第六訓 2



もう季節は夏だっていうのに真選組の制服は長袖のままのうえ、かっちりし過ぎて通気性も悪い。
そんなものを着たまま涼しい顔をしていられる訳もなく、ぼくと副長は汗だくだった。
上着を脱いで、スカーフを外しても暑いものは暑い。






「お前、何飲む」

「えっと…じゃあ、お茶を」

「おー」






途中街中で見つけた自販機で飲み物を買う。
世の中の人たちはどんどん薄着になっていくっていうのに、ぼくらは……。






「あの、真選組にも夏服導入を考えるべき…ですかね、」

「さァな。何にせよ、このクソ暑いのに人探したァよ。もうどーにでもしてくれって、」


「―――そんなに暑いなら夏服作ってあげますぜ土方さん…」


「!!
うおおおおおお!!」






突然背後から襲い掛かってくる斬撃を寸で避ける。
襲いかかってきたのは総悟くんと亜希ちゃんの2人だった。
刀なんか街中で振り回すもんじゃないのに何をしているのやら。






「あぶねーな、動かないでくだせェ。怪我しやすぜ」

「そうそう。せっかくきれいに切ってあげようとしたのにィー」

「あぶねーのはテメーらそのものだろーが!なにしやがんだてめーら!」

「なんですかィ。制服ノースリーブにしてやろーと思ったのに…」

「嘘つけェェ!!明らかに腕ごと持ってく気だったじゃねーか!!」






残念そうに刀を鞘におさめた2人に息をつく。
この2人はこの暑い時に長袖で涼しい顔をしているけど、なにか秘策でもあるのだろうか。
是非とも教えて欲しい。






「あの、2人は何を?」

「えっとねー、これ!これ売り込んでるの!」

「、え?」






亜希ちゃんが取り出したのは袖がギザギザに切り刻まれた隊服。
まるでロッカーが着ているかのような悪ふざけの産物だ。
こんなの誰が着 「おーう、どーだ調査の方は?」 ………着てた……、着てたよ。






「潜伏したテロリスト捜すならお手のモンだが、捜し人がアレじゃあ勝手がわからん。お姫さんが何を思って家でなんざしたんだか…。人間立場が変わりゃ悩みも変わるってもんだ。俺にゃ姫さんの悩みなんて想像もつかんよ」

「立場が変わったって年頃の娘に変わりはない。最近お父さんの視線がいやらしいとかお父さんが臭いとかいろいろあるのさ」

「お父さんばっかじゃねーか」

「じゃあお母さんが口うるさいとか、お母さんが勝手に部屋の掃除するとか?」

「んなもん全部家族の悩みじゃねーか!そんなんで家出されたらたまったもんじゃねーよ!」






何にせよ、江戸の街は広すぎて今日一日で見つけられる確率は低い。
歩いて探すには無謀すぎるし、車では細かいところまで見つけきれない。






「江戸の街すべてを正攻法で捜すなんざ無理があるぜィ。ここはひとつパーティでも開いて姫さんをおびき出しましょう!」

「そんな日本昔ばなしみてーな罠に引っかかるのはお前と亜希だけだ」

「大丈夫でさァ、土方さん。パーティはパーティでもバーベキューパーティです」

「えーっ!女の子だよ?女の子なんだからお菓子パーティがいいよー!そっちの方が大丈夫に近い!」

「何が大丈夫なんだ?お前らが大丈夫か?」






どっちも自分がしたいだけにしか思えない。
まともな案を期待したぼくが馬鹿だった。

こうなったら副長が引っ張り出した里美さんや山崎さんたち監察が有力な情報を掴んでくれるのを待つのが一番いい気がしてきた。






「局長ォォ!」

「どーした山崎!?」






走ってきた山崎さんも局長と同じノースリーブ隊服を着ていた。
何とも言えない副長の視線が突き刺さる。

きみらはロッカーに対する憧れか何かがあるんですか。






「目撃情報が。どうやら姫様はかぶき町に向かったようです」

「かぶき町!?よりによってタチの悪い…」

「今里美がかぶき町内を捜索しているので見つかるのも時間の問題かと」








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