03

高校生活というのは何だかんだとやることが多くて、次第に一也くんとはまた疎遠になってしまっていた。
私はいよいよ高校3年生、すなわち受験生になった。
2年生の時に彼氏もできたがあまり上手くいかず、すぐに別れてしまった。それ以来私は誰とも付き合っていない。

うだるような暑さの中、夏期講習を終えた私はふらふらと歩いていた。
暑い、暑い。アイス食べたい。

すると後ろから、なまえさん!と誰かに名前を呼ばれた。
聞き覚えがあるようで、私の記憶とは異なるその声に首を捻りながら振り向くと―

「えっ、誰ですか!?」

面影はあるしトレードマークの眼鏡は以前と変わらないけれど、声以上に私の記憶の彼とは違う姿に目を剥いた。誰ですか、この青年は。

「なまえさん、久しぶり」

「ひ、さしぶり…」

「まさか本当に誰かわかってないとか?」

「いや、さすがにわかるよ…。一也くん、だよね?」

「うん。なまえさんは綺麗になったね」

私が知っている一也くんはこんなませたこと言う子じゃなかったはず。最後に彼に会ってから約1年とちょっと。よもやここまで変わるとは。男子三日会わざれば刮目して見よとはこのことかもしれない。
そして何より、私よりも背の低かったはずの一也くんを見上げていることにひどく驚いている。

「成長期ってすごいね、本当」

「はっはっは。なまえさんが小さくなった」

「私の身長は1ミリも変わってないよ…今何センチあるの?」

「んー、170とちょっとかな」

「へえ…。まだ成長期?」

「まだまだ」

顔つきまで大人になった一也くんは微笑むだけで何だか画になっている。すっかり大人になったんだなあ。
今まで意識したことなんてなかったせいで、一也くんが綺麗な顔立ちをしていることに今更気が付いた。

「なまえさん今何考えてんの?」

「ん?」

「もしかして、一也くんかっこいい…とか?」

「は、はあ!?何言ってんの!」

そんなわけないじゃない!と必死で訂正したが、あまりにも図星過ぎてその指摘が痛かった。
中学生相手に必死に反論しようとするなんて大人げない、と自分に言い聞かせて大きく息を吐いた。

「一也くんはどこの高校に行くつもりなの?」

「俺?俺は青道ってずっと決めてるよ」

「あ…、そっか」

そういえば彼は青道高校からスカウトを受ているんだった。未だに一也くんが野球をしているところを見たことがない私は、中一の子にスカウトなんて大袈裟なと勝手に思っていたけど…ひょっとしてひょっとするのかな?

「一也くんって野球上手いの?」

「えー?んー…、上手いんじゃない?そういうこと本人に聞かないでよ」

「ごめんごめん。でもそっかー、一回でいいから試合とか観てみたいなあ」

「いつでも来ればいいじゃん」

何だそんなこと、とあっさり言ってのける一也くんだけど、現実はそう甘くない。
模試の結果が芳しくないおかげで、自由に遊びに行くこともままならない。受験生は大変なんです。自業自得なんだけどね。
一也くんにそう言うと、「じゃあ、なまえさんが無事大学生になれたら観においでよ」と誘ってくれた。

「一也くんが試合出てないと意味ないからさ、高校でちゃんとレギュラー取ってよね」

「お安い御用。なまえさんもちゃんと大学生になってよ?」

「が、頑張ります…。何とか家から通える大学に受かるように!」

「うん、応援してる」

目を細めて優しく笑う一也くん。
微笑みのバリエーションまで増やしちゃってまあ…着実にイイ男に成長しつつあるなあ。これは高校生になったらすっごくモテるに違いない。
弟みたいに小さい頃から可愛がってた近所の男の子の成長に若干戸惑いながらそう思った。まさか一也くんに背を抜かれる日がこようとは…。

ああ、もう。私も頑張らないと。

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