第八訓 3 祭りまであと3日! どんな浴衣を着ていこうかなーとか楽しみにしていたら呼び出しがかかった。 呼び出しをかけたのは土方さんと真由さん。 一緒にサボってた総悟と一緒に指定の部屋に行ったら隊士とかがたくさんいてぎゅうぎゅうだった。 (……うわぁ、どこ座っても暑苦しそ〜…) 「亜希〜総悟〜、こっちこっちー」 「「!」」 ひらひらと手を振られる。 その近くには特徴的なアフロと里美さんの姿があった。 2人の周囲は開放的だし一番前の方だしわりかし涼しそうだった。 「流石里美姐さんでさァ。場所取りまで完璧ですねィ」 「ありがとー!」 隣に座って抱きついたらポンポン頭を撫でてくれた。 里美さんっておねえちゃんみたいだから大好き! そうこうしてれば約束の時間になって、土方さんと真由さんが部屋に入ってくる。 前に置いてあった座布団に腰掛けた土方さんは前置きもなしに単刀直入に用件を言い放つ。 「いいか。祭りの当日は真選組総出で将軍の護衛につくことになる」 (………ご、護衛ぃぃぃ!!?) 祭り楽しみ!って思っていたところに思わぬ仕事が。 うちには祭りを楽しむ権利も与えられないの!!? 「お祭りの日まで仕事はやだよー!!」 「うるせェ!!テメー仕事なめてんのか、あァ?!」 「うう…ごめんなさーい…」 つい不満の声が……。 「将軍にかすり傷一つつこうものなら、俺達全員の首が飛ぶぜ!その辺心してかかれ。 間違いなく攘夷派の浪士どもも動く。とにかくキナきせー野郎を見つけたら、迷わずぶった斬れ。俺が責任をとる」 「マジですかィ土方さん。俺ァどーにも鼻が利かねーんで、侍見つけたら片っ端から叩き斬りまさァ。頼みますぜ」 「オーイ、みんな。さっき言ったことはナシの方向で」 刀を片手に話す総悟を見た土方さんは、あっさりと前言撤回した。 男に二言はないんじゃないの??? 「……それから、コイツはまだ未確認の情報なんだが、江戸にとんでもねェ野郎が来てるって情報があんだ」 「とんでもねー奴?一体誰でェ。桂の野郎は最近おとなしくしてるし…」 確かに池田屋の一件以来桂が爆破とかテロ系のことを起こすことってないなぁ。 嵐の前の静けさ?みたいなそういうやつじゃないのって継美さんは言ってたけど、どうなんだろ。 ていうか、土方さんの言ってるとんでもない奴って桂のことじゃないなら誰なんだろ。 桂くらいしか思い浮かばないんだけど。 「以前、料亭で会談をしていた幕吏十数人が皆殺しにされた事件があっただろう。あらぁ奴の仕業よ。攘夷派浪士の中でも最も過激で最も危険な男…―――高杉晋助のな」 (……!!) 高杉、晋助……。 攘夷浪士で過激派に属する危険人物。 直接会ったことはないけど、何となくヤバイのは分かる。 キュッと手に力を込めたら、ギュッて頬をつままれた。 「何て顔してんだ。余計馬鹿に見えちまうじゃねェか」 「そーご…」 「お前は笑ってろィ。それが一番てめーにあった顔だ」 そ、だよね。 うちのチャームポイントは笑顔だもんね。 ミツバお姉ちゃんの笑顔が素敵だったように、うちもあんな風になりたくて、笑い始めたんだもん。 笑わなきゃ、ダメだよね。 笑ってなきゃ、福も来ないよね。 「総悟、だーいすき」 「俺はそうでもねーけど」 「え゛え゛え゛え゛え゛!!?なんで――!?」 「オイ、亜希。てめェ一番前でギャーギャー騒いんでんじゃねェよ!!」 「ちょっ…タ、タンマ!タンマっていって……ギャアァァァァ!!!」 「隊長!」 (……!) 副長と木野さんからの招集のあと、執務室に帰ろうとしていたら森田さんから呼び止められた。 