第21話

ヴィーデがルシス王国のハンマーヘッドへ着いたのはその日の深夜近くだった。工場はもう閉まっていたので、ひとまずモービルキャビンで身体を休めることにした。
グリフォンに一矢報いると言う大きな目標を果たしてくれたリベルタに餌をやりながら労った。

「リベルタ、今日はよく頑張ったわ。朝になったらシドさんに脚を点検してもらおうね。おやすみ」

そう声をかけ、ヴィーデも大きなあくびをしてベッドへと入った。



翌朝―


ハンマーダイナーで朝食を済ませた後工場へと向かう。
相変わらずはつらつとして健康的な美しさの溢れるシドニーに声をかけた。

「シドニー、久しぶりね!」
「あ、ヴィーデ!それにリベルタも!」

シドニーに頭を撫でられ、リベルタが嬉しそうに目を閉じた。リベルタはこう見えて、男よりも女が好きなれっきとしたオスのチョコボなのだ。

「そろそろ来てくれる頃かなーって思ってたんだよ!」
「うん、もう少し早く来たかったんだけどね。シドさんいる?リベルタの脚の調子を見てほしいの」
「オッケー、呼んでくるね」

シドニーが工場の奥へ入ると、すぐに好々爺が顔を出した。おう、とヴィーデに一言声をかけ、リベルタの脚元にしゃがみ込んで手製の義足を見つめる。

「調子はどうだ?問題なく使えてるか?」
「ええ、絶好調よ。シドさんのおかげ!」
「ちょっくら油刺して磨いてやる。こいつ奥へ連れてきな」

義足のメンテナンスの様子を眺めていると、シドニーの視線を感じる。
何?と顔を向けると、にっこりと笑って言った。

「ねえヴィーデ、すこーし雰囲気変わった?」
「え?特に何も変えてないわ。髪型も同じままだし」
「うーん…何ていうか…」

顎に手を添えて、ヴィーデを眺めながら一周する。

「ヴィーデ、すごーく可愛くなったわ」
「…え!?」
「あ、ゴメン。もともと可愛いのよ?でもなんだか、磨きがかかった感じ?キラキラしてるっていうか」
「あ…ありがとう…キラキラって、よく分からないけど…」
「恋してる?」
「…こ…」

恋。

そう言われて真っ先に頭に浮かんだのは、優しくて時々ちょっとだけ恐い赤い髪の男の顔だった。
彼から受ける口づけはその日あった嫌な出来事をすべてチャラに出来るほど甘くヴィーデを蕩けさせる。
その腕できつく抱きしめられれば少しだけ苦しいけれど、肺の中の空気が全て押し出されるような感覚が好きだった。
そんなことを思い出していると、シドニーに顔が真っ赤だと指摘された。

「やっぱり恋!図星?」
「べ!別に!恋とかそんな…!」

熱くなった顔を掌で扇ぐ。
異性に想いを抱く経験などなくこれまで生きてきたヴィーデにとって、シドニーに指摘されて初めて自分がアーデンに魅かれていることを自覚した。
彼が貴族の女性とデートをしている間に感じる胸の違和感も、ヴィーデに与えられるその唇がうっとりとするほど甘いのも、全てはアーデンへの恋する気持ちのせいなのだ。

そうかこれが恋と言うものなのか。

そう思った時、もう一人、髪の白い狐によく似た男の顔が頭に浮かんだ。
カウザの日記を勝手に持ち出し読んだ憎い男。先祖の敵でもあると同時にヴィーデにとっては剣術の師である。
焦がれるほど強く、恐らくどれほどヴィーデが鍛錬を積んでもその背中を追い越すことなどできない。
さらには敵意を向けられていると分かっているはずなのにそのヴィーデに結婚を申し込むという命知らずな男だ。

