▼面倒見させて

鳴が怪我をしたと聞いて保健室まで飛んできた。ガラリとドアを開けると体操服を捲って膝を抱えた鳴だけがいて一人椅子に座っていた。

「鳴、怪我したの!?」

「ああ、うん。掠り傷」

ほら、と鳴が指さした先には少しだけ血の滲んだ膝。あれ、これだけ?

「え、何かもっと深刻な怪我かと思った」

「ちょっとひどくね?」

「あ、いやごめん」

「なまえ、彼女失格」

「ごめん!ごめんって!」

眉間に皺を寄せて険しい表情で告げられた鳴が怪我をしたという情報に、私一人が焦って勘違いをしてしまったようだ。それでも9対1で私の友達が悪い。悪ふざけでやったに違いない。

完全に鳴様のご機嫌を損ねてしまった私は、許しを請うために自ら手当をしたいと願い出た。どうやら保健室の先生は会議で不在らしいし、これくらいの怪我なら私でも手当できる。不満そうな顔をする鳴のご機嫌を取りながら消毒をして絆創膏を貼った。

「はい、できたよ」

「なまえにしては手際いいじゃん」

「まあ一応、マネージャーなんでね」

鳴に褒められてついつい嬉しくなってしまう。これでもサッカー部のマネージャーだから選手の掠り傷なんて日常茶飯事だ。

「………」

「あれ、鳴さん?」

「………」

「めーいさーん。また私気に障るようなこと言ったかな…?」

鳴の綻んでいた表情が一瞬にして固いものに戻ってしまった。今度は一体何の地雷を踏んだのだろうかとひやひやする。

「マネになるなら…」

「うん?」

「野球部でもよかったんじゃないの?」

「いやあ、それは後の祭りだね。鳴と出会う前に部活入っちゃったし」

「今からでも転部すれば?」

「いやいや無理でしょ。どんな電撃移籍よ」

この件については鳴と付き合った直後に再三話し合ったはずだ。彼女が他の部活のマネージャーというのは正直気分が悪いと言い張る鳴。解決したと思っていたのに未だに根に持っていたのか。

「手当とか言って俺以外の男に触ってんでしょ?」

「大体は自分で手当してるよ、みんな」

「触ってんでしょ!」

完全に怒りがぶり返してきたのか、気に食わないと喚く鳴。ああ、もう何てわがまま。

「私が自分から触りたいって思うのは、鳴だけだよ」

「…そんなこと」

「そんなことあるよ。本当」

だから大丈夫。そう言って唇を鳴の頬に滑らすとそのまま捕まって唇を食まれた。満足そうに笑った鳴は何て単純で可愛いの。

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