第八訓 2



「コラぁぁぁぁぁ、クソジジイぃぃぃ!!平賀テメッ、出てこいコノヤロォォォォォ!!」






先日お登勢さんにもらったメモ通りの場所に、時間通りにいった。
そこには近所の主婦の方も集まっていた。

周囲はガラクタといっても相違ないものばかり。
源外庵≠ニ書かれた建物からは絶え間なくガシャコンガシャコン聞こえてくる。
その音で受験に落ちてしまったお子さんもいるというし、抗議されても仕方がないというものです。






「オイ、ヤローども、やっちまいな!!」






(え、ヤローども?)

あたし以外にも協力者がいるんでしょうか。
きょとんと背後を振り返れば、お登勢さんに呼ばれたらしい銀さん達がいた。
そういえば銀さんのお家はお登勢さんのところの2階でしたね。


3人は持ってきたラジカセやスピーカーを源外庵の前にセットする。






カチャ
♪ファ〜ファララ〜



「1番、新宿から来ました志村新八です。よろしくお願いします」






ラジカセのスイッチを入れて音楽が流れると、新八くんは頭を下げる。
そしてマイクを構えると…






「お前ェそれでも人間かァ!!お前の母ちゃん何人だァァ!!」






新八くんは、オンチとしか言いようがない声で歌い始めてしまう。
背後から銀さんに無理やり耳栓を詰められたあたしはその歌声を聞いてもなんともなかった。
銀さんと神楽ちゃんは平然な顔で耳を塞いでいたけどお登勢さん達は悲痛な顔。

こうなるなら初めから言っておいて欲しいものです。

(…耳栓はあるけど、ちょっと耳が痛い…)






「おいィィィィ!!ちょーちょーちょー、ストップストップストップストップ!オイ止めろコラ!
てめっ何してんだコラ!私は騒音止めてくれって言ったんだよ!なんだコレ?増してるじゃねーか!2つの騒音がハーモニー奏でてるじゃねーか!」

「いじめっ子黙らすには同じよーにいじめんのが一番だ!殴られたこともない奴は、人の痛みなんてわかりゃしねーんだよ」

「わかってねーのはお前だァ、こっちゃ鼓膜破れそーなんだよ!!」

「お登勢さん。今一番可哀想のは新八くんなのでは?公衆の面前でこんなことをしているのですから」

「なんか気持ちよさそーだけど!?」






……ホントだ。
よくよく見たら新八くんは楽しそうに熱唱している。
カラオケに行った時の亜希並にテンション高く歌い上げている。

これって、本人に音痴っていう自覚がないやつ…?






「新八ぃ、次、私歌わせてヨ。北島五郎の新曲手に入れたネ」






神楽ちゃんがそう言っても新八くんは歌い続ける。






「ねェ……ちょっと、オイきーてんのか音痴」






2人はこれを合図にマイク争奪戦開始。

なんで騒音に騒音で対峙しようとしたんですか、この人たち。
騒音に騒音混ぜても騒音のダブルパンチになるだけでしょうに。
挙句の果てにマイクの奪い合いて自滅なんて笑い話にもなりませんよ。






「あーあ、何やってんだあいつら。しょーがねーな…オイィィ!次歌うのは俺だぞォ!」

「おめーら、一体何しに来てんだァ!もういい、てめーらの歌聴くぐらいなら自分で歌う!貸せ!」

「てめーの歌なんて聴きたくねーんだよ!腐れババア黙ってろ!」

「なんだとォォ!!じゃあデュエットでどうだコノヤロォォ!!」

「誰がババアとデュエットするか!」






マイク争奪戦を繰り広げている銀さん達を呆れながら見ていたら、源外庵のシャッターが開いていった。
中からはあたし達より大きい武士のようなロボットが出てきて……






「……え?」

「え?……これが平賀さん?」






呆気にとられていると、平賀さん(仮)は銀さんの頭をわしづかみにし、上へと上げる。







「いだだだだだ、頭とれる!頭とれるって平賀さん!」

「わ、ちょ、何してるんです!?その人を離しなさい!」







あわてふためくあたし達を見た近所の皆さんは、悲鳴をあげて逃げ出した。
それが賢明とは言え、見捨てないで欲しかったです。






「それ以上その人に乱暴を働いたら逮捕しますよ平賀さん!」

「たわけ、平賀は俺だ」






(……え?)

中から出てきたのは髭を生やしていて、ゴーグルをつけたおじいさんだった。
あっちが平賀さん、なんですか?






「人んちの前でギャーギャー騒ぎやがって、クソガキどもが…。少しは近所の迷惑を考えんかァァァァ!!」






いや、元はあなたのせいですけど…。

本物の平賀さんとお登勢さんが言い合いをしてる間も、カラクリは銀さんの頭を掴んだまま。
新八くんや神楽ちゃんと協力して引き剥がそうとするも、引き剥がせない。







「オイ、三郎!かまうこたァねェ、力ずくで追い出せ!」

「御意」






平賀さんが命令すると、カラクリは平賀さんの方に向きを変えた。






「アレ?オイ、ちょっ…」






ゴッ!



カラクリ…否、三郎は掴んでいた銀さんを平賀さんに向かって投げ飛ばした。



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――――――



―――



「これでヨシ、と。ここならいくら騒いでも大丈夫だろ。好きなだけやりな」






あの後源外庵からカラクリの材料(元はカラクリだったもの)を運び出したあたし達。
今は川原にいて、平賀さんはその光景に唖然としていた。






「好きなだけってお前。みんなバラバラなんですけど……。なんてことしてくれてんだテメーら。
あ゛あ゛あ゛!どーすんだ!これじゃ祭りに間に合わねーよ!!」

「「「祭り?」」」






祭りといえば近々行われることになっている、鎖国解禁二十周年記念祭典のことだろうか。
3日後には鎖国解禁二十周年の祭典がターミナルで行われることになっている。
珍しいことに将軍様が出て来るって言うんで、今回あたしたちは護衛に回ることになっていた。

平賀さんはそこでカラクリ芸を披露することになっていたらしい。
それなのにあたしたちがカラクリを分解してしまったせいで間に合うか怪しくなってしまった。
それには思わず明後日の方へ目線を向けてしまう。
首がギギギ…と壊れたロボットのような音を出していたような気もする。






「どーすんだ、間に合わなかったら切腹モンだぞ」

「あ、ヤベ。カレー煮込んでたの忘れてた」

「それじゃ巡回に戻りますんで。お疲れ様でしたー」

「オイぃぃぃぃ!!」






ごめんなさい平賀さん。
本当に悪気はなかったんです。
ここは見逃してください。
あたしはまだ死ぬわけにはいかないんですぅぅぅぅ!!!








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