04
「ロー」
音声を聞いてから、布団に篭もりきりになってしまったローに声を掛ける。反応はない。もう一度ロー、と声を掛けると、今度は布団の中で身を固くした気配がした。
「ロー、粥が出来た、何を乗せる?」
「嘘吐き…」
「…ロー?」
「う、そつき…!」
ローが布団の中から悲痛な叫び声を上げた。それに思わず、言葉を失う。ばさ、と思い切り掛け布団が捲り上げられて、中から身を起こして現れたローの、悲しみに満ちた目と視線がかち合った。おれの驚いた顔を見て、ひく、と躊躇ったように喉を震わせてから、拳を握り直して涙を零しながら叫んだ。
「コラさんも助けるって言ってたのに!おれだけじゃなくてコラさんも助けるって!」
「……」
「お前は!嘘吐きだ!どうしてコラさんを助けなかった!どうして!どうして!」
ぐさり、ぐさり、と心臓を突き刺されているように感じる。至極真っ当な言葉だ。おれはロシナンテを助けると言った。ローと一緒に助けてやると。それに間に合わなかった。ロシナンテのビブルカードが、命が、手のひらの上で燃え尽きるのを見たのだ。友人を、助けることが出来なかった。そうしたらどうだ、命を救えた少年の、心まで救うことが出来ていないではないか。きっとこの少年には、ローには、ロシナンテがいなければ駄目だったのだ。代わりのおれでは、何一つしてやれることなんてなかったのだ。
「嘘吐き!おれの周りはみんな嘘ばっかりだ!あいつも偽物だった!コラさんはドフラミンゴには殺されないって言った!シスターは絶望なんてないって言った!父さんは珀鉛病は治せるって言った!みんな!みんな嘘だらけだ!」
「…やめろ、ロー」
「お前も!コラさんを救うって言ったろ!助けるって言ってただろ!なのに!コラさんを助けられてないじゃんか!なんで!なんでだよ!」
「…ロー」
「なんで!どうして、うぁ、うああああああ!!!」
「…っ!」
張り詰めていた糸が切れたように、ローが泣き出した。まるでこの世の全てに裏切られたかのような悲痛な泣き声に胸が苦しくなり、ベッドから引き摺り下ろすように抱き締める。おれの事を嘘吐きと罵りながらも縋り付いてくるローに、むしろおれの方が苦しみを紛らわすように掻き抱いた。
「すまなかった、ロー、私は本当に嘘吐きだな…でもな、お前の中の大切な人達を悪く言うのは、やめてあげてくれないか」
ローのしゃくり上げるような呼吸に合わせて、落ち着け、落ち着け、と背中を撫でる。ゆっくり、ゆっくり、ローが疲れてきたのか安定した呼吸を取り戻し始める。
「ロシナンテ…コラさんは、お前に心配をかけないようにそう言ったんだろう、シスターは、どんな時も可能性はゼロではないとお前に教えたかったんだろう、お前の親父さんは、それを信じて治療法を探していたんだろう」
「っひ、でも、でも…っ!」
「ああ、私は嘘吐きのままでいい、信じてくれなくていい…でも、この世の中全て、嘘みたいに言うのは、やめてみないか」
えぐえぐ、と肩口に顔を埋めるローはとても痛々しくて、白い帽子に顎を乗せて体を密着させる。
「それに、お前の親父さんは嘘なんて吐いていないぞ、オペオペの実を食ったなら、珀鉛病を治せるんだろう?」
「う、うぇ、うええええ…」
崩れ落ちるように泣き出したローの背中をまた撫でる。疲れて寝落ちてしまったら、温かいタオルで体を拭いてやろう。年齢不相応に細い体を抱きしめながら、そう思った。
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