Sweet SweetS!




マナー

カマ達との接触を遮断するように、だんっ、と大きな音を立てて扉をしめる。はぁ、はぁ、と肩で息をして外の音に耳を傾ける。「どうするぅ?」「連れ出そうにもまずあたしたちが入れないわよん」などと猫撫で声が聞こえる。つまりここにいるうちは安全らしい。息を整えながら建物の中を見回す。

なかなかシックでハイセンスな造りだ。基本は焦げ茶の木造でところどころに白や黒が散りばめられた一見普通のブティックの内装と言ったところだろう。一見は。

椅子や机、花瓶や果てはシャンデリアなど小物などが見る限り上等なものの集まりのようだ。細部に渡るディティールへのこだわりが語られずともひしと伝わってくる。壁の棚の布地の並びも、仕立屋にとって使いやすく並べているのが却ってお洒落で見栄えが良い。一瞬自分がいる島がニューカマー達の巣窟だと忘れさせてくれるような建物だった。

「なかなか…」

なかなか落ち着ける場所だ、そう思いながら周りを見渡す。黒の鉄がレースを形作るようなテーブルの上にはスケッチブックが書きかけの状態で置いてあった。濃い鉛筆と何本かの色鉛筆、紙を抉らないように練り消しが置いてある。そのテーブルに興味を示し、サンジは少し足音を気にしながら歩み寄った。その瞬間。

「感心、しねぇなあ」

突如背中から聞こえた声にばっ、と勢い良く振り返る前に体にロープのような物が巻きつく。足で踏んだら発動する獣取りの罠のように体中にそれが絡み付き、ぎゅん、と天井に縛り上げられた。

「なっ、だ、誰だテメェは!」

人がいたのか、とすぐに合点のいったサンジは自分を縛り上げた主を探し、そのシルエットに威嚇するように声を張り上げた。暴れようも、手足を振り回すことが出来ずに体に絡みついている縄のようなものがギシギシと音を立てるだけである。歩いてくる声の主については輪郭しかわからない。その人物は、影になるところに居た。

「そりゃおれのセリフだ、誰だよテメェは」

人んち?人の店?にノコノコ入って来やがって。けっ、と吐き捨てるように言った男の声が、つかつかと釣り上げられたサンジに近づいて行く。

「表にクローズって書いてなかったか?あれ閉まってますって意味だからな?」

カツ、カツ、革靴の音が床を打つ。窓から刺した日に少しずつ現れたのは痩身の若い男だった。頭部には黒に青いリボンがあしらわれたシルクハットを被り、その隙間からはブラウンの緩いパーマの髪が出ている。

上半身は帽子のリボンと同じ青のワイシャツに上から黒いベスト、捲られた袖はシャツガーターで止められており、黒いスラックスに黒の革靴とフォーマルな格好をしていた。深めに被ったシルクハットのつばをかすかに持ち上げてサンジを見た男は、その隙間からあからさまに柳眉を寄せ、そして心底面倒くさそうに言った。

「んで?人んちに勝手に入ってきたお前はなんなの?」



マナーは守りましょう








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