▼安心させて

「今日もまた一年の女の子に告白されちゃった」

私に嫉妬させたいのか、時折鳴はこうして告白されたことを彼女である私に堂々と伝えてくる。最初こそ真に受けていたが、大体はちゃんとお断りした後だったので今ではもう気にも留めない。

「ふうん、よかったね」

いつもはこれで終わる。私の興味が引けないとわかるや否や、鳴は次の手を打ってくるはず。日誌に今日あったことを書きながら私は適当に返事をした。

「それで、どうやらブラバンの子らしいんだよね」

「へえ」

「試合に出てるエースの俺に一目惚れしたんだって」

「そうなの」

普段よりも今日は少しだけしつこい鳴。結構可愛い子だったのかもしれない。

「すっごく可愛くてさ、どうしてもお願いしますって懇願されたから、一度保留でって返事しておいた」

「は?」

「ん?」

「今、なんて?」

保留?保留って言った?彼女がいるにも拘らず、保留?

「だってなまえより好みの見た目してたし」

「え…、何の冗談?」

鳴の言っていることがよくわからなくて思わず聞き返す。別に今の言葉をもう一度聞きたいわけではない。むしろ断固として聞きたくない。私よりも見た目が好みだったなんて、そんな台詞。

「なまえ?」

ボールペンを持つ手が震えてしまって上手く続きを書くことができないでいると、その様子に気付いた鳴は何が面白いのかニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。

「なまえ、どうしたの?」

ああ、これは完全に面白がっている。だから怒ったらダメだ。いつもみたいに流してしまわないと。

「それで、保留にしてどうするつもり?その子と付き合うの?」

自分の口から出てきた言葉は、想像していたよりもずっと冷たく響いた。上手く流してしまおうと思っているのに、動揺しているのかそれもできない。

「さあ、どうしようか。なまえはどうしてほしい?」

どうしてほしい?答えなんて一つしかないようなことをわざわざ聞かれて頭に血が昇る。ばたんと大きな音を立てて日誌を閉じてボールペンを片付ける。私の行動にびっくりしている鳴を一瞥してから、走って教室を飛び出した。

「なまえ!」

教室から聞こえてきた鳴の声。追ってきてくれるんじゃないか、そんな期待が心のどこかにあった。鳴の脚ならすぐに追いつける速さで廊下を駆けるも、一向に追ってくる様子はない。

もしかして本当にその女の子の方が良くなってしまったのだろうか。ねえ鳴、安心させてよ。そんな思いは空しくも届かなかった。

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