不可能なんかじゃない


  おはようございます


朝起きたら、キャプテンのガチギレした顔が目の前にあって思わずハンモックから転げ落ちました。いい朝です。おはようございます。あいにく俺は上半身下半身頭部と分解されて、キャプテンの部屋という名の天国に運搬されております。いや、しかし今この状況は、天国というより。

「イッカク、お前、この俺に体調不良を隠すとはいい度胸だな、褒めてやる」

「え、ありがとうございまぎゃん!」

天国というより、地獄である。おれは、というか俺の上半身と下半身は床にぽいっと簡単に捨てられて、全身を打ち付けたような衝撃が走った。やだキャプテン力強い…!なんてふざけた口を聞いたら、今度は小脇に抱えられた頭が地面にポイされる。とてもこわい。

キャプテンは、ハァ、と呆れたように溜め息を吐いてソファに座る。そしてぽん、と俺の首をその前のテーブルに置いて、頬杖をついて視線を合わせた。

「…気を楽にしろ」

「全然落ち着けません」

頬杖キャプテンエロいです。堂々と口走るのが憚られるようなことを考えれば、またいつもの感覚である。あ、まずい、と頭が冷静に働く。目の前で花びらを吐くところを見られてしまったら、言い逃れが出来ない。そうしたら、この病気について調べたことを聞かれるだろう、症状、原因、治し方、まずい、まずい。

そう思っておれは決死の覚悟で喉奥の花びらを、ごくり、と飲み込んだ。吐く時の比じゃなく、喉に引っかかる。ぜえ、やっとの思いで深く息をつけば、キャプテンにデコピンをされた。

「いって!!ヒィ!陥没!陥没する!」

「うるさい、嘔吐物を無理やり飲み下す馬鹿がいるか」

「はいここに」

「本当にデコ陥没させてやろうか」

「ご無礼をお許しください」

「よろしい」

ふん、と鼻息をついたキャプテンが可愛すぎて胸が苦しいので、花びらを吐くのも時間の問題だな、と思いました。まる。仕方がない、どうせこの人はおれになにかアクションがあるまでこの状況から一歩も動かないつもりだろう。だから、おれの、キャプテンを好きだという気持ちだけ隠せば何とかなるだろう。

「最初に言っておきます、俺の口から出たものは絶対に素手で触らないでくださいね、絶対ですよ」

「誰が触るかきったねえ」

「辛辣!」

迷う気配も無く即答されて思わず大声が出る。まあ俺が注意を促した事によりキャプテンが用心深く透明なゴム手袋を装着していたのでよしとしよう。ちょっと悲しいけど。そこでおれは、ごほ、とまた咳き込んだ。それでもまだもう少し耐えられるんじゃないかな、なんて思ってぐ、と唇を噛みしめると、キャプテンがはあ、とまた溜め息を吐いた。

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