人間、諦めが肝心(1/2)
結局私の家かよ!!
そう内心ツッコむも、彼はそんな私の心情を知ってか知らずか、黙々と怪我の手当てをしてくれている。
手当の前にシャワーを浴びたいと言えば馬鹿か?という目で見られたがスルーだ、スルー。
「本気で入るとはな」
「手当した後に入れないでしょ?」
あの後、結局公園という希望は却下され、赤井秀一の家に連れて行かれそうになった。
それだけは本当に避けたかったため、渋々仮住まいのホテル暮らしの私の家でという事になった。
ホテル暮らしであるため、家を知られたとしても移ればいい話だと結論付け、だったら私の家で!!と声を上げたのだ。
じゃないと本当にホテルに行きかねないと思ったし・・・・
ははは・・・;と苦笑いしながら自分の不運さにため息が出る。
「終わったぞ」
巻かれた包帯は腕と足。
腕はともかく、足の怪我まで気が付かれてるとは思わなかった。
足は利き腕とかじゃないので結構です、と断れば、遠慮をするなと無理やり手当された。
「・・・セクハラで訴えますよ?」
冷めた眼差しで、足に包帯を巻いている彼に言えば彼はニィッと笑みを作る。
「大嫌いな警察に頼るのか?」
こいつっ・・・私が絶対警察に行かないことを分かっていて言ってるっ・・・・
は・・腹立つっ・・・と思うも、無表情を決め込んだ。
ぶっちゃけ今更平然を取り繕っても遅い気がするが・・・
「(散々、素出した気がするな・・・;)」
色々と心の中でしか言ってなかった言葉も何度か出た気がする。
そんな先ほどのやり取りを思い出しながら、道具を片付けている赤井秀一をボーっと眺めた。
そもそもこの男はなぜ私なんかを追いかけてまできたんだろうか?
怪我の手当てをするため・・・?
いやいや、ないないない、絶対にない。
だとすれば・・・・
「で?」
片付けが終わるころ、一言言葉を発してみた。
すると彼は首を傾げながら何がだ?と言ってきた。
白々しいな・・・・
「怪我を手当するためだけに人にストーカー紛いな行動したわけじゃないでしょう?」
「ストーカーとは随分な言われようだな」
「あら?人の後を着けてきて、店から出てくるのを待ち伏せし、無理やり(痛む)腕を掴んでほぼ強制的に家に上がり込んだ男をストーカーと言わずなんて言うの?」
「怪我が心配でな」
「嘘つけや、心配してる人間が悪化させるようなことするか」
いけしゃぁしゃぁと嘘を言ってのける男に、呆れたような溜息しか出てこない。
「人の好意は素直に受け取るべきだと思うが?」
「あんたじゃなかったら、受け取るかもね?」
「ホォー?」
なぜだ?と言う様に面白そうに笑む赤井秀一。
一般人じゃないのを知ってるもの、なんて言えるわけがない。
「言葉の綾よ、誰であろうと素直に受け取るわけないじゃない」
「・・・お前さん、相当捻くれてるな」
今度は彼が呆れたような、憐みのような目を私に向けた。
「うっさいわ」
もうこの男、本当にめんどくさい。
とっとと本題に入れ、そう思ったがもう自分で振った方が早いと話を振ることにした。
「探り合いはもう十分でしょう?さっさと本題にはいりましょうか?」
「探り合い・・ねぇ?」
「怪我の手当てをして、その代償として何を私から聞きだしたいわけ?」
「・・・はなから俺の好意を疑ってかかっている・・と?」
「どう考えても、初対面の女相手に好意抱くタイプじゃねーだろ」
「酷い言われようだな」
そう言いつつも彼は面白そうにククッと喉を鳴らす。
「悪いけど、話すことなんて何もないわよ」
「一つ聞いていいか?」
「おい、聞けや、今話すことないって言ったでしょうが」
「手当してやったんだ、一つくらい応える位いいだろう?」
「はははっ、頼んでもない手当しといて何様?」
そういうと無言で腕を掴む赤井秀一。
「っ!!分かった!分かったから離せ!!」
こいつは鬼か!そう思い、手当をした腕を摩る。
「お前は・・・敵か?味方か?」
スッと彼が目を細めて探るような視線でこちらを睨む。
こちらも負けじとスッと目を細めた。
「質問の意図が分かんない」
この男、たったひとつだけ答えると言った私に一番的確な質問しやがって。
何者だ?と聞かれれば生ものと答えてやろうと思ったが、やはり想像していた質問を素直にしてくれるわけがないか。
何者かなんなのかは、FBIの情報を持ってすれば私の過去などすぐに調べることができるだろう。
過去の出来事で何かあったと推測し、警察が嫌いになったと当たりをつけてはいるのだろう。
それを全て見透かしたうえで、警察に対して恨みを持っているであろう私に、自分(FBI)たちにとって敵に回る位置にいるのか、いないのか。
ということだろうが、主語がなさすぎる。
この世界の事を知っている私だからこそすぐに理解はできたが、理解できていることを知られればさらに面倒なことになるだろう。
「意図・・というと?」
こいつっ・・・絶対分かってて言ってるだろう。
そう思うがそれは決して表には出さない。
「主語がなさすぎて分からない、敵か味方か?なんの?そもそも一般人に聞いてすぐさま分かる人がいるなら連れてきてくれる?」
「一般人・・・ねぇ?」
面白そうに口元に笑みを浮かべ探るような目で真っすぐに射抜かれる。
「何が言いたい?」
本当に意味が分からない。
そもそも彼とは接点などないはず。
バスジャックで隣に座っていた女というだけであるはずなのに何故ここまで私に関わる?
私から彼に話しかけた覚えも更々ないし、ただ唯一興味を持たれたとすれば、茶髪の少女をあの爆発したバスから救い出した事だけだろう。
ただそれだけで、興味を持たれただけ。
彼がここまで問い詰めるのは、ただ少しだけ存在が引っ掛かった女に対して、揺さぶりをかけているだけ。
その揺さぶりにさえ乗らなければ恐らく、彼の中での私の興味は失せるはずだ。
そうとなればただの一般人のつまらない女を演じるだけ
そう決めた瞬間、その考えがすぐさま崩れることになった。
彼の一言によってーーーー
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