出会ったきっかけ



来ると言ってた転校生は男の子だったらしいんだけど、家庭の事情で今日は来られなかったんだって。
今日は1年生の球技大会だし仲良くなるにはうってつけの日だったのにね。


球技大会といえばつーくんは応援側だったよね。
確かつーくんは運動苦手(運動音痴って言うの?)だし立候補はしてなかった。

体操服に着替えて球技大会中の体育館に向かっていれば体育館は妙に騒がしかった。




「?
 球技大会ってこんな盛り上がるものかなぁ…?」




今頃だとバレーの試合中だろうけど、すっごいバレー得意な人でもいたのかな?
確かにバレーの競技に選ばれたのは運動神経のいい子だったけどこんな騒がしくなるかなぁ。

―――会場に着いたらつーくんに何があったのか聞いてみよう。

そんなことを思いながら体育館を覗き込んだら不思議なものを見た。


(あ、…え…?つー、くん?)


ブロックしようと飛び上がったつーくんの体はネットを遥かに超えて跳び上がる。
そんな幻みたいな光景に目を白黒させることしか出来ない私を余所に試合は進んでいって、バレーは結局負けちゃったけど異様な盛り上がりの中終わりを迎えた。




「っ、…は…」




今、一体何が起きてたの。
息がしづらくて呼吸が乱れる。
早くなる息遣いをどうしようもないままに、どくりと嫌に脈打つ胸を押さえて体育館から離れる。


持田先輩の時に見たおかしなつーくんの正体をつーくんに問い詰めても教えてくれなかった。
だからリボーンくんに聞いたら『死ぬ気弾≠使ったからああなってたんだ』って教えてくれた。
なら今見た光景もきっと、リボーンくんの言う死ぬ気弾≠チてやつ?


あれが、つーくんが私に隠そうとしていたよくわからないもの≠フ正体?




「…つー…くん…」




これから先も、こうやって私の知らないつーくんが増えていくの?
私に黙って変わっていっちゃうの?


(……いた、い…)


いつまでも双子として一緒にいられるわけじゃないのはわかってたはずなのに。
そんな現実を何年か越しに目の前に突き付けられて胸の奥がじくりと痛む。

私だけが感じてる焦燥感はきっとつーくんには分からない。
変わっていくつーくんに必死に追いつこうと頑張ってる私の心なんて―――。




「……!
 お前…、ここの生徒だったのか」

「……?
 あ……。あの時の……」




体育館から離れようとたどり着いた中庭には先客がいた。
その人はこの前並盛商店街まで案内した不良さんだった。
まさかこんな所で出会うなんて思っていなかったからビックリしてたら、彼はポケットから箱を取り出す。

(あれって…、タバコ…?)




「た、タバコ、吸うん、ですね」

「悪ィかよ」




つい口をついて出てしまった言葉に不良さんはギンッとにらみを返してきた。

(ひえっ)




「わ、悪くないです!そ、そんなの個人の自由ですもんねっ!」

「………ちっ……。
 で、何してんだ?こんなとこで。球技大会じゃねーのかよ」




(し、舌打ち……)

ショックを受けていれば、不良さんは吸おうとしてたタバコをポケットにしまいこんでベンチに腰掛けた。
『何で吸わないのかな?』なんて疑問に思ってたら質問を投げかけられる。
『何してんだ』と言われても何て答えればいいのか、私は答えなんか持ってない。

答えはあっても、不良さんに話したって何の意味もない私の悩みだから。
ここは無難に答えておこう。




「さ…サボり、ですかね?」

「何で疑問系なんだよ…」

「あ、あはは……」




話も続かないし、不良さんは怖いし。
かといって今更体育館に戻って授業を…なんて気分にもなれない。

…中庭がダメならどこに行こう。
そんな事を考えていたら不良さんは盛大にため息をついた。
ビクリと肩を揺らせば不良さんは思っていたよりも優しく声をかけてくれる。




「……、サボりだっつーなら付き合え。どうせ暇なんだろ?」




(……不良さんに付き合う…?)


…ああ、そっか。
これ以上球技大会には参加する意味なんてないし、1日くらいこうやってサボったって誰も咎めなんかしない、よね。
これまでずっと真面目に授業を受け続けてきたんだから、1日、くらい―――。


(大丈夫、だよね…?)


