無茶な事を言い出したボウヤにヒクッと頬が引き攣ったが、僕もキッド見つけるからさ!と笑顔で言われ、渋々OKを出したのだが・・・
「キャッチ出来て良かったぁー・・・・」
走っている電車の時速が約80`。そしてベルモットが分からないように少し離れた位置に部屋を取った為、飛んでくる荷物の速さにキャッチできる自信はなかった。
その為、とりあえず自分でも変装道具を持ってきたのだがそれは必要はなさそうだとホッと一息ついた。
すると沖矢が戻ってきた。
「無事に荷物取れたんですね」
「まぁね。荷物を取るのをあんたに任せようかとも思ったけど・・・女の私が真純ちゃん運んでたら目立つしねー・・・」
「そうですね。それより手、大丈夫ですか?」
怪我はしなかったか?と心配する沖矢に両手をヒラヒラさせた。
「うん、大丈夫」
「それはよかった。さぁいよいよ終盤ですよ」
沖矢はそう言ってフッと笑った。
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