MC:01747






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「ロー、梅干しが嫌いなら残りは私が食べるから、鮭か塩むすびかおかか好きなのを食べるといい」

「梅干しが入ってるなんて聞いてねえ」

水の入ったコップを二つ、おれとローの分をテーブルに置く。それからぷう、と不機嫌そうに膨らんだ両頬を、つまむように片手で潰してから梅干しのおにぎりをそっと取り上げて皿に戻した。ぷぴゅう、と可愛らしい音がする。

「おにぎりの定番だろう、お前の確認ミスでもある」

「…チッ、おかか」

「確かこれだ、ほら」

海兵サイズの大きなおにぎりを半分に割れば、中身は醤油とかつお節だった。ほら、と確認するように見せて、その片方を小さな手に、もう片方を皿に戻す。おれはローの手から回収した梅干しのおにぎりにかぶりついた。ローの、白と肌色の手を、まじまじと眺める。

「…オペオペの実の能力者になったからと言って、たちどころに治るという訳でもなさそうだな」

もしゃもしゃ、おにぎりを頬袋一杯に詰め込んでいるローの表情が、少なからず硬くなった。白飯が口内を圧迫しているため、俺の話を聞くことしかできないのだろうが。

「お前を保護しに行くまでの間に珀鉛病についての資料を読み漁った、感染症の類でないことは理解している、騒ぎ立てたりしないから安心しろ」

一般の間違った認識できっと、この子供は散々踊らされてきたのだろう。食いながら聞け、と促すと、文句がありそうな表情のまま新しくもう一口、おにぎりをかじる。

ロシナンテが命を落とした。という事はローは、あいつを助けたくても助けられなかったということだろう。十中八九能力は使ったことがない、それどころか使い方も知らないのではないだろうか。

「オペオペの実は他の超人系と違って大分特殊らしい、普通超人系というのは自分の身体に影響を及ぼす物だが人体改造人間というのは他の人間の体にも干渉できるらしい」

勿論人体というからにはロー自身の体も改造することは可能だろう。能力を使いこなせるようになれば、珀鉛病を治すことができるはずだ。なにか言いたげにこちらを見上げるローを、じっと見つめ返す。

「…ちなみにこれはオペオペの実の資料を船医に集めさせたものの受け売りだが」

そう言うと、納得したように視線を逸らされる。そんなに信用されてなかったかおれは。思わず苦笑して、それから当面の予定を考えた。

「まあ、一応私も悪魔の実の能力者の端くれだ、教えられる事もあるだろう」

「ムグッ、けほっ…、お前が能力者?悪魔の実の能力は教えられるようなものなのか?」

幽霊でも見たような目を向けられ、思わず首を傾げてしまう。確かにロギア系の能力者がゾオン系の能力者に使い方を教えるのは、その用途に差異があるので難しいかもしれない。だが、一応オペオペの実はパラミシア系だし、おれの能力もパラミシア系だ。自分の体に直接能力が反映される訳ではないという共通点もあるので、なかなかいい線は行っているのではないか。そう言うと、ローはなにか思い当たることがあるのか、苦々しい顔で口を開いた。

「ドフラミンゴは…『フフフッ、こういうのは、なんか、シュッてやれば出来るもんさ』って言ってたし、コラさんは『技名を言って、あとはなんか、パッてやるんだ』って…」

「………………なるほど」

ドフラミンゴはまだいい、あいつはなんかちょっと別だ。でもロシナンテ、お前は完全にあれだろ、ローやおれの能力寄りだろう、なんだお前ら、仲良しかアホウ。なんだかちょっと頭痛がするような気がして、おれは額に手を当てた。



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