01

ふとアイスが食べたくなってコンビニまで出かけた帰り道、近所の男の子とばったり出くわした。
おっ、練習帰り?と声をかけたところで、その痛々しい姿に気付いて思わず目を瞠った。
するとその男の子はバツが悪そうに顔を逸らしたものだから、ああこれは何かあったなと直感的に思った。

「えーっと、これは…」

何て説明したものか、と答えあぐねている私よりも背の低い男の子の頭をわしわしとかき回して、そのまま家まで引きずって行くことに決めた。勝手に決めた。

「うわあ、ちょっと一也くん。いくらなんでも練習頑張り過ぎでしょ」

「なまえさん、ちょっとどこ行くの」

「手当しないと大変なことになるよ。だから家おいで」

「手当てくらい一人でもできるって」

「ついでに晩ごはん食べていきなよ。ね?」

振り返ってそう笑いかけると、渋々といった感じではあったが一也くんは頷いた。
一也くんのお父さんへの電話はうちのお母さんに任せるとして、とりあえずは腫れ上がっている頬や小さな裂傷をどうにかしなければ。

玄関に入ってすぐにお母さんを呼ぶと、お母さんも何かを察したようで何も聞かずに薬箱を出してきてくれた。

「一也くん苦手なものとかある?」

「いや、何でも好きです」

「あらさすがねえ。うちのの子なんかどうしてもトマト食べなくって」

なんて私をやり玉にあげてほのぼのと会話をするのはやめてもらいたい。
へえ、あの人高校生にもなってトマト食べれないんだ、と一也くんにせせら笑われてしまった。

「生で食べれないだけだから!煮たり焼いたり加工したら食べれるから!」

むきになって言い訳を並べてみたが、これこそ恥ずかしいと後になって気付いた。

裂傷の消毒が終わり、腫れて赤くなっている頬に湿布を貼る段になって、一也くんが浮かべていた作り笑いを崩した。
私はそれに気付かない振りをして湿布のシートをぺりっと剥がして構える。

「ちょっとひやっとするよー」

「………」

「一也くん聞いてますかー」

「うん」

ツンと鼻にくる湿布の匂いによくわからない懐かしさを感じた。中学生の世界も色々大変なんだなと他人事のように思う。
一体一也くんとはいつから知り合いなんだっけと考えたけれど、あまりにも昔過ぎてよく思い出せなかった。それだけ私たちはずっと前からお互いを知っている。

小学校までは一緒の学校だったおかげでよく遊んでいたけれど、私が中学校にあがってからは会う機会がぐっと減った。
さすがに私も小学生の子と遊ばなくなったし、一也くんも野球の練習で忙しくしているようだった。

「一也くんももう中学生かあ」

「なまえさんは高校生だよね?」

「うん、そうそう。授業とか難しくてさあ、中学生に戻りたいよ」

「学校、楽しくないの?」

「超楽しい」

「なにそれ」

愚痴なのか自慢なのかわかんない、と言いながら頬の湿布を摩る一也くん。
一也くんは野球楽しい?そう聞きたかったけれど、楽しくないって返ってきた時どう反応したらいいかわからなくてやめた。

「なまえ、一也くん、ごはんよー」

「はあい」

キッチンの方からお母さんに呼ばれて、二人そろって返事をした。
こうしてみると姉弟みたいねって嬉しそうに笑うお母さんと、仕事から帰ってきたお父さん、それから私と一也くん。
食卓がいつもより明るかった。

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