出会ったきっかけ あんなことがあった翌日、獄寺くんは予定通りに転入してきた。 昨日学校案内させて!って勢いで頼んじゃったけど、獄寺くんはしばらく黙り込んだあと『頼んだ』って言ってくれたんだよね。 嬉しくって舞い上がっちゃって、それから何話してどう別れたのかなんて覚えてない。 気づいたら教室で普通に授業受けてて獄寺くんと会ったのなんてまるで夢の中の出来事だったみたいに感じてた。 でも『わかんねーことあったら聞くから連絡先教えろ』って言われて登録されたアドレスが現実だって教えてくれて、昨日は家で口元がゆるみっぱなしだった。 おかげでお母さんにお赤飯とか炊かれるし……。 (うーっ…恥ずかしい……) それにしてもつーくんと獄寺くんって何か因縁でもあるのかなぁ。 朝机蹴られてたし。 つーくんは平気だって言うけど喧嘩とか弱いから不良さんの獄寺くんと喧嘩とかになったらすぐ負けちゃいそうなんだよね…。 お母さん、お父さん。 ちいはつーくんが心配です。 「それにしても…。ちい、アンタってああいうの≠ェ好きだったのね。沢田一筋じゃなかったんだ」 「え!?なっ…ななな、なんで……ッ」 獄寺くんへの案内は昼休みにしよう、なんて考えてたら花ちゃんが唐突にそんなことを言い出す。 (ど、どうしてバレてるのかなぁっ!!?) 「そりゃ分かるわよ。あんだけ熱視線送ってればねぇ…」 「え?どういうこと、花?」 「もーアンタって子は鈍いんだから。ちいは転入生に恋してるって話よ」 「えーっ!ちいちゃんホント!?」 「う、………(そんなキラキラした目で見られると……) ハイ、そうです……」 花ちゃんの生暖かい視線と京ちゃんのキラキラした視線が突き刺さる。 恥ずかしいけど夢見てた恋バナに発展できるっていうのならこれも悪くないのかも。 今まではそういう人いなかったしつーくん一筋?だったからしたことなかったんだよね。 恥ずかしいけど、なんか嬉しい。 「ちいちゃん、私応援するからね!」 「ま、精々頑張りなさいよ。なんかあったらすぐ言うのよ」 「う、うん。ありがと、京ちゃん、花ちゃん!2人とも大好き!」 こういう友達っていいものだなぁ。 小学校の頃は仲良しの女友達とかってあんまりいなくて、いつもつーくんとばかり一緒にいたから、中学に入って女友達が出来て本当に嬉しい。 ここに美亜ちゃんもいればもっといいのにな。 同じクラスメイトなんだし、もっと教室来てくれないかなぁ? 一緒に授業受けたりお弁当食べたり、帰りに寄り道したりとかしたいのに。 「そういえば転入早々どこ行ったのかしらね」 「あ…うん、そうだね。どこ行ったんだろ、」 花ちゃんのふと思い出して教室を見渡す。 昼休みに案内する、と言いに行こうと思っていたけど獄寺くんの姿は既にない。 だからこうやって京ちゃんや花ちゃんとお話出来てるわけだけど……。 (どこ行ったのかなぁ) ――――――――― ―――――― ――― 「十代目!一緒に飯食いましょう!」 ………何があったのか。 トイレに行くと行って出て行ったつーくんが戻ってきた時、その後ろには獄寺くんがいた。 つーくんを十代目≠ニかって呼んでるし、確かつーくんはマフィアの十代目候補?とかだったから……。 「あの、獄寺くんも…マフィアの人なの?」 「あぁ?何でてめェがマフィアのことなんか知ってやがる!さては十代目を狙う刺客か!?」 「(ひえっ!) ご、ごご、ごめんなさい!し、しかく?とかじゃないです!」 驚きながらも案内をする約束もあったから近づいて話しかけたら、物凄い敵意とともに凄まれた。 私って、獄寺くんから睨まれては謝ってばっかりだな…。 「大体てめェ十代目とどういう関係だ!」 「えっ…どういうって……?」 「(もーやめてくれー!……うう、このままじゃちいに被害が…) ご、獄寺くん。ちいは、その、俺の妹なんだ。あんまり怖がらせないで、欲しいん…だけど…」 「…い…妹≠チスか?こいつが?」 「う、うん。双子なんだよ、俺たち」 つーくんから説明を受けた獄寺くんは私とつーくんを交互に見る。 性別は違うけど私とつーくんは似ている箇所が多いから横並びになれば自ずと双子ってわかるんだよね。 だからそんなに何度も見返さなくても―――。 「い、妹君とは思いもよらず…!数々の失態、申し訳ございませんでした!!」 「(ひえっ!)」 「(何してんのこの人ー!!)」 何度も見返す姿をぽけっと見ていたら、獄寺くんはガクリと膝をつくと、勢いよく頭を下げてきた。 驚いてつーくんと一緒に後ずされば獄寺くんは土下座の体勢で何度も謝り続けてくる。 教室の中で不良さんに頭を下げさせるヘタレ2名の図とかシャレにならないよ。 クラス中困惑と緊張感でいっぱいいっぱいだよ! 「この獄寺隼人、腹を切って詫びる所存です!!」 「(…!?) そ、そんなのは駄目ですってばぁ!だ、大体怒ってないし…許すも何もないです、よ?私はつーくんの妹ってだけで十代目とかそんなの関係ないですし…。 私は昨日みたいな獄寺くんの方が自然体なんだと思うから…そっちがいい、です」 「……!」 ……い、妹君とか呼ばれたくないし。 「いいえ、このままでは俺の気が済みません!」 「う、っ!」 納得してくれてない。 どうしよう。 このままじゃあこの先ずっとつーくんの妹≠フまんまでこの関係終わっちゃうよ! わ、私の片思いで終わっちゃうよー! 「(仕方ねぇな) マフィアは女に優しくするもんだぞ、獄寺」 「! リボーンさん。ですが、」 「見ろ。小菜が困ってんだろ。アイツがいいって言ってんだ。前のまま接しとけ」 いいところに助け舟―もといリボーンくんが現れた。 皆は獄寺くんの奇行に目がいっててリボーンくんが赤ん坊で話してることなんて全く気にしてないし、目にも止めてない。 リボーンに説得?された獄寺くんはといえば口を閉じて考え込んでるみたい。 それからどれくらい経ったのか。 1分だったか10分だったか、それ以上だったか。 わからないけど獄寺くんの中で考えがまとまったみたいで、静かに話しだした。 「なら、妹君も敬語をやめてください。俺がタメ口きいてて妹君が敬語なのは…」 「、…!」 「それが出来るなら…俺も改めます」 私が敬語で話してたのって獄寺くんが凄んだり睨んだり、怖いからなんだけどな…。 それをやめろって言われても獄寺くんが怖くなったら自然と戻っちゃうと思うんだけど…。 うーん、これも恋の試練≠チてやつなのかな。 頑張るしかないのかな。 ……初めから諦めてたら何も成し得ないよね。 (よ、よし……頑張ろ…) 「わ、分かりま…っ、…わ…かった…!」 「………。 ほんとにいいんだな。言っとくが俺は相当口悪ィぞ」 「は、はい!…じゃなくって!…、うん!」 敬語じゃなくてタメ口っていうのはまだ慣れないかもしれないけど、これから頑張っていこう。 これが第一歩だと思うから。 「よ、よろしく…ね………(は…隼人≠ュん……って呼べたらいいのになぁ!もう!意気地なし!)」 お父さん、お母さん。 ちいは恋をしました。 まずは大きな第一歩から少しずつ頑張って行こうと思います…。 |