第六訓 3



結論から言っちゃえば、見つけるのは簡単だった。
かぶき町だって狭いわけじゃないけど、わたしの手にかかればそんなものだ。

本当はちゃっちゃと見つけてとっ捕まえてお城に帰して隊長のところに帰るつもりだった。

(でもさぁ…)






「………、あんなの邪魔できるわけない」






教育上あんまり良くない場所にだって行っていた。
でも姫様は楽しそうで終始笑顔だった。
万事屋のところのチャイナちゃん―――神楽ちゃんと一緒にいる姫様は写真で見たような悲しい顔はしてなかったんだもの。
あんなのを邪魔するなんて無粋すぎる真似出来るわけないよねー。






「女王サンは私より若いのにいろんなこと知ってるんですね」

「まーね。あとは一杯引っ掛けてらぶほてる≠ノなだれこむのが今時のやんぐ<。まァ全部銀ちゃんに聞いた話だけど」

「女王サンはいいですね、自由で。私、城からほとんど出たことがないから友達もいないし、外のことも何にもわからない。私に出来ることは遠くの街を眺めて思いを馳せることだけ…。あの街角の娘のように自由に跳ね回りたい、自由に遊びたい。自由に生きたい。そんなこと思ってたらいつの間にか城から逃げ出していました」





あの姫様はわたしと同じなのかもしれない。

「独りが厭なら、俺と一緒に来るといい」

ううん、違うかな。
わたしは自由を望んで、誰にも言えない酷く惨いことをした。
家出なんて可愛いもので済ませておけばよかったのに、あとで後悔するようなことをした。






「でも最初から一日だけって決めていた。私がいなくなったら色んな人に迷惑がかかるもの…」






姫様はすごいな。
きちんと後のことも周りのことも考えられるんだ。
わたしはあの時それが出来なかった。


……まぁ?
あれがなかったら今頃わたしは武州の山奥に住んでたんだろうけどさぁ。






「その通りですよ。さァ帰りましょう」






(もー来たかぁ……)


見つけた時点でメールは入れてあったからGPSだのなんだの探されてるとは思ってたけど、早すぎだ。
もう副長が来たってことは周囲は固められてるに違いない。
姫様には悪いけど今回ばかりはお仕事だから無粋な真似させてもらっちゃった。


副長が声をかけたことで姫様は素直についてこようとした。
でも、神楽ちゃんはそれを許さず団子の串を吹き飛ばし一瞬の隙を突いて姫様を連れて逃亡。
でもそれを許すほど副長は甘くはないし、あんなのテロリストを捕まえるより簡単なことだ。






「確保!!」

「!!
ぬァアアア!!どくアルぅぅ!!」






パトカーを足場にして飛び上がった神楽ちゃんは屋根の上へと逃亡。
人一人抱えて屋根に飛び上がるなんて、さすが夜兎って感じかなー。






「…ありゃ万事屋のトコのチャイナ娘じゃないのか?何故姫と」

「さァ」






ガシャッ


そんな音を立てて構えられたのはバズーカ。
あんなの街中で撃つだけ(も結構やばいけどこの際どうでもいい)ならまだしも、姫様に当たったら切腹もんだよ。






「ちょっとォ!総悟くん!なにやってんの、物騒なもんだして!」

「あの娘には花見の時の借りがあるんで」

「待てっ!!姫に当たったらどーするつもりだァ!!」

「そんなヘマはしねーや。俺は昔、スナイパーというあだ名で呼ばれていた、らいいのにな〜」

「オイぃぃぃ!!ただの願望じゃねーか!!」

「ええっ!?総悟ってそんな願望でバズーカ撃ってんの!?」






(えー勘弁して…)


そんなことよりわたしはちゃっちゃと帰りたいんだけどなぁ。
姫様が望むならもうちょっとくらい遊ばせてあげてもいいんじゃないの。






「チャイナ娘出てこい!!お前がどうやってそよ様と知り合ったかは知らんが、そのお方はこの国の大切な人だ。これ以上俺たちの邪魔をするならお前もしょっぴくぞ!

聞いてるか!!」






副長の呼び掛けに応じたかどうかは知らない。
けど姫様はその後あっさりと出てきてくれたので手を拱かせることはなかった。


でもその表情はどこか残念そうで、寂しそうで見ていられなくて。
わたしが感じた感情が同情だと思うのならそれでもいい。






「……姫様ー」

「はい?」

「次抜け出す時はわたしを頼ってくれていいですからね」

「!」






そう耳打ちしてすぐにそばを離れる。


わたしは、わたしと同じ自由になりたい≠ニ願った籠の中の鳥を幸せにしてあげたかった。
過去幸せになれなかった、同じ籠の鳥だった、自分自身を満足させる自己満足だとしてもそれでいい。






「あの、ありがとうございますっ!」






あのお姫様には悲しい顔より、笑顔の方がにあっているもの。






「里美、そよ様になにかしたのか?」

「局長がわたしにしてくれたことと同じ、かなー」

「んん?」






局長は自由を求めていたわたしに、手を差し伸べてくれた。
それがどれだけ嬉しかったか局長は知らないんだろうなぁ。






「よくわからんが、よかったな」

「…うん、そうだねぇ」








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