不良さんに促されるままついていこうとすれば―――




「うちの真面目な生徒を誑かさないでくれる?」




―――私の横から不良さんへ鋭い視線がつきつけられる。
ゆっくり振り返ればセーラ服をはためかせる美亜ちゃんがいた。





「美亜、ちゃ、」

「何でついていこうとしてるの」




ぐ…、と肩を抱かれて美亜ちゃんの後ろへと促される。
視界にはためくセーラー服が映って、その向こう側に不良さんの姿が見える。
不良さんは突然の美亜ちゃんの登場に舌打ちを溢すと日常生活上で普通に生活していれば見ないであろう物を構える。

(だいな、まいと…?)




「殺気立って現れやがって…。何のつもりだテメェ!」

「『何のつもり』だって…?そんなのはぼくの台詞だよ獄寺隼人=v

「!」

「転入初日から堂々とサボった上に小菜のような真面目な生徒を誑かさないでほしいね。
 それに校内に武器を持ち込んでいいのはぼくと恭兄だけだよ。守れないなら―――咬み殺すまでだ」

「チッ…こうなったら果たすしかねェか…」




どこから取り出したのか音もなく薙刀を構える美亜ちゃんに、懐から取り出したタバコを咥えて火をつける不良さん。
一触即発、と言ってもいい雰囲気を出す2人にどうすればいいのか分からなくって美亜ちゃんの後ろから見つめている事しか出来ない。

私はどうすればいいんだろう。
喧嘩なんて得意じゃないし、仲裁だなんてそんなこと出来るわけない。
喧嘩も仲裁も出来ないけど、見ているだけだなんていうのもイヤだ。




「やるの…?」

「テメェの負けは決まってるがな」




どちらも出来ないのに、このまま2人が衝突するのも見たくない。
なら私はどうすれば―――。




「私は……」




「困ったことがあったら私に言って。出来るだけ助けてあげるから」


そんな時に唐突に浮かんできた言葉にハッとする。
小一時間くらい前に仲良くなったばかりなのに優しく声をかけてくれたお姉さんみたいな人。
『困ったことがあれば言って』なんて言っていたけど本当に頼っていいのかな。
『2人の喧嘩を止めてほしい』って無理なお願いしてもいいのかな。


「見逃す?……それは違うかなぁ」

「え?」

「これはそんな甘いものじゃないんだよ。…いつか、気付けるといいね」



あの人は本当に頼ってもいい人―――?




「本当にどうにかしてぇなら自分の力でやり遂げろ。大事な時に誰かに頼ろうとしてんじゃねぇ。
 お前なら死ぬ気でやれば出来るはずだぞ」

「―――!」




突然の声に驚いて周囲を見渡すけど、誰の声なのか分からない。
ここにいるのは私たち3人だけで他には誰もいない。

今の声は誰の物か分からないけど、言っていることは正論だった。


(自分でやらなきゃ、意味がない、よね)




「覚悟はいい?」

「こっちの台詞だ!」

「―――っ…」




私、美亜ちゃんや不良さんが喧嘩するところなんか見たくない。
それは私が思ったことなんだから人の助けなんか借りずに自分でどうにかしなくっちゃ。
だってこれは私が蒔いた種だもの。




「ま、待って!!」

「「?」」

「お、お願いだから喧嘩なんかしないで?
 私ちゃんと授業受けるよ。サボったりなんかしない。それに転入生は家庭の事情があって来れなかったんだって先生が言ってたから、その人まだうちの生徒じゃないよ。
 私はちゃんと授業を受けるし、その人はまだうちの生徒じゃない。美亜ちゃんの粛清対象にはならないでしょ…?」

「………。
 あのね小菜、それなら彼は立派な不法侵入者になるけど?」

「!!
 …え…えっとぉ…。そ、それは…。うーん…と。
 あっ!明日転入予定だから下見に来たとかそんな感じで処理…出来ない?」




無理やりにこじつけたような理由が美亜ちゃんに通じるか分からない。
風紀委員はちょっとした風紀の乱れでも容赦なく暴力的に取り締まる委員会だから安心できないけど、美亜ちゃんなら少しは理性的に考えてくれる気がする。

