笑顔を忘れた人形




とある一人の昔の話―――。














砂隠れのある豪邸に一人の男がいた。男は体が弱く普通の生活は出来るが運動をするには弱い体で、ある程度は運動出来るが頻度を越えると咳き込んでしまう。酷い時は血を吐くのだった。


「君は良いなァ」

「え…?」


俺と男はその時出会った。おつかいを頼まれ帰る途中屋敷の前を通った、そんな時男が声をかけてきたのだ。


「君、名前は…?」

「サ、サソリ…」

「そっかァ。僕は、げほっ…雨木シュン…」

「シュン、さん?どうして、僕に声を…?」

「僕、走れないんだ。君、走ってたからいいな、って」

「………僕、将来シュンさんが走れるような薬を作るから待ってて!」

「!、うん…楽しみに待ってるね」


そして、アレから何年経っただろうか。俺が里抜けして暁に入って2年くらいの頃だ。任務後の俺の前から若い夫婦がボロボロになって歩いて来て、勿論俺には関係ねェから無視するつもりだった。


「あ、れ…?」

「!!、あんた…」

「わぁ、サソリくんだァ…。あの、ね…この人を、たの、んで、いい…?」

「…」


この人には幼少の頃本当の家族のように遊んで貰った記憶がある。その、恩を薬を渡すことでしか返していない。


「…分かった」

「あ、りが…がふっ…」

「!!」


その後、シュンさんは血を吐き眠る様に亡くなった…。それから俺は暁のアジトに女を連れて帰り、小南に見せたところ女は妊婦らしい。小南は"出産は任せて頂戴"とか張り切っていた。


「…」

「…」


そいつと俺は喋らなかった。小南と良く喋るところは見かけるが俺に微笑みかけもせずただ無表情。


「…あなた、いったい何なんです?主人の何ですか?」

「あぁ?んなことどーでもいいだろォが」

「良くありません!!私にとっては、どうでも良くない…っ」


ポロッ、と涙を零した俺よりも遥かに小さく細い体に一つの命を宿した女を俺は抱きしめた。


「…ぅ…っふ…!!」


女はここに来て初めて弱さを見せた


「怖いよ…っ、私、一人、で…産めない、よぉ…っ。産んだとして、どうすればいいの…?嫌だっ…。一人は嫌だよぉ…っ」


ギュッ、と俺の背中に手を回す女。人妻なのにな…それも、俺の大好きな人の…人妻。んなこと、分かってた。


「おい、名前は?」

「ふ…っく…っ…ユグサ…ッ…」

「へえ…。俺は、サソリだ」

「…サソリ、さん…」


ユグサは安心したように俺の胸に体を預けた。その時はまだ生身で―――…


「私…シュンさんを愛してます…。でも、あなたを愛しく思うのです…。これは、罪、ですか…?」

「そうだな…、まァ、罪なら一緒に背負う」

「んっ…」


その後、初めて女と口付けを交わした。それからと言うもの大蛇丸には邪魔されるわ小南にはまったく女心がー、とかリーダー(とは思えない)には生暖かい視線が送られるわだったが幸せだった…気がする。


「…サソリさん…っ…痛いッ…怖いよ…っっ!あぁぁあぁぁっ…!!」


出産日が来た。例えシュンさんの子供でも俺は愛すと決めたんだ、シュンさんの分まで愛を注いでやると。そして、約一日ほどだろうか…無謀だ、と言われた出産は終えた。だが、無謀という意味が漸く分かった。いや、分かっていたは認めたくなかったんだ。


「…、…」


ユグサが死んだ…。赤毛で薄い赤の瞳をした少女をこの世に産み残して。


「…ったく、結局はお前一人か…」

『ぁー…ぅ…?』


赤ん坊にしては泣きもせず笑いもせずただボーッと俺を見つめていた


「…お前にも名前がいるな…」


俺は2人の分までこいつに愛を注ぐと決めたんだ。俺らは、病院から子育てに関する本を盗んでアジトへ帰ったり、ベビー用品を任務帰りに買って来たりと暁全員で色々と世話を焼くようになった。


