MC:01747






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「喜べロー、突破口が見つかったかもしれんぞ」

組んでいた腕の片方を顎に移動させて、そう声を掛けた。屁理屈かもしれないが、試してみる価値もなきにしもあらずだ。ローは海苔のなくなったおにぎりから視線をあげてきょとんとした目でおれを見た。

「私の能力は、今見たな」

「ん」

「他の能力者が能力を使うところは見たことはあるか」

「…ある」

それがなんだ、と言いたげな怪訝な視線に苦笑する。その共通点をうまく使えば悪魔の実の能力の上達も早いのではないだろうか。

「無意識にやってることだったからな、本当にそれが原因かはなんとも言えんが…試してみる価値はある」

「なんだよ、原因って」

「なにをするか、具体的に言ってみる事もありかもしれん、つまりコラさん方式だ、ロー」

「技名を言ってパッてやる…?」

「そう、技名だ…リターン」

ぱちん、と指を鳴らせばおにぎりの海苔が戻ってくる。あ、と目を丸くしたローから不意に声が上がったが、はっと気付いたようにその口を塞いでいた。別に、驚いたのなら素直に反応すればいいのに、この子供はどこかまだ頑なである。

「別に何も言わなくても握り飯の海苔位戻せるが、言った方が自分のする事を明確にしやすい」

自分が何をしたいかという具体的なイメージがないまま能力を発動しても体力をいたずらに消費するだけだったり、いざと言う時不発になりやすい。だから能力者は使いたい能力を口にすることで自分にも何をするか言い聞かせている節がある。ローのような全くの悪魔の実初心者にはまずイメージが大事だろう。

「悪魔の実はイメージが大事だ、まずは能力をどう使うか自分の中で考えてからスタートだな」

なに、自分のものにした能力だ、そう時間はかかるまい。そう言うと、ローが不安そうな目でこちらをちらりと見上げた。正直言って悪魔の実は食べた者のセンスによって用途やスタイルが変わる。ゾオン系の能力でも単に三段階の変身だけでなくその他にも幅の広げ方があるだろう。それも熟練度によったりもするのだがそれは今はおいておくことにする。

「例えば私の能力なんかでも、音を消す、物質を消す、姿を消す、消したものを戻すなんていう事ができる…効果範囲の中での話だがうまく使えば瞬間移動見たなマネも出来るな、つまり、ものは考えようだ」

そこまで順を追って説明すれば、ローはえ、とやはり不安そうに俯いて、上目遣いでこちらを伺うように見上げてきた。歳相応で可愛らしい表情だ。

「……自分でやるしかないのか?」

「残念ながらこの世に同じ悪魔の実は二つとして存在しないからお前を殺してどこかに悪魔の実が出現するのを待って私が食って使い方を覚えれば教えてやれるぞ、来世でな」

「…チッ、自分でやればいいんだろ!分かったよ!」

こちらとしては至極真っ当に答えたつもりなのだけれど、幼い子供は皮肉としてとったようだ。どちらとも受け取れる言葉だったから仕方ないだろうがやはり性根の曲がった子供である。強かとも言うのだろうが、流石ドンキホーテファミリーにいただけある。

「必要な材料はいくらでも用意してやる、早く自分の病気を治せるようになるんだな」

おれから教えられることは、残念ながら何もないのだから。ロー自身のものとはいえ彼の細い肩に命を背負わせるのは少し酷に思えて、その黒髪にぽん、と手のひらを置いた。






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