小さな希望だけど希望があるなら私はそれに賭けてみたい…と思う。




「………。いやだ、と言っても聞きはしないんでしょ?
 その代わりに小菜。この男の面倒は君が責任もってやり遂げるんだよ」

「…!」

「無茶苦茶な言い訳だったけど今日は君に免じて見逃すよ」




美亜ちゃんが武器をしまって柔らかにくすりと笑って言う。
瞬間、ぷつりと緊張の糸が切れたみたいに膝が笑い出してへたり込む。

自然とにじみ出てきた涙が頬を伝って落ちていった。




「…全くもう。泣かなくたっていいじゃない。ぼくは恭兄と違ってそこまで暴力的じゃないし話も通じるほうなんだから」




美亜ちゃんの細くてきれいな指が目元に触れて涙をぬぐっていく。

美亜ちゃんと不良さんの喧嘩に突っ込むなんてホントは怖かったけど、頑張ってよかった。
2人とも喧嘩しなくて本当によかった。
どっちも傷つかずに済んだから。




「あとは頼んだよ、獄寺隼人」

「あ?何言って、」

「君は小菜のおかげで命拾いしたんだから感謝しなよ。
 ―――戦いに生きるつもりなら実力差くらい見分けられるようになったら?」

「「―――!!」」




急にズン…と肩が重くなる感じがして背筋が凍る。
美亜ちゃんを見れば薄ら寒くなるほどに綺麗な笑みを浮かべているのに、蛇に睨まれた蛙のように体が硬直して動かなくなる。

(これは、なに…?)

指先まで動かせないほどに硬直していれば美亜ちゃんは何も言わず無言で立ち去って行った。


―――――――――


――――――


―――


「……、バケモンかよ…クソッ」




それから暫くして体の硬直がとけた頃、不良さんはボソリと呟いてタバコの火を消した。
ジュッという火の消える小さな音が嫌なくらい響くくらいに周囲は静かで私も不良さんも声を発さない。

ここは互いの息遣いだけが聞こえるくらい静かだ。
世界に2人きりしかいないみたい…なんていう小説の一文みたいな事を思うくらいに。




「………お前、何で止めた」




静かな沈黙を破ったのは不良さんの方だった。




「あのまま逃げちまえば怖い思いすることなんかなかったのに。俺がどうなろうがテメェには関係のない事だろ」

「!
 …関係ないなんて…、そんなことない、です!
 深い意味はなかったかもしれないけど、さっき私を連れ出そうとしてくれたでしょう?私、それで少しは救われて……。だから、」

「……そーかよ。なら俺も一緒だ。
 お前があの日案内してくれたろ。おかげで変に迷わずに済んだし用事も早めに済んだ。今日のは、その…あの時の礼っつーか…」

「…?
 お礼?お礼されることなんか……」

「う、うるせェ!
 マ、マフィアは女に優しくするもんなんだよ!つってもお前に優しくすんのはこれっきりだけどな!」




あの日案内したのは私が商店街に行くついでだっただけでお礼を言われるようなことじゃない。
そう言おうとしたら不良さんは顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。


(ひえっ…)


どうして不良さんはそう凄んでくるのかな。
そんなに凄んできたら言うこともいえなくって飲み込むしかなくなっちゃうのに。




「………、お前名前は?」

「え?えと…沢田小菜」

「…俺は獄寺隼人。その、なんだ。改めてこれだけは言わせろ」

「?」

「この間は助かった。あ、ありがとな……小菜」

「…〜〜、…は、はい…」




凄んできたと思ったら、今度は驚くほどに優しい声音でお礼を言う。
怖いのに時々優しい…みたいな、そういうのをギャップ≠チて言うのかな?
その上今まで見たこともないような優しい顔で、そんな事言われたら―――。


(意識、しちゃう…よ)


友達の花ちゃんは『大人っぽい年上の男に魅力を感じるのよね』って言ってて、京子ちゃんは『まだそういうのは解らないや』って言ってた。
私は『つーくんみたいな人が理想!』って思ってた。


なのに今、私―――。




「あ、…明日…」

「?」

「わ、私でよかったら…明日、学校の中案内させてほしい、です……」




こんなにもドキドキしてときめいちゃってる……。


ねぇ花ちゃん、京子ちゃん。
恋≠チてこんなにも突然始まるものなんだね。



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