06
「薄味、か…」
思わず自嘲する。ロシナンテはそんなに濃い味好みだっただろうか。失敗失敗、とおれは眠りに落ちたローの顔を見た。高い熱にも関わらず白い肌は相変わらずだがすやすやと気持ちよさそうに寝息を立てている。ロシナンテ、コラさんに寝かしつけられたのが余程効いたらしい。
ロシナンテはおれの真似は出来ないが、おれはロシナンテのものまねは得意だ。同じ顔だし、おれとどのように表情の使い方が違うかを覚えてそれを実践すればよい。ただ、あいつの無理やり笑った顔は、真似できるが真似したくない。百歩譲って真似をしたとしても鏡は見たくない。
しかし、汚れた兵服から着替えて普段着になったはいいが、ローにコラさん、と呼ばれて正直戸惑った。戸惑ったが、熱に浮かされた目が余りにかわいそうで、つい、反射的にロシナンテの真似をしてしまった。これでもしローがロシナンテが生きていると思い込んでしまったらどうする。ローの心が壊れてしまっていて、ロシナンテが死んだという記憶を、自分で封印してしまっていたら。
「…ハァ」
ああ、ロシナンテ、お前はなんてもんを置いて行ってくれたんだ。くしゃ、と自分の緩く波打つ金髪を掻き乱し、友人に悪態をつく。
おれはいい。別に四六時中ロシナンテの真似をしてローに接しても、おれはいいんだ。しかし一瞬でもさっきのようなヘマをして、料理の味付けが違ったりとか顔のメイクが無かったりだとか、そんな事でローが違和感を覚えてしまったら。それでもし、本当に、あいつの心が壊れてしまったとしたら。
「……やめよう」
ローは、恐らく賢い子供だ。自分の恩人の死を受け入れられないなんてことはないだろう。正直ロシナンテの死についてはドフラミンゴが手を下したという推測くらいしか目星はついていないが、それでもきっと、ローはロシナンテの死に際を知っているはず。あれだけ泣き叫んでいたのだ。きっと、忘れてはいないはず。さっきの間だけでも違和感に気付いたくらいだ。
おれがわざわざロシナンテの真似なんてして、ローを無駄に囲うような真似はしてはいけない。この子供の中のロシナンテという人間はきっと、恩人で友人で、大切な人だ。それをおれが汚して良い筈などない。おれはおれとして、ただのロシナンテに似たパサモンテ・ヒネスとしてローに接するのがいいだろう。
余計な事をしてしまった、と少し落ち込む。次にこの賢い子供が目覚めた時に、解熱剤が効いていることを祈って黒い髪を撫でた。
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