02

一也くんのチームの試合があると聞きつけた私は、一也くんに黙ってこっそり観に行くことにした。
あの日の一也くんの様子が未だ引っかかっているという理由もあるが、私は純粋に野球をしている一也くんを見たいと思った。

思ったはいいんだけど、うーん。

「さすがに夕方だし終わってますよね」

一也くん今日試合なんだって、とお母さんから聞いたのが午後四時過ぎ、時すでに遅し。
どうしてもっと早く言ってくれないの!と文句を垂れたが、あんた野球興味ないでしょうとバッサリ切られてしまった。おっしゃる通りです。

だけど一也くんの試合となれば別だ。
ひょんなきっかけでせっかくまた話すようになったんだ。一度でいいから彼の試合を観てみたい。

「あれっ、なまえさん。どうしたのこんなところで」

「一也くん〜〜〜」

「本当にどうしたの…」

まさかまだ一也くんがいるとは思わなかった。
ガランとして人気のないベンチを見て唖然としていたため、背後から声をかけられるまで彼の存在に気付かなかったのだ。

「もうみんな帰っちゃったんだと思ってた」

「もしかして試合観に来てくれたの?」

「そうだよ!だけどもう終わっちゃっててガッカリしてたんだよ!」

「なまえさん今何時だと思ってんの」

嘆く私を見てけらけらと笑った一也くんは、ゆっくりと前を歩きだした。

「一緒に帰るでしょ?」

「…うん」

さっきまでバカにしていたのに、今度は私を慰めるように一也くんは優しく笑った。
何だか一也くんの方がお兄さんみたい。自分よりも小さな背中がやけに逞しく見えた。

「今日の試合どうだったの?」

「負けた!完敗!」

「そんな堂々と言わなくても…」

「あっ!あとスカウトされた」

「え!?すごいね!?」

スカウトってまだ一也くん一年生なのに、随分早く目を付けられたものだ。
もしかして一也くんって…相当野球上手なのかな?
詳しく聞けばどうやらスカウトしてきたのは私でも知っている、あの有名な青道高校らしい。本当にすごいな。

「今日は本当に、すごい出会いだったんだ」

「うん」

「もっともっと強い奴と野球するのも悪くねーなって思えた」

目を輝かせてそう言う一也くんを見て、何だかこっちまで嬉しくなってきた。
この間ケガをした一也くんを見た時は一体どうしようかと思ったが、きっと彼はもう大丈夫なのだろう。

男の子って強いなあ。

「なまえさん聞いてる?」

「え、聞いてるよ。晩ごはん何だろうねって話でしょ?」

「………」

「あれ、違った?」

「なまえさんって本当子供っぽいよね」

「え、ちょっと待ってよ、一也くんに言われたくない」

私よりも3歳も年下の一也くんに子供っぽいって言われるとは思わなかった。
素直にそう言うと、にやりと不敵に笑う一也くん。

「いつかそんなこと言えなくなるからね」

「ん…?どういうこと?」

言っている意味がよくわからなくて首を傾げるも、彼はそれ以上何も言ってくれなかった。

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