「…やだ…どうしてレイヴスが出てくるの」

そんな独り言を呟いて、シドニーに不思議な顔をされた。

「あー…と、ところでさ…最近ノクト達はここへ寄った?」
「うん来たよ。ちょうど昨日の夕方ね、レガリアのメンテナンスで。ほら、彼らの車それよ」

真っ黄色のド派手なレガリア。よく見るとバンパーが見事にへこんでいる。

「みんな今頃チョコボでその辺走ってるんじゃないかな?」
「ほんと?ちょっと探しに行ってみるわ!」

ヴィーデがそう言ったちょうどその時、義足のメンテナンスを終えたリベルタが工場から顔を出した。
ピカピカに磨かれた脚を自慢するように、軽快なステップでヴィーデの側まで駆け寄って来る。

「シドさん、ありがとうございます!良かったねーリベルタ」
「いい具合だな、何の問題もねえ。時折このオイルを関節部分に差してやれ。サビねえ金属を使ってるから水には強いが、滑らかな動きを維持するには必要なもんだ」

そう言ってボトルに入ったオイルをヴィーデに投げて寄こした。

「分かったわ、お世話になりました。また来るわね、シドさん、シドニー」

別れを告げてハンマーヘッドを飛び立つ。
地図を広げ、近場に釣りができる場所がないかを探した。

「このあたりだと…ダスカ地方の釣り場が近いのよね。みんないるかな」

ひとまず現在地から西に向かって飛び、二グリス湖から南下してノクト達を探すことに決めた。
風を全身に浴び、広大な土地を眼下に飛ぶのは心地よい。

復讐の対象である王族の治める国なのに、ルシスはなぜこうも居心地がいいのだろう。
リベルタの背に乗ってこうして飛んでいると、どこまでも自由になれる気がする。

「またアーデンとここへ来たいな…今度はもっともっといろんな所を見て回りたい」

今頃彼は何をしているのだろうかとヴィーデは思った。昨日グリフォンの羽毛に書いた手紙ひとつ残して勝手に出てきてしまったことを怒ってはいまいか。
今日もまた、どこぞの貴族令嬢と肩を並べて歩いているのではないか…。

そこまで考えて、ヴィーデはネガティブな想像を追い払うように頭を振った。

「ルシスに来てまであのお嬢様達の事なんて考えたくないわ」

そう独り言を呟いて前方に目を向けると、数百メートル先に4頭のチョコボが駆けている姿が見えてきた。
後ろ姿だが、見覚えのある金色の髪の男に、やけにガタイのいい男、それだけで確信した。

「いた!見つけたわ!!」

リベルタを加速させ一息に追い越し、緩やかに旋回して彼らの目の前に着陸した。

「うわ!何だ!?」
「久しぶりみんな!ヴィーデよ、覚えてる?」
「…え…!ヴィーデ!!」

突然空から舞い降りた黒チョコボに一瞬驚いたノクト達は、それがヴィーデだと分かると各々チョコボを降りて駆け寄ってきた。
しばらくぶりに見る彼らに変化はない。あの楽しかったキャンプが昨日の事の様に思い出される。

「変わらないねみんな」
「まあな、そっちも?」
「うん、さっきね、ハンマーヘッドにリベルタの脚のメンテナンスに行って来たの。レガリア、ぶつけちゃったんだって?」

ヴィーデがそう言うと、ノクトはバツが悪そうな顔をして頭を掻いている。

「ノクトが運転しててぶつけだんだよ、ねー?」
「…プロンプト、余計なこと言うなよ…」
「だからイグニスに任せておけばよかったのに」
「運転に慣れろって言ったのはイグニスだ」

相変わらずのやりとりに、ヴィーデは噴き出した。彼らといると、不思議と心が穏やかになるのを感じる。

「久しぶりだなヴィーデ、リベルタの調子はどうだ?」
「イグニス、この子も絶好調よ。あの時みんなが助けてくれたおかげね」
「チョコボの操縦もますます上達したようだな」
「ええ。知り合いに黒チョコボに詳しい人がいてね…飛び方を教わってるのよ」

そう言ってリベルタを撫でると、なぜか誇らしげにクワアと鳴いた。
するとプロンプトが近づいてきて、恐る恐るリベルタを撫でながら言った。

「ねえねえヴィーデ、オレもさ、黒チョコボに乗ってみたいんだけど!」
「もちろんいいわよ」
「え…!本当!?やったあ!!」
「ただし操縦がかなり難しいから、私が前に乗ってプロンプトは後ろにね」
「了解!」

