第九訓 3



夏の日差しが照り付け、蝉の鳴き声が響く。
銀さんと新八くんと神楽ちゃんは屯所の庭の木に逆さ吊りにされている。
あんなことするからこんなことになるんです。






「悪気は無かったんです。仕事も無かったんです。夏だからオバケ退治なんて儲かるんじゃねーのって、軽いノリで街触れ回っていたら。…ねェ、銀さん?」

「そーだよ、俺、昔から霊とか見えるからさ〜。それを人の役に立ちたくて…あっ、君たちの後ろにメチャメチャ起こってるババアが見えるね」

「マジですかィ?きっと駄菓子屋のババアだ」

「アイスの当たりくじ何回も偽造してだましちゃたから…どーしよう…」

「心配いらねーよ。俺達を解放し水を与えてやれば、全部水に流すってよ」

「そーか、わかりやした」

「じゃあ、コレ鼻から飲んでくれる?」






ビチャビチャ



総悟くんと亜希はそう言うと、飲んでいた缶ジュース(亜希の方は微炭酸)を銀さんの鼻に流し込む。






「いだだだだだだ!何コレ!なんか懐かしい感覚!昔プールで溺れた時の感覚!それに片方炭酸じゃねェか!!」

「銀ちゃん、私、頭爆発しそう。パーンって…助けて!」

「オーイ、いたいけな少女が頭爆発するってよォ!いいのかてめーら、この連載終わるぞコラァ!!」

「次回から真選組血風帳≠ェ連載スタート!みんな、絶対見てくれよな」






何勝手に殺してんですか。

そんな様子を縁側から眺める。
銀さんたちは可哀想ですけど、今回は自業自得ですから助けません。
しばらく反省してればいいんです。






「おいトシ、継美。そろそろ降ろしてやれよ。いい加減にしないと総悟と亜希がSに目覚めるぞ」

「何言ってんだ。アイツ等はサディスティック星から来た王子と姫だぞ。もう手遅れだ」

「亜希がいつからサドに目覚めたんですか。あれは総悟くんと一緒になって遊んでるだけですよ。………ええ、本人は遊んでるだけのつもりのはずです」

「遊びになってねーけどな」






3人が解放されたのはその後しばらくしてからのことだった。
これに懲りたらもう悪いことはしないことです。






「う゛え〜」

「本来ならてめーらみんな叩き斬ってやるとこだが、生憎てめーらみてーのに関わってる程、俺達も暇じゃねーんだ。消えろ」

「あー幽霊恐くて、もう何も手につかねーってか」

「かわいそーアルな。トイレ一緒についてってあげようか?」






銀さんと神楽ちゃんは副長が言った事を嘲笑う。
すると、局長が言い返そうと叫ぶ。






「武士を愚弄するかァァ!!………トイレの前までお願いします!

「あなたなんでお願いしてるんですかァァ!!?」

「オイィ!!あんたそれでいいのかァ!!」

「いや、さっきから我慢してたんだ。でも恐くてなァ」

「ホラ行くヨ」






局長は神楽ちゃんに手を引かれてトイレに行った。






「オイぃ!アンタそれでいいのか!?アンタの人生それでいいのか!?オイ!!」






本当に、大丈夫かな。
何か心配なんですけど―――近藤さんの将来が。






「てめーら、頼むからこの事は他言しねーでくれ。頭下げっから」

「…なんか相当大変みたいですね。大丈夫なんですか?」

「情けねーよ。まさか、幽霊騒ぎごときで隊がここまで乱れちまうたァ。相手に実体があるなら刀で何とでもするが、無しときちゃあこっちもどう出ればいいのか皆目見当もつかねェ」

「え?何?おたく幽霊なんて信じてるの?痛い痛い痛い痛い痛いよ〜、お母さ〜ん。ここに頭怪我した人いるよ〜!」

お前、いつか殺してやるからな






(もう銀さんってば…)


あんまり副長のことをからかわないで欲しい。
こんな人だけどウチの中じゃ人一倍繊細なんだから。






「まさか、土方さんも見たんですかィ?赤い着物の女」

「わからねェ。……だが、妙な気配は感じた。ありゃ多分人間じゃねェ」






副長は冷や汗をかいている。
副長がそこまで言うほどなんですし、これは本腰を入れて調査を… 「痛い痛い痛い痛い痛いよ〜お父さーん!」 ………。





「ここに頭を怪我した残念なマヨラーがいるよ〜!」

「絆創膏持ってきてェェ!!」

「「「人一人包みこめるくらいの〜!」」」

「おめーら打ち合わせでもしたのか!!」






銀さん、総悟くん、亜希の連係プレー。
3人とも顔が生き生きしてますけど、話が進まないんでいい加減にしてください。






「……赤い着物の女か…。確か、そんな怪談ありましたね」






(ふぁっ!!?)






「僕が通ってた寺子屋でね、一時そんな怪談が流行ってたんですよ。えーと、なんだっけな…、あ。
夕暮れ刻にね、授業終わった生徒が寺子屋で遊んでいるとね、もう誰もいないはずの校舎に―――赤い着物をきた女がいるんだって」






何ていうか、怖いもの見たさ、みたいな感じ?
怖い話なんて正直勘弁だけどオチがわからないのはムズムズするっていうか。


……それでどうなるんです?






「『何してんだ』って聞くとね……「ぎゃあああああああああ!!」

「「「「「!?」」」」」






(こ、近藤さんの声…?!)



何事かと思い、屯所のトイレに駆ける。
そこに辿り着けば扉の外で神楽ちゃんが声をかけていた。






「ゴリラー、どうしたか〜チャックに皮はさめたか!?」

「どうしたんだ?こいつ」

「チャックに皮がはさまったアル」

「…は?」





本当に『…は?』だ。
チャックに皮が挟まったって、どういう状況?
一体何をどうしたらそうなるんですか。






「どけ!!」






副長が個室のドアを蹴破ると、洋式の便器に顔を突っ込んで気絶している局長の姿を発見。
思わず振り返って、目元をこすって二度見してしまった。



え、…………見間違いじゃ…ない?
どうして…こんなことに。






「なんでそーなるの?」





ホントその通りです。








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