第三訓 1



「副長、補佐官!!局長が女にフラれた上、女をかけた決闘で汚い手使われ負けたってホントかァァ!!」






あれから数日後。
屯所ではどこから噂が漏れたのか、この話で持ちきりだった。






「女にフラれるのはいつものことだが、喧嘩で負けたって信じられねーよ!!」

「銀髪の侍ってのは何者なんだよ!!」






今は隊長格や部隊の責任者が集まって会議をすることになっていた。
だというのにこれだ。
騒ぎ立てている隊長格たちにひっそりと溜息を吐き出す。

(困ったな……)






「隊長、お茶のおかわりどうぞ」

「………」






里美さんは斎藤隊長と話していて、こっちの状況なんか見向きもしていない。






「会議中にやかましーんだよ。あの近藤さんが負けるわけねーだろが。誰だ、くだらねェ噂たれ流してんのは」

「沖田隊長と宮野副官がスピーカーで触れ回ってたぜ!!」

「俺は土方さんに聞きやした」

「うちは真由さんに聞いた!」






……亜希ちゃんに話したぼくがバカでした。






「なんだよ、結局アンタらが火種じゃねェか!!」

「偉そうな顔してふざけんじゃないわよ!!」

「つーことはなに?マジなのあの噂!?」






これでは会議が始められない。
フツフツと湧き上がった怒りはついに爆発し、副長は机を蹴り飛ばした。

(ああ、吸殻が……!)






「会議中に私語した奴ァ切腹だ。俺が介錯してやる。山崎…お前からだ」

「え゛え゛え゛!?俺、何も喋ってな…」

「喋ってんだろーが、現在進行形で」






ご愁傷様としか言い様がない。
さっきまでのことで副長は虫の居所が悪いんだろう。
これ、どうやって止めようかな。






「ウィース」

「なんですか?この騒ぎは」

「いつになく白熱した会議だなァ。よ〜〜し、じゃあみんな。今日も元気に市中見廻りに行こうか」






襖が開き現れたのは左頬を大きく腫らした近藤局長と、呆れたような表情の継美さん。
噂だと思っていたものが現実の証拠としてこの場に現れてしまった。






喧嘩はグーでやるべし








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