第十訓 4



「あ〜嫌な雨だ。何もこんな日にそんな湿っぽい話持ち込んでこなくてもいいんじゃねーか…」

「そいつァすまねェ。一応知らせとかねーとと思いましてね」






外は雨が降っていてどうにも気分が晴れない。

今日は鬼童丸さんが亡くなったって知らせをしに、万事屋に来てた。
部屋の中はしんみりとした空気に包まれていて正直居心地が悪い。
いつも元気な銀ちゃんたちがしんみりしてるとなんかヤだな…。






「ガキどもはウチらの手で引き取り先探しまさァ」

「うちらにはそれくらいしかできないからねぇ…」

「旦那ァ、妙なモンに巻き込んじまってすいませんでした。この話はこれっきりにしやしょーや。これ以上関わってもロクなことなさそーですし」






これ以上この件に銀ちゃんたちを巻き込むことない。
元から銀ちゃんたちには何の関係もなかったことなのに、巻き込んでしまったのが間違いだったんだ、きっと。



ガラッ…



(…あ…!)


皆鬼童丸さんのところにいた子達だ。
引き取り手もないっていうんでこれからうちらで探すところだった。
ウチじゃあ引き取れないし、子育てなんかできる環境でもないから……。
それなのにどうしてここに来ちゃったんだろう。






「…に、兄ちゃん。兄ちゃんに頼めばなんでもしてくれるんだよね。なんでもしてくれる万事屋なんだよね?」

「お願い!先生の敵討ってよォ!」






助けられなかったばっかりに、この子達を悲しませちゃった。
えんえん泣いて涙を流すのを見てると胸が痛い。
出来るなら敵を討ってあげたいよ…。

それも、許されないこと?






「コレ…僕の宝物なんだ」

「お金はないけどみんなの宝物あげるから、だからお願い、お兄ちゃん」

「………。
いい加減にしろお前ら。もう帰りな」






風呂敷に包まれていたのは全部、子供達と鬼童丸さんの思い出の品じゃないのかな。
それを差し出してまで敵を討ってくれだなんて…やるせないな…。






「僕、知ってるよ。先生…僕たちの知らないところで悪いことやってたんだろ?だから死んじゃったんだよね。でもね、僕たちにおっては大好きな父ちゃん……立派な、父ちゃんだったんだよ……」






(っ……!!)

そう、だよね。
子供にとってはどんなことをしていようがお父さんはお父さんなんだもんね。
いなくなって、死んでしまって、悲しくないはずがないんだ。






「オイガキ!コレ、今流行りのドッキリマンシールじゃねーか?」

「そーだよ、レアモノだよ。なんで兄ちゃん知ってるの?」

「なんでってオメー。俺も集めてんだ、ドッキリマンシール。コイツの為ならなんでもやるぜ。あとで返せっつってもおせーからな」






銀ちゃんらしい…かなぁ。
付き合いはまだ浅いけどなんとなくそんな感じがした。






「酔狂なやつだとは思っていたがここまで来るとバカだな。小物が一人はむかったところで潰せる連中じゃねーと言ったはずだ。死ぬぜ」

「本当です。天導衆など相手取ろうなんて…まともな神経をしている人間のすることではありません。何を考えているんですか」






げ、土方さん、いつの間に。
いつの間にやら継美さんにまで話がいってたのか、ちゃっかり継美さんまできてるよ…。
これ、近藤さんの耳に入るのも時間の問題?ってやつじゃあ…。






「オイオイ。どいつもこいつも人ん家にズカズカ入りやがって。テメーらにゃ迷惑かけねーよ。どけ」

「別にテメーが死のうが構わんが、ただ解せねー。わざわざ死にに行くってのか?」

「行かなくても俺ァ死ぬんだよ。俺にはなァ、心臓より大事な器官があるんだよ。そいつァ見えねーが確かに俺のどタマから股間をまっすぐブチ抜いて俺の中に存在する。

そいつがあるから俺ァまっすぐ立っていられる。
フラフラしてもまっすぐ歩いて行ける。

ここで立ち止まったら、そいつが折れちまうのさ。―――魂≠ェ、折れちまうんだよ。
心臓がとまるなんてことより俺にしたらそっちのほうが一大事でね。こいつァ、老いぼれて腰が曲がってもまっすぐじゃなきゃいけねー」






自分の魂……かぁ。
うちにも、そんなものはあるのかな。


ううん、きっとあるはずだよね。
だって、うちは―――。














*     *     *















なんて人でしょう。
自分の魂を貫いて、進んでいくだなんて。

近藤さん。
あたしの未来にはまだ、素敵な人はいるでしょうか。
あたしの未来にはまだ、素敵な人を見つけられるでしょうか。






「己の美学のために死ぬつもりですか」

「それ貫いて死んじまうなら本望じゃねェの」

「っふふ…、とんだロマンティズムですね。でも、とてもあなたらしくて素敵です」

「「「「「!」」」」」

「あたしはね、銀さん。あたしを一番大事にしてくれる人を探してるんです。それがどういう意味か、わかりますか?………―――あたしの意思を一番に汲んでくれる人を探してる、ってことです。あたしの意思は近藤さんの力になること。近藤さんの刃になること」





あたしの魂の根幹はたったそれだけなんです。

近藤さんがこの事を知ったなら、きっと潰しに行くと思うんです。
でも近藤さんは表立って動けないから、あたしが近藤さんの力になって敵陣に突っ込むんです。






「あ、これ飴玉みたいで綺麗ですね。これ1個でいいです、1個で敵を全員屠るくらいの対価にはなるでしょう」





さてと、煉獄関、潰しに行きますかね。





「お供しましょーか、おねーさーん」

「……ああ、いけない。ガラス玉2つもらってきてました。オレンジの方でいいですか?」








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