ふと足を止めて小さく振り向けば、彼女は急いで私の横まで駆けてくる。 森田さんが私率いる三番隊にいるのはどうしてなのだろう。 昔から周りに無口な人、無駄口を叩かない人、クールな人、と言われ続けてきた。 森田さんだってあの頃から一緒にいるのだからそれは知っているでしょう。 もしそんな私に憧れて監察方から三番隊に入ってきていたなら、申し訳ない。 本当の私は、トークが滑ったらどうしよう、噛んだらどうしよう、声が変とか思われたらどうしよう、今まで黙ってたのに急に喋って調子に乗ってるとか思われたらどうしよう。 話す前からネガティブなことを考え怖くて黙っているだけで、本当はみんなと楽しくおしゃべりしたいおしゃまな普通の男子なのだから。 「次のお祭り、わたしたちも警備に配属みたいですね」 「………」 『はい』というだけでいいのに声は出ない。 こくりとひとつ頷くだけに止めれば、森田さんは小さく笑みを浮かべた。 彼女は私が一挙手一投足するだけで嬉しそうな表情を浮かべている。 だからこそ、でしょうか。 私が密かにつけている是非友達になりたい人帳=\――略してZ帳に彼女の名前があるのは、そういった面が素敵だからでしょうか。 私のような男にこれほど長くついてきてくれた人は彼女以外にいない。 彼女はZ帳を見ても深読みすることはなかった。 それどころか彼女は何も言わずにいてくれた。 私はこれからも彼女に傍にいてほ――― 「へあっ…!?」 ……あ。 「っ…!!」 「!!!!」 真後ろで滑って転びかける森田さんを寸でのところで助け出す。 森田さんは監察方面では失敗しないくせに、事日常生活においてはドジばかり。 何もないところで転ぶのは常の事だし、すぐ怪我をするのもいつもの事。 注意していても必ず何かしらで怪我をするから気が気ではない。 「た……隊長…。その、ありがとうございます…」 はたと気づけば、綺麗に生え揃った睫毛に縁どられた光を反射する瞳が間近にあった。 瞳の奥まで光が透けて見えるくらい透き通った瞳は綺麗な色をしていて、つい見とれてしまう。 しかし見とれていたのも束の間の事。 触れた場所から伝わる体温。 垂れた細い髪の毛の感触。 握った手首の細さ。 胸板に感じる彼女の胸の感触。 間近にあったぷるんとした桜色の唇。 布越しに感じる生暖かい吐息。 彼女から香ってくる仄かな甘い香り。 普段はあまり近くで絡まない全てが、私の近くにある。 この年まで全くと言って触れ合ってこなかった女性がこれほど近くにいる。 グ、ギュルル…… 「!!」 「あっ、隊長…!?」 急いで彼女を立たせ、厠へと向かう。 これ以上あの場所にいてはおなかが痛くなるだけでは済まない気がする。 でも彼女のそばを離れるのはもったいない気もする。 「た、隊長!お祭り、時間があったら一緒に回ってくださいね」 「……!」 痛いおなかを押さえて振り向けば、彼女はもういなかった。 言い逃げ、ですか。 言い逃げをされては返事が出来ない。 ………これでは、断れないです。 「…ズルい、ですよ……森田、さん」 久々に出した声は掠れていてとても誰かに聞かせられるものではなかった。 彼女に聞かせるのなんて論外で―――、…? (あれ……?) 今私は、彼女に……森田さんに聞いて欲しいと思っていた? 人と話そうと思えば思うほど緊張しておなかが痛くなってしまうのくらいわかっていたはずなのに、そんな事を思うなんて。 私は一体どうしてしまったのでしょう。 ← → ×
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