第十訓 3



「まぁまぁ、遠慮せずに食べなさいよ」

「……何コレ?」

「旦那すまねェ。全部バレちゃいやした」






今回総悟くんと亜希ちゃんが勝手に動いてることは里美さんから知らされた。
元々ぼくたちもあそこには目をつけていて里美さんに独自に調べてもらっていたのだから当然のことだ。

ぼくらのほうが早く手をかけ始めたし、今回は里美さんも協力的だった。
亜希ちゃんが煉獄関について聞いてきた時は流石に焦ったらしいけど。





「イヤイヤ、何コレ?マヨネーズに恨みでもあんの?」

「カツ丼土方スペシャルだ」

「こんなスペシャル誰も必要としてねーんだよ。オイ姉ちゃん、チョコレートパフェ1つ!」

「お前は一生糖分とってろ。どうだ総悟、亜希。ウメーだろ?」

「すげーや土方さん。カツ丼を犬の餌に昇華できるとは」

「でもうち、犬の餌よりネコまんまの方が好きだな」

「…何だコレ?おごってやったのにこの敗北感…」






それは仕方ないと思います。
普通の人はカツ丼にそんなたくさんのマヨネーズかけないんで。


って、そんなことはどうでもいいとしてそろそろ本題に入らなければ。
銀さんを呼び出したのは煉獄関の話しをすべて聞かなかったことにしてもらうためなのだから。

随分と都合のいい話だけど、今回ばかりはそうしてもらうしかない。






「大層な役人さんだな。目の前で犯罪が起きてるのにしらんぷりたァ」

「いずれ真選組が潰すさ。だがまだ早ェ。腐った身は時が経てば自ら地に落ちるもんだ。
大体テメーら小物が数人はむかったところでどうこうなる連中じゃねェ。下手すりゃウチも潰されかねねーんだよ」

「土方さん、真由さん、アンタらひょっとしてもう全部掴んで…」

「それはもう、あの、当然の如くというか。2人はうちに優秀な諜報員がいることを、お忘れですか?」

「まさか。里美さんはアンタらの命を受けて動いてたわけですかィ。通りで詳しいと思ったんでさァ」

「うー…騙されたぁー!でもそんだけ情報掴んでんならどうして動けないの??」






(それは…)


ここまで情報を得たならば今頃は動いてもいい頃合だ。
でも動けないのには重大な理由がある。

煉獄関の裏には天導衆という将軍様を傀儡にしこの国を作りかえている事実上の実権を握っている者たちがいる。
煉獄関というものはその天導衆の遊び場だという情報を得た。


だからこそ下手に手を出してはぼくたちが潰されかねない。
真選組を今潰されるわけには行かないからこそ、動けない。














*     *     *















「………あらら?
真由〜。今日も動いてなかったんだねー」

「!
……里美さん、」

「動いちゃっていいんじゃないのかなー、別にー」

「そう簡単には、いかないことはわかってるはず……」






真由の横に腰掛ける。
静かな夜の空を静かに眺めている真由は難しそうな顔をしていた。

煉獄関に天導衆が関わってて手が出せないって言うなら、わたしがどうにかしてあげるのに。
あの手この手でウチがすることに口出しできないようにしてあげるのに。

……なーんて、そういう考えがダメなんだろうなぁ。
ホント、真由は優しいねぇ。






「わたし、時々真由が羨ましいなー」

「……?」

「真由は誰かを守ることが出来るんだもの。わたしとは大違い」

「そんな……。里美さんのおかげで、ぼくらは何度も……っ」

「あはは、顔真っ赤ー。褒め慣れてないのバレバレだしー。
………。あのね、真由の手で守ってあげられるなら守ってあげて欲しい子がいてね、」

「?」






………ずっと嫌な予感がしてる。
今日、誰かが死ぬんだ、きっと。

それもわたしの見知った人。






「真由って、子供、好きだっけ?」






………ゴメンね、鬼童丸さん。
わたしは善人じゃないから、あなたの事情を知っていてもあなたを助けはしないよ。

わたしはわたしにとって一番大事なものを―――真選組を、守りたいんだもの。








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