不可能なんかじゃない


  サンドイッチ


朝、出来る限りの重装備で行こうかと思ったがやめた。いつもの繋ぎにトレードマークのニット帽、それにマスクを足してキッチンに足を運んだ。それでもまあ、十分に不審者には見える。気付いたのだ、ニット帽にマスクだけで既に不審者に見えるのに、これ以上厚着してどうすると。感染予防にはなるかもしれないが悪目立ちして動きづらいったらないだろう。一応消毒用のアルコールは持っていくから、それで許してほしい。

「おはよー」

「おはよ!って、イッカク、どうしたの?風邪でもひいてるの?」

「こっち来んなエンガチョ」

「エンガチョ切っーた」

「おい誰だエンガチョ切ったやつペンギンか乗ってんじゃねえよ風邪かと思ったら心配しろや!」

「で、風邪か?」

「ううん違う」

「うわー心配して損した、返して、現金で」

「むしろおれがこの前貸した37ベリー返してほしい」

「なにこいつみみっち」

スパアン、と全部言い切る前に平手でシャチのキャスケット帽子を殴る。みみっちいじゃねえよ人から心配を金で返してもらおうとしてるくせに。コックから水の入ったコップを貰う。朝飯はどうする、と尋ねられたので街で食べる旨を伝えた。出来るだけ長い時間、マスクを取ってボロを出すのは避けたかった。船で朝食を採るとしたらおれはもう便所飯確定である。島につく前におれが掃除したから綺麗だけど。

「へえ、美味そうなもんでも見つけたのか」

「なんか春島だから野菜うまいらしくて、サンドイッチ食う」

「お前それキャプテンに見つかったらおれはパンは嫌いだ攻撃されるぞ」

「いやんシャンブられたくない」

けらけらと笑って空になったコップを突き返す。できるだけ口を付けないようにガバッと豪快に飲んで、手は既にアルコール除菌を済ませている。手袋なんてつけても良かったが明らかに不審なので諦めたのだ。そしてもう一度マスクをつけた。

「んじゃ、行ってくるわ!言っとくけど土産期待すんなよ」

「イッカクちゃん!シャチはぁ、新しいお洋服がほしい!」

「赤いブリーフでも買ってきてやろうか」

「いらねーよ!何そのチョイス!」

芸人シャチの見事な切り返しにははっと笑いながら、キッチンの扉を閉めた。それから、はあ、と笑いを鎮めて頭を掻く。どうしたものか。

おそらく奴らにはバレていないしキャプテンもまだ起きてくる雰囲気はない。調べ物をするにはどこだ、本屋か、図書館か。生憎と頭を使うのはあまり得意ではないから長引いたら困る。なら本屋で、それらしい本を買うしかない。それこそ周りの奴らに怪しまれるかもしれないがなんか面白そうだしで済むだろう。馬鹿でも過去何回か、この船で読書をした事があるし本も枕元にないこともないし。そうと決めたら早く行かなくては。

「サンドイッチ、なに食おっかなぁ」

深刻な表情は、中身の具を悩んでるせいにして。おれは誰かに言い訳するようにポツリと呟いた。

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