第八訓 4



先日カラクリをバラしてしまった件で罪悪感もあり、祭りが始まる時間まで平賀さんのお手伝いをすることにした。
銀さんたちも先日の事があったので手伝いに来ていた。






「銀さん、次これお願いします」

「へーい」






ハシゴに乗って上の方を組み立てている銀さんに下の方から工具や部品を渡していく。
新八くんは細々とした作業をしていて、神楽ちゃんは―――。






「しらばっくれるんじゃないわよ!アナタ私が何も知らないと思ってんの!?コレ、Yシャツに口紅がべっとり!もうごまかせないわよ!」

「御意」

「御意御意っていっつもアナタそれじゃない!そんなんだから部下にナメられるの!たまにはNOと言ってみなさいよ、この万年係長が!!あ゛ーもう、ドメスティックバイオレンスぅぅ!!!」

「ギャァアアアアア、何してんだァァ!!やめろォォォ!!」






神楽ちゃんは、なんかドロドロの爛れた昼ドラの真似事をしていた。






「何してんだ、あいつ…」

「あはは。神楽ちゃんって面白いですね」

「おもしろいかァ?アレ」

「はい、うちにはああいうノリないですから。亜希は昼ドラとか見ないし、総悟くんが『亜希に悪影響でィ』とかいって見せませんし」






だからだと思う。
万事屋のノリは新鮮で、面白い。
一緒にいたら毎日退屈しなさそうだ。






「……あ。すいません、平賀さん。時間です」

「ん?もうそんな時間か」

「はい。公務に行かなければならないので、これで失礼させてもらいます」






隊服を油で汚さないようにと来ていた作業着を脱いでカバンに詰め込む。






「オイ、継美」

「え?」

「お前祭りの中でも公務とかつまんなくねェの。俺なら遊び倒してェけど」

「あたし、そんなこと思ったことないですよ。局長の…近藤さんの傍が一番好きだから!」






近藤さんの傍が一番好き。
近藤さんの傍にいられるなら仕事だろうがなんだろうが、そこがあたしの一番好きな場所。
あの人の傍にいられるなら退屈な護衛だってとっても楽しいお仕事になる。


だからあたし、仕事がつまらないなんて思ったことないんですよ、銀さん。














*     *     *















「……、はッ…?え、何、あの表情(かお)。まるで恋する乙女みてーな……ナイナイ、ナイでしょ。えっ…まさか継美って……ウソォォ!!?」






本気でゴリラのこと好きなのォォォオ!!??














*     *     *















「亜希〜」

「あれ、総悟だ〜。なにして…、むぐう!?」






突然口元を押さえられてズルズルと引きずられる。
誰もうちがこんなことになってるなんて気づいてなくて助けを求めても無駄。

そんなに引きずったら靴の裏擦れちゃうでしょーがァァァ!!!
ダダ下がりのテンション上げるためにお気に入りのローファー履いたの間違いだったよぉぉぉ!!






「ううう、」

「何してんでィ、亜希。いつまで蹲ってるつもりだ」

「だってだって!これ、お気に入りのローファー!これっ…これっ……」

「ん?………なんでィ。俺が買ってやった安モンじゃねェか。そんなもんまた買えば…」

「重要なの、そこじゃないもん」






確かに総悟が買ってくれたってのが重要なんだよ。
でもそこより遥かに重要なところがあるんだもん。

これは支給されたローファーが壊れちゃった時、総悟が初のお給料を使って買ってくれたやつなんだよ?
あんときは給料安っぽかったし、今じゃ安物のこのローファーだって結構な値段したんだ。
それなのに総悟は初給料をうちのために使ってくれたんだよね。
『女は金が掛かる生き物だからしゃーねェや』ってそんなこと言って、うちが気を使わなくていいようにしてくれたよね。

うちはそれが嬉しくて、このローファーを大事にしてたのに。






「総悟のばぁか。もう今日は一緒に遊んであげなーい」

「あ〜ぁ。いいんだな?そんなこと言っちゃってェ。あとで後悔すんのは亜希だってのに」

「うぐぐぐ」

「ほら、」






スッと差し出された手のひらに、手を重ねる。
剣で出来たタコが潰れて硬くなった痕のある手のひらは、男らしい手をしている。
総悟はベビーフェイスだから近藤さんとか土方さんに比べれば男!って感じはしないけど、ちゃんと男の人…なんだよね。

(ドキドキ…するなぁ)






「………っ。
うち、イカ焼き食べたいなー。あとカキ氷に林檎飴でしょ。ベビーカステラと林檎飴も食べたい!」

「腹壊して寝込んでも知らねェからな」

「おっお腹壊したりしないもん!!
あっ!あと射的もしたい!前に里美さんと勝負して負けたから上手くなっておきたーい!」

「里美さんに射的勝負挑むたァバカだねィ。でも、その根性だけは認めてやらァ」

「なにおーう!?」







(ねぇ総悟、)



うちは、総悟がちゃんと男の人だって分かってるよ。
総悟だって男の人だからいつか女の人を好きになることだって分かってるよ。

だから、だからね?






「イカ焼き2つくだせェ」

「はいよー」






まだ気づいてないフリしててあげるね。
総悟がうちのことを見てくれてないことも、総悟があの人≠見てるってことも、総悟がうちのいう『好き』を冗談だって捉えてるってことも、何もかも、全部。

うちはまだ何も知らないままでいるからね。
それもミツバお姉ちゃんとの約束だから、仕方ないよね。






「イカ焼きおいひー」

「呑気に食ってる場合じゃねェや。早く行かねェと射的する時間なくなっちまうだろィ」

「あ!そーらっふぁ!……んぐ、…行こっ総悟!」






何も知らないでいることも、総悟の傍にい続けなきゃいけないことも本当は辛いけど、全部約束のためだもん。
うちが約束を守らないとミツバお姉ちゃんも約束を守ってくれないから。
うちが約束を守ることでミツバお姉ちゃんが約束を守ってくれて、それが総悟にとって一番の幸せなんだもんね。


大好きな総悟には、幸せになって欲しいから。






「腕時計ゲーッツ」






うちは総悟の幸せの為なら、辛いことだって全部我慢するから。
今はただ総悟の傍に置いてほしい。








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