第三訓 2



市中の電信柱には『白髪の侍へ!!てめェコノヤローすぐに真選組屯所に出頭して来いコラ!一族根絶やしにすんぞ 真選組』と書かれた髪がいくつも貼られている。
イメージ悪化になりかねない事態なのでやめてほしい。

………もともとイメージ悪いですけど。





「なんですって?斬る!?」

「ああ、斬る」

「件の白髪の侍ですかィ」

「真選組(うち)の面子ってのもあるが、あれ以来平隊士どもが近藤さんの敵取るって殺気立ってる。でけー事になる前に俺で始末する」

「あ〜あ。土方さんは二言目にはすーぐそれだよねぇ」

「ホントでさァ。古来暗殺で大事を成した人はいませんぜ」

「暗殺じゃねェ。堂々と行って斬ってくる」






それはそれで白昼堂々民間人を切りつけた〜、とかってイメージがつくんじゃ…。






「そこまでせんでも適当に白髪頭の侍見繕って連れて帰りゃ隊士たちも納得しますぜ」

「そうそう。この人なんてどーかな?!ほら、ちゃんと木刀持って!」

「ジーさん。その木刀でそいつらの頭かち割ってくれ」

「パッと見さえないですが、メガネとったらホラ。武蔵じゃん」

「何その無駄なカッコよさ!!」






というか、総悟くんたちはなんでその人のことをそんなに知ってるんだ。
親しげに手を振り合っておじさんと別れているし、元々知り合いだったり?


それよりも、副長は本当に殺る気なのだろうか。
白髪という情報しかないというのに、どうやって見つけ出すのだろう。
局長を負かすからにはタダ者ではないでしょうけど……。






「おーい兄ちゃんら危ないよ」

「!」






平坦な声で投げかけられる危険のサイン。
何かと思って上を見れば、縄で締められた建材が落ちてきていた。

それを寸でのところで避ければ尻餅をつきそうになって、総悟くんと亜希ちゃんに支えられた。
副長はそのまま地面に尻餅をついてた。






「あっ…危ねーだろーがァァ!!」

「だから危ねーっつったろ」

「もっとテンション上げて言えや!わかるか!」

「うるせーな。他人からテンションのダメ出しまでされる覚えはねーよ」






そう言ってヘルメットを外した業者の人。
そこにいたのは池田屋の時にあったテロリスト容疑をかけられていた人だった。
白髪の侍ではないけど、この人は銀髪の侍だった覚えがある。


(………まさか)





「…えーと、きみ誰?あ…もしかして多串くんか?アララ、すっかり立派になっちゃって。何?まだあの金魚デカくなってんの?」

「オ――イ銀さん早く、こっち頼むって!」

「はいよ。
じゃ多串くん、俺仕事だから」






多串くんって誰ですか。






「いっちゃいましたよ。どーしやす多串くん」

「誰が多串くんだ。あの野郎、わずか数日で人のこと忘れやがって。総悟、ちょっと刀貸せ」

「?」






そう言って総悟くんから刀を借りた副長は梯子を登って行ってしまった。








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