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09 別離


つい先日こんなことがあった。
俺は途中から登板する予定だったから気付いた時はベンチにいたんだけど、彼女とみょうじがたまたま同じタイミングで練習試合を見に来ていた。二人とも友達と一緒に見に来ているようで、それぞれうちの学校の制服を着た女の子数人と一緒になって観戦していた。
その二人の姿がとても対照的だった。

彼女は俺が出ていないからか、グラウンドの方を見ることもなくずっと自分の手鏡と睨めっこしながら前髪を整え日焼けを気にし、たまに欠伸を零していた。
一方のみょうじはというと、一言で言えばとても楽しそうだった。ヒットが出る度に友達と一緒に喜んで拍手をするし、一転してちょっとでもピンチになると不安そうな顔でピッチャーを見ていた。試合の流れに一喜一憂して、コロコロと表情を変えていた。

そんな二人を見ながら、我ながら良い視力をしているよなあ…と思わず笑ってしまった。この日、俺が誰のことを意識して投げたかは言うまでもない。応援してくれる以上、せめてあいつがずっと笑顔でいれるように、なんて柄にもないことを考えた。

「みょうじちょっと目立ちすぎ!見てるこっちが恥ずかしかった」

「え、そんな悪目立ちしてた?ごめん…ちょっと夢中になり過ぎてたかな」

「別にいーけどさ。みょうじってそんなに野球好きだったっけ?」

「ううん、本当はルールとか全然わかってない。色々人に聞いたんだけどややこしくってさ、何が起こってるか全然わかんないところとかあったし…。でも点が入ったかどうかくらいはわかるから!」

何がそんなに楽しいのかと聞きたくなるほどにニコニコ笑顔で話すみょうじ。
試合終わり、ちょっとした空き時間に俺はみょうじを捕まえた。どうしても今日言わずにはいられないことがあったからだ。

「そんなの全然威張ることじゃないから」

「うーん、そうかもしれないけど、やっぱり何回観ても野球のルールって難しいよ」

「本当に、みょうじは何回観に来てると思ってんの?……まあ、でも今日はありがと」

「ん?最後何て?ごめん聞こえなかった」

「何でもないよ!ほら、さっさと帰った帰った!まだこっちは忙しいんだから」

「ちょっと、声かけてきたのそっちなのに何その態度!言われなくても帰りますー。成宮のバーカ!」

しっしっと追い払えばみょうじは捨て台詞を吐きながら帰っていった。バーカって…小学生かよ全く。感謝を口にすることが思ったよりも恥ずかしくて、素直に言えない俺も子どもっぽいけど…。

その時は大して深く考えることもなかったけど、今思えばこれこそが決定的な出来事だった。この時から俺は毎日大きくなっていく違和感に徐々に支配されていくことになる。

△▽△


「鳴さん、お疲れ様」

練習終わりに水道で顔でも洗おうと歩いていたら、彼女が俺を待っていた。今日は上手くいかないことが多く少し苛立っていたせいもあって、彼女をあまり歓迎することができなかった。蛇口を捻って水を出して手を濡らす。今の時期はまだが水が冷たい。

「もう暗いから早く帰りなよ。俺まだもう少しメニュー残ってるから」

自分でも素っ気ない嘘だと思った。きっと彼女もすぐに嘘だと気付くだろう。そして案の定俺の態度が癇に障ったらしい彼女がヒステリック気味に何かを言い始めたが、手のひらで掬った水で顔を濡らしながらわざと聞かなかった。そうやって俺に文句ばかりをぶつけてくるところとか、一緒にいて本当に楽しくない。こんな内心を彼女に伝えてしまったら今の関係は終わってしまうだろう。もうそれでもいいかなと思っている。みょうじだったらきっと…、きっと。

今の彼女と付き合うことになったきっかけは何だったのか、もう曖昧にしか思い出せない。確か俺の試合を観て一目惚れだったとかなんとか…。突然告白された時は驚いたけど、可愛い子だし野球のこともそこそこ知ってるみたいだったから、まあいっかなんて結構軽い気持ちで付き合い始めた気がする。

「何でそんなに冷たいの?」

もう帰れとはっきり言ったのに彼女はそれを無視して俺に問う。何でそんなに冷たいのって、何で?逆にどうしてわからないのかと俺は不思議に思った。

「あのさあ…、俺にとって今一番大事なのって野球なのって知ってる?その他は全部二の次三の次ってことでやってるんだけど」

「そんなのわかってますよ。だから私はいつも試合に行って応援して…」

「自分のことも二の次って、ちゃんと理解してる?」

彼女の言葉を遮ってそう言うと、彼女はぐっと言葉を詰まらせた。わかってると言いつつもどうやら本当の意味ではわかってなかったらしい。自分だけは特別だと思い込むのは誰にでもよくあることだ。頬を真っ赤に紅潮させた彼女は、もしかしたら怒っているのかもしれない。握った拳が小刻みに震えているのが見えたが、それを見ても俺は何も感じない。

「最初に言ったと思うけど、俺は野球に色んなものを懸けてんの。だからいざという時にはあんたよりも野球を優先するよって。それでもいいってあんた言ったよね?」

「…はい、言いました」

「あ、責めてるわけじゃないから誤解しないでよ。…けど最近ちょっと目に余って自分勝手ってなんじゃない?まあ、俺が言えた義理じゃないんだろうけど」

「………」

本当に俺がこんなことを言える義理じゃないからちょっとおかしい。彼女もお前にだけは言われたくねーよって内心思っているに違いない。

「それじゃあ、別れようか」

もう俺の中では決定事項なんだけどね。
俺にも非があったことは否めない。だからもうこれからは、好きでもないのに人と安易に付き合うのはやめることにするよ。