05
あった、かい。おれはそっと目を開けた。ぼんやりとした視界の中に、見慣れた緩くウェーブした金髪が見える。目つきの悪い目で、その人はおれを心配そうに見下ろしていた。
「こら、さん?」
かすかすと声の出しづらい喉を震わせて喋れば、一瞬の間を開けてその人が返事をした。聞き慣れた、優しい声だった。
「どうした?ロー」
「あたまが、いたい」
いたいよ、こらさん。譫言のように繰り返せば、コラさんは近くにあった濡れたタオルに手を伸ばして、洗面器の中で絞っておれの頭にのせた。腕が見えた。どうやらコラさんがよく普段着として着ているセーターのようだ。でも柄は見たことがない。新しいものだろうか、とぼんやりと考えた。
「こらさん、今日は、顔になにもかいてないんだな…」
頭がはっきりとしなくて途切れ途切れになってしまう言葉を、やっとの事で口に出す。コラさんはああ、と思い出したように笑って、濡れタオルの上から俺の頭を撫でた。いつもより少しだけ、撫で方が優しい。おれが弱っているからだろう。
「そっかそっか、そういやさっき顔を洗ってそのままだった、書いた方が良いか?」
ん?と微笑まれて、おれはゆっくり首を横に振る。メイクがあってもなくてもコラさんはコラさんだ。そう伝えると安心したようにコラさんが笑った。
「そうだよな…ああ、ロー、お粥食べるか?コラさんが腕によりをかけて作ったんだ」
「コラさんが、料理…燃えてないか?」
「失礼な、今回はドジらなかったさ」
「今回は、な」
ガーン、とコラさんが、ショックな表情を見せたので、にしし、と思わず布団に顔を半分隠して笑った。コラさんもそんなおれを見て、同じように笑った。
「ほらロー、鮭粥だ、体起こすぞ?」
枕元の据え置きの棚との間に痛くないように枕を立てかけて、おれは体を起こされた。ふうふう、と鮭粥を冷ますコラさんに、ふと、一つの疑問が頭を過る。コラさんから視線を外して考えようとするが、考えがまとまらなくてううん、と唸ってしまった。
「どうしたんだ?ロー?」
すっ、とその視界にコラさんが入ってくる。その間抜けな顔にふふ、と思わず笑った。
「なんか考えてたけど、ぼんやりする」
「そうだよ、お前熱があるんだ、だから早くこれ食って寝て薬飲んで、熱を下げなきゃな」
「薬…?うん、わかった」
コラさんが口に温かいお粥を突っ込んでくる。おれはぼんやりとした頭でそれを咀嚼して、次の粥を必死で冷ますコラさんを見る。
「コラさん」
「?」
コラさんから視線だけでこちらを見てくる。この違和感はなんだろう、頭の中でパズルのピースが一つ足りないような、何かが絡まっているような。
「うーん…んむ」
「何だロー、難しいこと考えてんのか?」
まったく、とコラさんが全然怒ってない顔で頬を膨らませる。ぶっさいくだなあ、というと本当に軽く、頭にチョップが落とされた。
「暴力はんたーい」
「うるせー、なんか考えるのは熱が引いてからだからな!分かったら食べる!」
「んまーい」
口に突っ込まれた粥を噛んでいると、段々眠くなって来た。いつの間にか全部食べ終わっていたらしく、薬を飲まされて体を寝かせられる。コラさんは、おれが眠るまで横で頭を撫でていてくれた。
「コラさん、今日のおかゆ」
「どうした?」
「いつもより、ちょっとうすあじ…」
おれの意識は、そこで途絶えてしまった。
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