『…』

「泣かないのねえ、その子」

『…う?だぁれ…?』

「「「「「!?」」」」」


シュンさんとユグサの娘は瞬く間に勉強が出来る様になり、まさに"神童"の様だった。


『サソリさん、サソリさん』


やる気のなさそうな瞳をこちらに向けいつも俺にだけ笑うのだ…、『だいすき、サソリさん』と。そして、俺の膝の中で寝るのだ…。


「…お前はシュンさんにもユグサにも俺にも似てる変な子だ」

『…すー…』


そして数年後、少女は初めての殺しを犯すのだ。仲間に…暁にお金をたくさんあげたかったからカイアと名付けられた少女は賞金首を殺すのだ。


『…みん、な…っ。やった、よ…』


 パタッ


「!!、カイア!?どうした!!誰がこんな事…。その首…」

『えへへ、賞金首ー…。あのねー、怪我じゃないの…。これ、ぜーんぶ返り血なんだけどね…。疲れた…。ねえ、父さん…。ギュッ、ってして?』

「…お前は大馬鹿だ」

『うん…』

「何でこんな事した」

『…みーんなが大好きだからっ…。これで、当分は生活、出来るね』

「「「「「!!」」」」」

「カイアーっ!!お前は本当にー…っ!!」

 ギュッ

『わ、リーダー…?』

「馬鹿ね…。こんなになるまで」

『小南姉?』

「団子をやる」

『イタチ…』

「ジャシン教入信を『入らない』冗談だろォ?」

「これで等分の家計はやりくりできる」

『よかったね角都〜』

「今日はごちそうですかね」

『わ〜い!!ありがとう鬼鮫!!』

「いい爆発だ!!うん!!」

『爆発なんてして無いよ…デイダラ…』

「やりますねー」
「無茶ナ奴ダナ」

『あはは』

「無事で何よりっスね!」

『うん』

「…」

『父さん…?』

 ポンッ



頭に手を置きわしゃわしゃと頭を撫でた。優しい言葉はかけてやれなかったけど微笑みを“娘”に向ける。そいつは、初めて皆の前で笑ったのだった。


―――――――――


――――――


―――


「…シュンさん…ユグサ…」


俺が誰にも知られないところにたてた小さな墓はシュンさんとユグサの墓。やっぱ、ユグサは俺を愛すよりシュンさんを愛して欲しかったから…。


「…俺にこんな優しさ、似合わねェのによ」

『…サソリさん…、ううん。旦那…』


ユグサと同じ瞳の色を持ち俺と同じ髪色を持つ少女が俺を背後から抱きしめた。涙をポロポロ零しながら。その時はもう体は傀儡、熱なんて感じなかったし、与えてもやれない体だった。


『…』


ユグサが愛した俺は居ない。シュンさんの知ってる俺はもういない…。


『母さんも父さんも…旦那のおかげで嬉しがってるはずだから』

「!!、ばーか、この俺が両方とも見送ってやってんだぜ?幸せじゃねェと俺は、最愛の奴を見送った時の感情をどうすりゃ良いんだよ」


年甲斐もなくその日だけは必ずこいつの腕の中で泣くのだ。涙は溢れないけれど、それが、一番こいつを愛してやれる方法。


『僕、サソリさんが好きです。愛してます。だから、もっと頼ってください』


それが、こいつを一番愛せてこいつが一番望む結果だから…。

「…ッ…」

『…愛してるよ、サソリさん』

「!、…っ……っ…」


こいつは俺の扱いがうまいみたいだ…。それに…こいつはいつも愛してるって言う。


「…」

『あ、もう良いんで…、!』

「…」


抱きしめてやると、カイアは微笑んで背中に手を回す。


「あのな…俺も、愛してるぜ」

『!!、はい…お父さんでもあり最愛の人でもあり旦那でもあり師匠でもあるサソリさんが僕は大好きで、愛してます』


だから、俺はこいつが可愛くて仕方ないみたいだ。


「帰んぞ」

『あ、待ってくださいよサソリさ〜ん!!』


笑顔を忘れた人形と愛を与えた少女




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