プロンプトを後ろに乗せたヴィーデは背後を振り返り、

「落とされないように、私にしっかり掴まっててね」

と言った。控えめにヴィーデの腰に手を添えるプロンプトに、もっと強くしがみ付けと言う。

「…も…もっと!?」
「私の身体は鞍と直接ベルトでつながってるから落ちないけど、後ろに乗る人の命綱は私だけよ。もっと身体くっつけてないと危ないわ」
「…え…じゃ、じゃあ…」

失礼します、と言って両腕をヴィーデの腰に回して胸と腹を小さな背中にくっつけた。

「いい?飛ぶよ」

ヴィーデがそう言うと、リベルタはその場で羽ばたきふわりと宙に浮いた。

「わっ…!わわわ!!すごい!!見て見てノクト!浮いてる!」
「よーし、行くよ!」

さらに上昇したリベルタは広い空を縦横無尽に飛び回り、プロンプトの嬌声と絶叫が交じり合った悲鳴が響き渡っている。
叫び声が強くなるほどに密着する二人の様子を見てグラディオが呟いた。

「……オレも乗せてもらおう」
「下心丸出しだなグラディオ」
「お前は乗りたくねえのかイグニス」
「……オレは純粋に黒チョコボに乗ってみたいと思うだけだ」
「素直じゃねえな…!」

ノクトを見ると、空中でくるくると回転するプロンプトを見て腹を抱えて笑っている。

「おいノクト、お前も乗せてもらうのか?」
「ああ?あったりまえじゃん!こんなチャンス滅多にないだろ?何だよ、お前ら怖いの?」
「……純粋だな…」

空を見上げると、リベルタがはるか上空から垂直に地面へと向かって来る。もはやそれは飛行と言うより落下そのものだ。
プロンプトの長い悲鳴が轟き、地上に激突すると思った瞬間リベルタは身を翻して華麗に着地した。
よろよろとリベルタからずり落ちたプロンプトは土の安心感を噛みしめる様に大の字に寝ころんだ。

「…やばい…死ぬかと…思った……っていうか…オレ生きてる?」
「よお、どうだったプロンプト」
「グラディオ…ああ…ジェットコースターっていうか…?すっごい怖かった…けどサイコー…!」
「……だろうな…で?ヴィーデの方は?」

グラディオが口元を緩ませながら小声で言う。

「…もちろんそっちもサイコー…!」
「…だろうな…!よし、次オレな!」

巨体のグラディオを乗せたリベルタは心なしか飛行に苦労している様子で、次のノクトに至っては自分で操縦すると聞かずに危うく地面に墜落するところだった。
最後のイグニスはしっかり者なので、安心して見ていられる。他の3人がそう思って空を見上げていた時。

「イグニス…!ちょっとそこ…胸だから!!もっと下に腕回して!!」
「えぇ!?す…すまなぃいいぃあああああぁああ!!!」

ヴィーデが慌てたためリベルタがバランスを崩し、二人と一頭はもつれながら地面へと落下していく。
寸での所でリベルタが体勢を持ち直し、ヴィーデとイグニスを無事に大地へと届けてくれた。

グロッキー状態のイグニスを冷たい視線で見下ろしながら三人が言う。

「…イグニス…てめぇわざとだろ…」
「わざとだな」
「わざとだよ」

息の合った攻撃に、ヴィーデは可笑しくなって笑ってしまった。




その後、ヴィーデはノクトら四人と釣りを楽しみ、身体を触ってしまった詫びにとイグニスが豪勢な昼食をごちそうしてくれた。
今日中に帰れとアーデンから言われていたため、名残惜しさを残しつつもヴィーデは彼らと別れの挨拶を交わす。

「じゃあねみんな…なんだか寂しいな」
「またすぐ来ればいいじゃん」
「ノクト…いいの?」
「はあ?当たり前だろ。オレら友達じゃん」
「……友達…」

幼い頃から今まで、友達というものを持ったことがなかった。村でヴィーデの一族は、崇拝されつつも嫌厭されるという状態だったので当然子供たちの親は幼いヴィーデと遊ばぬようにと言いつけて育てた。
同世代の子供たちが輪になって遊ぶのを、遠巻きに眺めているだけの幼少期を過ごしてきたのだ。

