▼触らせて

色素が薄くてふわふわしている鳴の髪の毛に触りたい。触りたい。身じろぎする度にふわりと揺れる髪の毛から目が離せない。

「何をなまえはそんな物欲しそうな顔で見てるんですかねえ」

「んー」

「何?欲求不満なの?」

私の熱い視線に気付いたのか読んでいる雑誌から目も上げずに声をかけてくる鳴。欲求不満かと言われれば、うん、そうなのかもしれない。

「欲求不満かも」

「え、本当?する?」

私の言葉を自分の都合よく解釈した鳴は今度こそ顔を上げて雑誌を放り投げた。ああ、私の雑誌が。

「違うよ、そうじゃなくて鳴に触りたい」

「違わないじゃん」

「違うって」

一瞬にして距離を詰めてきた鳴が私の腰を引き寄せてやらしいことをしようと伸ばしてきた手を叩いてやった。ひどく不満そうな顔で何すんの!と抗議してくるけれど聞こえない振り。まずは私の話をちゃんと聞いて。

「触りたいのは髪の毛だから」

「髪?俺の?」

「うん。鳴って色素薄いしふわふわの髪の毛してるから」

「ふうん。いいよ、なまえなら触っても」

何だそんなこと、とつまらなそうな鳴はそれでも私のお願いを聞いてくれた。目の前でじっとして触って良いよと言ってくれる。ふわりと揺れた髪の毛は、やっぱり近くで見ても綺麗な色で柔らかそう。

「じゃあ…、失礼しまーす」

ゆっくりと手を伸ばして念願の鳴の髪の毛を堪能する。襟足の方から髪の毛を逆立てるようにして掬い取る。くしゃりと音を立てる鳴の髪の毛。

「………」

「何で無言なの」

「や、思ったよりも硬かった」

日頃から土埃や太陽に晒されているせいか、鳴の髪の毛は柔らかそうな見た目に反して少しごわごわしていた。ワックスとかつけた?と尋ねたけれど、オフの日の今日は特に何もせずに家まで来たらしい。

「すっごく残念そうだね」

「んー、これじゃない感がある」

「一応さ、男だからね、俺」

残念だなあ、と思いながら鳴の髪の毛をかき回す。特にひどく傷んでいるというわけでもなさそうだ。ということは地毛でこの硬さなのだろう。それでも満足するまで鳴の髪の毛を触り続けた私はお礼を言って前髪を少し整えてあげた。

「じゃあ次俺の番ね」

「何が?」

はて何のことだろうかと首を傾げていると、すごく悪い笑みを浮かべる鳴に両手を掴まれる。そしてそのまま視界が反転して気付けば天井を見上げていた。

「俺もなまえ触りたい」

「…どこを?」

「全部」

「いやちょっとそれは」

「ダメなの?」

「ダメ、ではないけど、ちょっと」

「はいはい」

「ちょっと!」

わがままな鳴にわがままを言うと、三倍返しで自分の身に返ってくる。そう肝に銘じておこう…。

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