嵐の前の静けさ



 鳥の囀りが聞こえる。爽やかな目覚めだ。
 ゆっくり目を開けるとそこには見覚えのない天井が……。
 あぁ、そうだった。ここ、俺ん家じゃなかった。

 昨日のことを思い出し、欠伸をしながら起き上がる。
 次いで頭をガシガシと掻いた。
 超能力犯罪撲滅組織か。なーんかとんでもないところに来ちゃったなぁ。
 はぁとため息をつくとコンコンコンとノックが三回。

「はい?」
「あ、翔斗さん起きました? 朝ご飯を用意したのですが食べます?」
「あっ、すぐに行きます! ありがとうございます」

 声の持ち主は倉本さんだった。彼女はそのまま「じゃあ、食堂で待ってますね」と言って扉から去って行った。
 食堂で待ってる……。もしかして他の人たちは既に集合しているのだろうか。
 だとしたら大変だ! 俺は急いで身支度を整え部屋を飛び出した。
 ちなみにみんなの就寝部屋はここ、二階にある。





 食堂にいたのは俺を呼びに来てくれた倉本さんと伶、それと昨日初めてお会いした白石莉子さんと高坂しおりさんの四人だった。

「おはようございます! あの、新垣さんと菱丘さんは?」

 ゼノには男性があと二人いるのだが姿が見えない。まだ寝ているのだろうかと倉本さんに聞くと「あの二人はまだ寝ています」と予想通りの答えをいただいた。よかった俺が最後じゃなかった。
 ホッとして席につくと、倉本さんの言葉通り皆俺を待っていてくれたようで「いただきます」と手を合わせて各々朝食に手をつけた。

「翔斗、ゼノには慣れそう?」

 食事の合間に伶が問いかけてきた。

「あぁうん、多分……。犯罪撲滅組織って具体的に何すんの?」
「ん、簡単に言うと朝永さんが予知した超能力犯罪を未然に防ぐんだ。本当は秘密裏に処理しなきゃいけないんだけどさ、この前の超常研究所はうまくいかなかった」

 まぁそのお陰で翔斗に会えたんだけど、と伶は続けた。
 先程の言葉に違和感を覚え、小首を傾げながら伶を見る。

「超常研究所はうまくいかなかったとか秘密裏ってことは警察に知られちゃいけないってこと? じゃあ処理ってどうやって……」
「翔斗さん」

 朝食を食べ終わった倉本さんが俺の言葉を遮った。
 その無機質な声音に思わずゾッとする。

「早く食べ終えてください。朝永さんがお待ちです」
「……ハイ」

 急いで食べた結果、喉に詰まらせたのは言うまでもない。





「これから貴様にはいくつか守ってもらわなければならないことがある」

 いつもの執務室で、そう切り出した朝永さんの顔はお世辞にも優しいとは言えなかった。

「一つ。一人で外出をしてはならない。その際は必ず倉本か伶を連れて行け」
「え、何でですか?」
「万が一多重能力者を危険視している者に会っても、一人じゃなければ最悪の事態を回避できるからだ。なるべく外出は避けてほしいが、任務を頼むときもある。窮屈と感じるかもしれないが理解してくれ」
「……はい」
「次に外部と何か接触を図る時はまず俺に声をかけろ。親や友達に連絡する場合もだ。手紙、電話。内容まではチェックしないが、必ずひと声かけてくれ」
「え、それもですか?」
「ああ。まぁ、ここに電話はこの執務室にしかないのも理由だが、貴様を無駄に危険に晒したくはない。どこで情報が漏れるか分からないからな」
「はあ……」
「あとはそうだな。自分の身の周りのことは自分でやれ。ということくらいか」

 最後のお願いだけ普通で前二つのお願いの異様さが目立ったが、ここに訪れる前倉本さんから朝永さんは信用できる人だからと力強く言われ、それを信じようと俺は深く考えずに頷いた。
 俺の頷きに朝永さんがフッと不敵な笑みをもらす。それを見て内心で悲鳴を上げたのも接触感応でバレているのだろう。すぐさま表情がいつもの仏頂面に戻った。

「貴様にはこれからエクストラハーツを使いこなせるよう特別訓練を行う。ビシバシ鍛えてやるから覚悟しろ」
「はいぃぃぃ!」

 背筋がピンッと伸びた。