そんなヴィーデが自由の他にもう一つ欲しかったものが、『友達』だった。

「だろ?」
「…うん!そうね、友達!」

この歳になってようやく得た友人たちと再会を誓い合い、ヴィーデは大空へと飛び立った。
その姿を見送りながらグラディオがイグニスに言う。

「…やっぱわざとだったんだろ?」
「また蒸し返すのか…!わざとじゃない!」
「……どうだったよ?」
「…………意外と…」
「意外と?」
「…大きかったな…」

イグニスは三人から小突かれる羽目に合った。








空の旅を終え、ようやくニフルハイム帝国へ到着した頃には外はすっかり暗くなっていた。
リベルタを倉庫の寝床へ連れて行き餌を与え、おやすみとその頬にキスをしてやる。

薄暗い廊下を歩き、部屋の前で鍵を取り出した時―

「おかえり」
「きゃっ!」

突然耳元で聞こえたその声に思わず悲鳴を上げた。

「び…びっくりしたよアーデン」
「そろそろ帰ってくる頃かなあって」
「よく分かったね。ただいま」

ドアを開けてアーデンを招き入れる。部屋の電気を点けようとして、その手をアーデンに遮られる。

「電気点けないで、このまま」
「どうして?」
「うん、そのうち分かるよ…ワインもらってもいい?」
「いいよ、赤白どっちがいい?」

ヴィーデがそう言うと、今日の気分は白かなとアーデンが言った。グラスを二つ用意してそれに注ぐと、アーデンはそのままソファに腰を下ろした。
こっちへおいでと手招きされてその隣にヴィーデが座る。

「そろそろかな、窓の外見ててごらん」
「窓の外…何があるの?」

カーテンを開け放った窓を眺めていると、突然ひゅるるると音が聞こえ続いてドンと大きな音が響いた。
すると夜空に色とりどりの大輪の花が咲いた。

「え!?な、何アレ!!」
「今日花火大会なんだよ。毎年この時期にあるんだ」
「私が知ってる花火と違う…!どうしてあんなに大きいの!?」

興奮した様子で窓に駆け寄ろうとするヴィーデの身体に腕を回し、ここでも見れるだろとアーデンは言う。

「見れるけど…」
「ヴィーデ、打ち上げ花火って知らないの?」
「知らないわ…村にも花火はあったけど、もっと小さくてこう…手で持つのよ。それすら子供の頃母と一度やったきりだけど」
「じゃああんなに大きいのは初めて見るんだね。ヴィーデと一緒に見ようと思って…だから今日までに帰ってきてほしかったんだ」
「…そっか…間に合ってよかった」

どんどんと大きな音を立てて、花火は次々に夜空を彩っていく。その美しさに言葉を失い、思わずため息をついた。
そんな様子のヴィーデを微笑ましく眺めながら、アーデンはふと疑問に思っていたことを尋ねた。

「ヴィーデの口から母親の話はたまに出るけど…お父さんっていたの?」
「……お父さん…見たことないの」
「同じ村の男?」
「そう…でも子供ができるとね、その子の父親は村から出ていくんだって。ずーっとそうしてたみたい」
「ふうん、どうして出て行かなきゃならないんだろう」
「…だって…子供が出来ても『役割』は続くのよ?自分の妻が自分だけのものにならず、それどころか娘まで…きっと耐えられないよね」
「……………」

男が耐えられないのか、それとも邪魔者を排除するために作られたしきたりなのか。
いずれにしてもヴィーデの生まれ育ったあの村は異常だとつくづく思う。

「お父さんいなくて、寂しかった?」
「…そうね…寂しくなかったって言えば嘘になるかな…同世代の子たちは当たり前の様に父親と遊んでたし。でも…」
「でも?」
「結局誰が側にいても、私は一人だったと思う。寂しいと思う気持ちは変わらなかったんじゃないかな」
「……今も寂しい?」

