第七訓 3



志村家の縁側には清楚なパンティが1枚ぶら下がっていた。
どうぞ盗んでくださいとでも言いたげなその姿には明らかな罠って感じを受けるけど、この際そこは突っ込まないでおく。






「いいかー。相手はパンツの量より娘の質を求めてる真性の変態だ。だからまた、必ずここに忍び込んでくる。そこを叩く。
フンドシ仮面だかパンティー仮面だかしらねーが、乙女の純情と漢の誇りをふみにじったその所業許しがたし。白ブリーフを鮮血に染め上げてやるぞ!!」

「「「「「オオォォ!!」」」」」






自慢の愛刀、緋桜を片手に叫ぶ。
あたしのパンツは銀さんに破られてしまったわけですが、それは水に流しましょう。
相手に伝えなかった自分の落ち度ですから。

それよりも許しがたいのはあたしのパンツに手を出し、お妙ちゃんのパンツを盗んだフンドシ仮面です。
終くんの方はよくわかりませんし真偽は定かではないですが、終くんの分は里美が報復するでしょう。






「変態はこの手で始末します」

「継美の太刀筋にかかれば一刀両断だよ。わたしは相手を蜂の巣にするまで懲らしめてあげるんだー」






腰に下げた二挺拳銃を誇らしげに撫でた里美の目には光がない。
こうなった里美は本当に相手を蜂の巣にしかねないので、コントロールしなくては。
フンドシ仮面は制裁しなければならないとはいえ、ここは他所様の家。
やりすぎは現金です。






「ていうか局長。何持ってきてるんですか」

「地雷≠セ。これを庭一面に敷き詰めればこんなボロ屋敷も立派な要塞になるぞ」

「ボロ屋敷のままでいいわ!!アンタ戦争でも始めるつもりですかァ!」

「流石に地雷まで持ち出すのは……」






地雷なんて諸刃の剣を採用する気には到底なれないんですけど。
かといって反対したところで埋めることは確定だろうから、言うだけ無駄というやつでしょう。
ここはあたしがどうにかして覚えておくか……。



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――――――



―――



プ〜ン…バチンッ



「…ちょっと。全然泥棒くる様子ないんですけど。コレ、ひょっとして今日来ないんじゃないんですか?」






時間はもう遅い。
フンドシ仮面が来る気配もないし物音もしない。
だからこそ蚊が飛ぶような音がよく響く。






「大体何を根拠に今日来るって言ってるんですか?」

「あんなこれみよがしにパンツがぶら下がってるアル。下着泥棒がほっとくわけがないヨ」

「いや、あからさますぎるよ!なんか罠丸出しだし」






(……ほっ)


あたしと同じ感想を持ってくれる人がいたんですね。
あからさまに罠って感じでどうかと思ってたんです。






「オイ、デケー声だすんじゃねーよ。泥棒にバレたら全部パーだぞ」

「パーなのはオメーらだよ!このクソ暑いのによ」

「なんだとこの野郎!コンタクトにしてやろーか!」






この暑い中喧嘩なんかしないで欲しい。
暑さのせいか喧嘩はヒートアップして取っ組み合いが勃発。
局長はみんなをなだめるために『冷たいものを買ってこよう』と言ってくれた。

お妙ちゃんと万事屋の3人は好き好きにあれこれ頼んでいる。






「継美と里美は何がいい?」

「え、あたしは別に…… 「よし、クッキーサンドだな!」 …………はい」






ちぇ、お見通しですか。
確かにアイスならクッキーサンドが好きですけども。






「わたしはおにぎり食べたいなー」

「えっ、里美もうご飯食べたでしょ?まだ食べるの!?今日大食いの日!?」

「きょ、今日はそんな食べないモン!」

「そういってこの前10合も食べたの誰かなァ!!?」






そういえばこの前食堂のおばちゃんが『ご飯がないからちょっと待ってて頂戴ねェ』って苦笑してたっけ。
あれ、里美のせいだったのか。






「おにぎり2つで我慢するから買ってほしいなぁ。小腹がすいたら照準外れてゴリラ打ち抜いちゃうかもー」

「い゛!?………ったく、しょーがないなぁ」

「鮭と昆布ね〜」







のほの〜んと局長を見送った里美。
局長は困ったように頭を掻きながら、隠れていた茂みから出て行く。
瞬間、


ピッ…ドォン!!


あたしたちの背後で爆発が起こった。

(え…?)






「……アラ、近藤さんが爆発したわ」

「あー暑かったからアルヨ」

「んなわけねーだろ。自分でしかけた地雷ふんだんだよ。馬鹿だね〜」

「………。
アレ?ちょっとまって。ひょっとして地雷どこに仕掛けたかみんな覚えてないの?」







………そーいえば、途中からみんな好き好きに埋めちゃったから全部は覚えきれてない。
ていうか最初の2〜3個しか覚えられなかった。
人間には所詮限界ってものがあるんですよ!






「大変だわ。明日新聞配達のおじさんが爆発するわ」

「言ってる場合ですかァァ!!」






本当にそうだ。
あたしたち、これじゃあ身動き取れないじゃないか。
もう泥棒とか言ってる場合じゃないんじゃなかろうか。








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