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10 告白

梅雨もそろそろ明けようかという頃になって成宮から着信があった。日曜日の朝早くにかけてこられても起きているはずがない。朝5時って…さすがに無理だよ。気付いた時に折り返し電話をかけようと思ったのだが、成宮からメッセージが入っていた。それなら最初からメッセージだけでよかったのでは…?という疑問をぐっと飲み込んで目を通す。今日の午後、成宮が私の家にやって来るそうだ。え、うそ。冗談じゃなくて?

「…いらっしゃい」

「ん。これあげる」

玄関のドアを開けると成宮は仏頂面で立っていた。挨拶もそこそこに差し出された紙袋を受け取って広げると、何と手土産だった。そこに気を遣う余裕があるなら、もう少し早く家に来ることを連絡してほしかったんだけど…。何かが決定的にずれているような気もするが、有り難くいただくことにして成宮を家に招き入れる。キッチンで受け取ったばかりの包みを開けると、夏らしい色鮮やかなゼリーが数種類。うん、すごくセンスが良いと思う。どれをいただこうか少しだけ悩んだ後トレーを持って成宮の待つ部屋まで戻った。

「え、何してるの?」

成宮はベッドに置いていたはずの私の抱き枕を両手で抱き潰していた。1メートル近くある大きな抱き枕は去年の誕生日に友人からもらったもので、ちょっと前から流行っているらしく雑貨屋に行くと必ずと言っていいほどこのシリーズが並べてある。

「いいよね、これ。前来た時も思ったけど、俺もちょっと欲しい」

普段私が抱いて寝ているネコの抱き枕をぎゅうぎゅうと抱き締める成宮に頬が緩みそうになった。ちょっともう、可愛すぎ。今夜寝る時、抱き枕に成宮の匂いが移ってたらどうしよう。ローテーブルの上にトレーの物を置きながら緩んで今にも上がりそうな口角を必死に隠した。

「他にもウサギとかクマとか種類があるみたいだよ、その抱き枕」

「ふーん、でも俺もこれがいい」

「お揃いになるじゃん」

「さすがに寮には置かないよ、他の奴らに色々言われそうだし」

あくまで置かない理由は他の人の目があるからであり、私とお揃いになるのは別にいいってことですか。反応に困った私は、「ふーん」と素っ気ない返事しかすることができなかった。
それからまたしばらく雑談を交わしたが、その間も成宮は抱き枕をずっと抱いたままだった。ああ、そんな頬ずりなんかして…。
ふと、成宮の表情が曇った。相変わらず抱き枕を触り続けていて手元は忙しないが、口を開きかけてまた閉じるのを数回繰り返した後に成宮と視線が交わった。やっと今日の本題に入るのだということを察して身構えた私は、どうしたのと何でもないように声をかけた。少しの間の後、成宮は口を開いた。

「別れた」

一瞬、どう反応したらいいのかが分からなかった。というのも、成宮と彼女が別れたという事実は随分前に噂で聞いていたからだ。成宮が何も言わないのであれば私から聞くことは何もないと思って今まで黙っていたのだが、どうして今更になってそんなことをわざわざ伝えに来たのだろうか。学校で噂になっていたこと自体、成宮もよく知っているはずだ。
今回は文句を垂れながらも成宮にしては意外と続いた方で、5ヵ月近くは付き合っていたことになる、らしい。そんなことまで噂で流れてきていた。別れたという事実を聞いて、率直に言えば私は安堵した。やっぱり、やっと、という気持ちだった。ずっと成宮のことが好きだった私からしてみればこれは明らかにチャンスで、友人からも今のうちにもっと攻めろ!と背中を叩かれまくった。にも拘わらず、不思議なことに私は全く動く気になれずに結局こうして今に至っている。

何故、成宮はわざわざ休みの日に私の家に来てまで直接教えてくれたのだろうか。どうして別れたの?何があったの?聞きたいことは山ほどあるけれど、どこまで踏み込んでいいものかわからなくて悩んだ。そして散々悩んだ挙句、私の口から出たのは何てことない一言だった。

「そっか。…まあ、元気だしなよ」

我ながらもう少しましな返答があるだろうとは思ったが、これ以外何も言うことができなかった。私の言葉を聞いて、成宮は明らかに面白くなさそうな顔をした。

「別に!振ったのこっちなんだから、落ち込んだりするわけないじゃん」

「えっ、そうなの…?」

これには正直驚いた。噂では成宮が彼女にこっぴどく振られたということになっていたはずだが。やはり噂を鵜呑みにするのはよくないらしい。
しかしそうなると、ますますもって意味が分からない。成宮が彼女を振ったのならば、どうしてそんなに神妙な顔をしているのか。その成宮らしくない表情と、一連の不可解な行動が相まって不安を感じてしまう。何かが起きるんじゃないかって。

「えっと、成宮は…、どうしてそういうことをわざわざ私に教えてくれるの?今回だけじゃなくて毎回のことだけどさ。遅かれ早かれ噂は耳にするんだから言わなくてもいいのにって思うんだけど」

「………」

「…聞いてる?成宮」

「俺が言いたいって思ったから言ってる。悪い?」

「いや、悪いなんてことはないけど」

「みょうじは責任を取るべきだと思う」

「責任って、何の?」

「決まってんじゃん。全部みょうじのせいなんだから、その責任」

はて、一体どうしたものか。成宮の言っていることが全く理解できない。首を捻って腕を組み、何か成宮に悪い事をしただろうかと過去を振り返ってみたがこれといって心当たりはない。ちらっと成宮を窺うと、何故か私よりももっと難しい顔をして抱き枕を撫でていて、その姿は何だか拗ねた子供みたいに見えた。

「私、成宮に何かしたっけ?」

「べっつにー」

「えー?言ってることが全くわかんないんだけど…。ねえ、やっぱりさ、別れたからちょっとへこんでるの?」

「だからこっちから振ったって言ったでしょ」

「だって成宮変だよ?」

絶対に変。そう断言すると、いよいよ痺れを切らしたのか鬱陶しくなったのか、ガリガリと数回頭を掻いた成宮が苛立たしげに声を上げた。

「だから!全部みょうじのせいって言ってるでしょ!みょうじのことが頭から離れないんだから、責任取ってよ!」

抱き枕を投げ捨てた成宮が身を乗り出したおかげで、私たちの距離がぐっと近くなる。あ、ほっぺた真っ赤だ。無意識のうちに伸ばしていた手を成宮に掴まれた。成宮の手はとても熱くて、少しだけ汗ばんでいた。
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