そう言うアーデンに背をもたれさせ、今は寂しくないとヴィーデは答える。

「そうだ、今日ね、リベルタの脚のメンテナンスに行ったの。そこの整備士の女の子にね、可愛くなったねって言われたのよ」
「へえ?」
「恋してるでしょって言うの。その時私、一番最初にアーデンの顔が思い浮かんだの」

はにかむようにそう言った。

「本当?そりゃ嬉しいね」
「アーデンの顔とか声、この大きな手を思い出したのよ…」
「ヴィーデ、オレに恋してくれてる…?」

そう言って、ワインで少しだけ濡れた唇にキスをしようと顔を寄せた時、でも、とヴィーデが言った。

「その次に浮かんだのがレイヴスなのよ。変なの、大嫌いなのに」
「………」

思わず片方の眉が上がる。こういう時のヴィーデの素直さは、良くも悪くもアーデンの気持ちを不安定にさせる。
軽く咳払いをして、ヴィーデの頭を撫でながら言った。

「それはあれだな…憎しみの感情って言うのは、時に愛情と同等か、それ以上の強さがあるんだ。愛する気持ちが一瞬で消えることはあっても、憎しみを消すってのはなかなかできない。分かるよね?」
「それは…すごくよく分かる…」
「いい子だ…だからね、それぐらいの思いだっていうこと。恋って言葉を聞いてオレを思い出した後にレイヴス将軍の顔が浮かんだのは、ヴィーデの脳が愛情と憎しみを混同させた可能性があるかな」
「なーんだそっか、安心したわ。私がレイヴスを好きなのかと思っちゃった」

そう言って無邪気に笑う。アーデンの想いを把握しているのなら出るはずのない台詞だ。

「彼を好きなんてありえないだろう?」
「ありえないわ!人の家に勝手に入り込んで日記を持ってきちゃうような人よ」
「うん、最低だねまったく」
「あ、それとね、ずーっと欲しかったものが手に入ったのよ」
「欲しかったもの?」
「うん…友達…!」

輝くような笑顔でそう言った。

「また会えたの。以前話したでしょ?一緒にキャンプして釣りを教わって、リベルタを助けてくれたハンターよ」
「彼らが友達?」
「うん。オレたち友達だろって言ってくれたの…私、村で嫌われ者だったから小さい頃から友達が一人もいなくて…憧れてたんだ、友達と遊ぶって」
「…そっか…良かったじゃない」
「夢が一つずつ叶えられるって素敵ね。村から出て自由になって、友達が出来て…これって全部アーデンのおかげよ」
「どういたしまして…お礼はキスでいいよ?」

アーデンがそう言うと、小さく笑ってそっと唇を寄せた。ヴィーデの後頭部に手を添えて、少しだけ力を入れてさらに強く唇を押し付ける。
声が漏れる瞬間に開いた口の隙間から舌をさし入れて上顎を舐め上げる。ヴィーデの舌を強く吸って一度唇を離し、今度は角度を変えて再び口づける。

「…ん…んーっ…」

少しだけ苦しそうに眉を寄せてもまだ放してはやらない。
自分の前でレイヴスの名を出したヴィーデに、恋する相手は目の前にいる男だけだと分からせてやりたかった。
いつもの優しく触れるだけのキスとは異なるそれに、ヴィーデの頭はくらくらとした。

ようやく解放されると、ヴィーデはとろりとした瞳でアーデンを睨んだ。

「…いつもと違う…」
「どっちのほうがいい?」
「…ん…どっちもいい…けど…」

恥ずかしそうにアーデンの胸に顔を埋める。
全身を使ってヴィーデをきつく抱きしめると、籠の中に匿って二度と外の世界へは出したくないという欲求に駆られる。
ヴィーデの願いが叶う事は喜ばしくもあるけれど、それは自分以外の拠り所を得てしまうと言うことにつながる。
しかしながら今のヴィーデが生き生きとして魅力的なのは、アーデンから与えられた自由を謳歌しているために他ならない。

拘束と解放のバランス

それはアーデンにとって国の政務や黒チョコボの操縦よりもはるかに難しく、目下のところ最大の悩みの種なのだった。
窓の外で美しく咲く大きな花火を見て、アーデンは深くため息をついた。






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