第一訓 2



ガシャーンだのドガンだの響いている背後の部屋。
中では継美による説教という名の粛清が行われている。
関わり合いになりたくなくて、真由の腕を引いて部屋の外に連れ出してあげた。
真由、にぶちんだから逃げれそうにないもの。


真由はペコペコ頭を下げながら副長のとこに行った。
わたしも仕事しに行こうかなぁと廊下を曲がる。
その先には今から会いに行く予定だった人がいた。

(ナイスタイミング!)






「隊長!おはようございますー」

「………!」






ぴくりと肩を跳ねさせたその人は、ぎこちなく振り向かれた。
振り向いて物静かな瞳でジッと見つめたかと思えば、すぐ目線をそらされる。
無言でスタスタ先に行ってしまう隊長の背を追いかけるのは日常茶飯事だ。

隊長、極度のシャイなんだもの。






『何かあったのですZ?』






隊長は部屋に着くと何度か迷ったあと遠慮がちにノートを差し出してきた。
そこに書いてあった文字は隊長が書いた綺麗な文字。
それを読めば何を聞きたいかは一目瞭然。

わたしたちの部屋が騒がしいのはいつものことだけど、継美があそこまで荒れてるの久々なんだよね。
いつものことだから普段は気にしないことなんだけど、今日は一段と激しいから気になったのかな?






「亜希が継美の大事に取っておいた限定クッキー食べちゃったみたいで、継美が憤ってるだけですよー。いつものことですけど、限定商品だったからいつもより酷いだけで」






説明すれば、なる程、といった様子で小さく頷く。
隊長の僅かな変化を読むのはなかなか難しい。
表情ほとんど変わらないし、突然トイレに駆け込むし、突然寝始める。

この隊に来た時は不安ばかりが胸を過ぎったけど、よく考えたら武州時代からこんな感じだったからすぐ慣れた。
こうやって話すようになったのもつい最近のことで、隊長も少しだけだけど話してくれるようになった。
声は聞いたことないけどね。






「隊長、今日も頑張りましょうねー。わたしは、その、なるべくドジやらかさないよう気をつけます」






ペコッと頭を下げて隊長の近くにある書類に手を付ける。
この前はお茶の時間にお茶こぼして書類を台無しにしたから、今日は気を付けないと。
その前は転んで書類を破くし、その前なんか同じ字を何回も間違ってやり直しになるし、その前は重しを置くのを忘れて風に書類を飛ばされて池ポチャ。

今日はドジをやらないことを目標にしようかな。






とんとん、



「はい?」

「……、…………、……………、」





再び散々迷った挙句、ノートが差し出される。
そこには―――。






『ドジをやらかしてもいいので、怪我をしないで欲しいですZ』

「ぜ、善処します…!」






隊長は優しい。
優しすぎて、考えすぎて、極度のコミュ障だけど、わたしの尊敬する人だ。








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