出会ったきっかけ 昨日の夜は『撃ってないと腕がなまる』とか『これでガンガン撃てるぜ』とか好き勝手いう家庭教師のせいで魘されてあんまり眠れなかった。 その上ちいが急ににやけだしたりどこか遠くを見つめだしたり急に顔が赤くなったりしておかしかった。 それ見て母さんは『赤飯炊かなきゃ!』とか言い出して晩ご飯は遅れるし意味の分かんない日でもあった。 ―――ちい、今朝もどこかおかしかったけど大丈夫かな…。 ちらっとちいの席の方を見たらバチッと視線がかみ合って『つーくんも一緒に話そ!』なんて言いながら大げさに手を振られる。 それだけでちいと話してた男子生徒の睨みが突き刺さるもんだから慌てて目線を逸らす。 (怖すぎ……) そうこうしている間に時間は進んで朝のHR。 先生と一緒に入ってきたのは昨日事情があって来れなかった転入生で、いかにも不良って感じの外見だった。 銀髪だし、目つき悪いし、制服着崩してアクセサリー一杯だし俺とは一生無縁のやつだ。 そうでなくても関わりたくない。 「イタリアに留学していた転入生の獄寺隼人くんだ」 ―――イタリアっていうとリボーンの故郷と一緒か…。 獄寺くん(と呼ばせてもらうことにする)をぼんやり眺めてたら、女子が『かっこよくない?』とか『帰国子女よ!』とかって小さく騒ぎ出す。 ふう〜ん…女子ってああいうの好きなんだぁ。 「………、ん?なんか熱視線が…」 急に感じた謎の視線に目を向ければちいが顔を赤く染めて前を見ていた。 (え、えええ〜!?) ちいまでああいうのが好きなのか? 京子ちゃんも心なしかニコニコしてるように見えるし、今頃はああいう不良っぽいルックスの方がモテんのかな…。 不良っぽいってだけでモテんなら(単純なる僻みだけど)感じ悪いな…。 ちらっと視線を獄寺くんへ向けると視線が嫌に噛み合って、彼は俺のことを睨んできた。 その上獄寺くんは先生の言葉なんか聞いちゃいない風に俺に近づいてくると、俺の机を蹴り上げていく。 ただ目が合っただけで普通そこまでするか? (な、なんだよ、も〜!!) 「つーくん、大丈夫?」 「え、…ああ、へーきへーき。ちいが心配するようなことはないよ」 「ならいいんだけど」 「…あ、俺ちょっとトイレ。ちいは向こうの奴らが呼んでるんじゃない?」 「う、うん。そうなんだけどつーくんが心配で…」 「俺は大丈夫だから。ちいは自分の友達大事にしろよ?」 兄貴ぶってちいの頭を撫でてやれば、ちいは俺にぎゅうっと抱き付いて黒川達のとこに走っていった。 もれなくクラス中の妬みの視線を買ったけど兄貴である俺相手に嫉妬してる暇あんならアピールすればいいだろ。 ……生半可なアピールじゃ絶対気付かないだろうけど。 「さて、と。トイレ行ってこよっと」 ……そしてこの後俺は後悔する。 この時どうして教室から出たのかと―――。 静かな時計の秒針の音だけが響いていたはずの応接室に耳障りな音が届きだしたのは今から数分前。 何が起きているのかと窓から外を見れば中庭は煙で覆われていて何が起きているのか判別がつかないほどだった。 だけどあそこでだれが何をしているのかだけは嫌でも予想がつく。 恭兄が見回り中でいなかったのが不幸中の幸いだ。 「いやぁお見事。よく爆発してるねぇ。 ……それで美亜はどうするつもり?」 「何もしないよ」 「へえ。やっぱり風紀取り締ま……、ん?今なんて?」 「今回ばかりは何もしないよ。獄寺隼人についての処分は小菜に任せたから」 「! ………そう。小菜に、ね」 にこにことしていた表情が急に消える。 いつもは感情の読めない瞳の奥に微かな感情の機敏が見えて、彼女を探るのにいい機会だと思った。 何者か分からない彼女を傍に置く恭兄の意図もぼくは分からないし、信用のおけない彼女を傍に置いておくなんてぼくは嫌だ。 だからぼく独自に探ったっていいでしょ?恭兄。 「………。 君も小菜と知り合いなの?六道和泉」 「…そだよ。可愛いよね、あの子」 「小動物みたいな愛らしさならあると思うよ」 「小動物、かぁ。分からなくもないな。ちょおっと傷ついてしまったら死んでしまうくらい弱いもんね」 ………そういう意味で言ったんじゃないけど、まぁいいや。 とりあえずこの場は話を合わせておこう。 「確かに彼女、荒事に向いてなさそうだよね。喧嘩とかした事なさそう」 「……そうだよ。小菜はね、喧嘩とかしないの。 だからさ、美亜。―――危ない事に巻き込まないでよね」 急に背筋を駆け抜けるような寒気に襲われて、書類から視線を上げて六道和泉を見るけど彼女はにこにこ笑うばかりで表情が読めない。 ぼくの考えてることは彼女には筒抜けだったってこと? ならぼくの思ってることも全部わかっているでしょう? 君は一体どういうつもりで風紀委員会にいるの。 恭兄はどうして君を委員会にいれてしまったの。 恭兄は君の事を何か知っているの。 知っているならどうして僕には何も言ってくれないの。 ぼくには恭兄や六道和泉の真意を測ることが出来ないし、理解も出来ない。 何か少しでも話してくれたなら理解できる事もあるはずなのに。 「………。ねぇ美亜」 「なに?」 「僕は僕だから。美亜から見て分かる範囲の人間でしかないよ。奥深くなんてなくて見た目以上に空っぽなんだから難しく考えたって意味ないよ」 「…?」 「だから、」 突如と六道和泉が歌いだす。 『何をしてるの』と言おうと開こうとした唇は開かなくて、意識が急に遠くなる。 徐々に霞んでいく視界の向こうに見えたのは―――。 「……私に干渉してこないで…」 ねぇ君は、どうしてそんなに泣きそうな顔をするの―――? |