攻めきれない心


ディスプレイに表示された名前を見てまたため息が零れる。連絡してくるのかと思ってたのに。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ期待していただけに裏切られたような気分だ。

さっきから自分の部屋で何度も携帯とにらめっこしてはため息を吐いている。折角の日曜日なのにこのまま一日を潰すのはよくない。もういっそのこと、会いに行ってしまおうか。
逸る気持ちを抑えられなくて、勢いよく起き上がってクローゼットを開けた。

***


「日曜日でも、やっぱり部活なんだ」

そう独りごちてグラウンドを見やった。グラウンド中を見渡しても御幸さんを見つけることができない。今日は一体どこにいるのだろうか。
いてもたってもいられない、もうどうしたらいいのかわからない。

御幸さんの顔が、声が、頭から離れなくて毎日毎日彼のことを考えている。恋だと気付いてしまってからはもう大変だ。

御幸さんに対して取ってきた散々までの態度、可愛くない言動を思い返して激しく後悔している。それはもう、思い返しては一人で壁にへばりついて落ち込むくらいには壮絶だ。誰かに時間を巻き戻してほしい。

「みょうじさん?」

再び後悔の渦にのまれて頭を抱えてうんうん唸っていると、誰かに声をかけられた。

「みょうじさん、体調悪いの?」

かけられた声に顔をあげると、そこに立っていたのは同じクラスの小湊くんだった。彼はいかにも心配そうな表情を浮かべている。目元は相変わらず見えないけど。

「わっ、小湊くん」

「うん、どうしたの?」

「どうもしないよ!別に野球部を見に来たとかじゃなくて!」

「うん?」

「あ、えっと…体調悪くもないし、すごく元気です」

そのわりにはさっき頭抱えてたけど…、と尚も心配してくれる小湊くんはどこまで優しいんだ。その可愛らしい見た目から勝手に文化系の部活に所属していると思っていたのはここだけの話だ。まさかゴリゴリの体育会系とは。人は見かけによらないという最たる例なのでは。

慌てふためいて意味の分からないことばかりを口にする私に、そっか、元気で良かったよなんて言ってくれるんだからもう天使に違いない。

「練習見に来てくれたの?」

「え、えええっと…」

「そういえば最近、みょうじさんと御幸先輩、仲良いよね」

「ええ!?何で知ってるの」

「だって御幸先輩教室に来てたし」

「そうでした」

「ふうん、そういうことか」

「な、何が…?」

一体何を察したのか、くすくすと笑う小湊くん。上手くいくといいね、なんて天使の微笑みで言うのはやめてください。
何のことかな?と白々しくはぐらかしてみたけれど、それもあっさり躱されてしまった。

「好きなんでしょ?」

「誰が!何を!」

「うーん、誰がだろうね?」

「何ですかその含みを持たせるような言いぐさは…」

「あれ、もしかしてみょうじさんって鈍いの?」

「うん?そんなことはないと…思う…思いたい」

鈍いのかと聞かれても、正直よくわからない。小湊くんが何を言っているのかがわからない。
これは手を焼くだろうなあ、なんて独り言を零す小湊くんは…案外悪い子かもしれない。

「折角来てくれたけど、残念。御幸先輩今日は栄純くんと降谷くんに捕まっちゃってるから直接は会えないかも」

「別に会いにきたわけじゃ」

「うん、そうだったね」

それじゃあ、そろそろ練習に戻るねと言って天使は去って行ってしまった。いや、天使の振りをした悪魔かもしれないけど。
でもそっか、今日は御幸さんに会えないのかあ。忙しいんだなあ。

下ろしていた腰を上げて、お尻のあたりを払う。ぐっと伸びをして腕時計を見ると思っていたよりも時間が経っていた。

何か私、ストーカーみたいじゃない?

一瞬浮かび上がった恐ろしい考えを振り払うように首を振った。いやいや、恋をするってきっとこういうことだから!大丈夫だから!

メール、私からしてもいいのかな。練習を頑張る御幸さんに一言お疲れ様って言いたい。今夜、ほんの少しだけ勇気を出してみることにした。
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