ガーディは知っている

飼い主と彼は番である
やっと収まったか、とガーディは欠伸をした。くあ、と舌を見せるように大口を開けて、むあん、と閉じる。すっかり日も暮れて月も登って、大きな窓の向こうは飲み込まれるような真っ暗である。まあ、それもカーテンに遮られていて見えないのだが。

キバナが訪ねてきたときは、ガーディは寝室に入らない事にしていた。ガーディは普段アセビと同じ部屋で寝ているのだが、彼が訪ねてきたとき、寝室に入れるのはアセビとキバナの二人だけだった。入れる、というか、入る、のがだ。二人の手持ちのポケモンは暖房で程よく暖められたリビングで眠るし、普段寝室で寝ているガーディも、進んでキバナの手持ちと寝ることにしていた。

何故って、本人たちは隠してはいるが、アセビとキバナが番だからだ。アセビの寝室にベッドは大きな一つしかないし、客用の布団もない。キバナが訪ねてきたときは二人は同じ部屋で寝起きするし、朝起きてきた二人からは同じ、まぁ、お互いの匂いが混ざり合った匂いがする。それがどういう意味を持つのか、ガーディでも分かるというもの。

極めつけは寝室から溢れてくる音だった。ガーディの四角い耳は中々に聡く、寝室の扉の向こうから聞こえてくる声も拾う。息も絶え絶えな、けれど撫でられて喜んでいるような鳴き声はキバナのものだ。が、今日は収まったらしい。

と、音を殺したように扉が開く音がした。寝室だ。遠退き掛けていたガーディの意識がふっと戻り、足音の主を理解する。いつもと違ってどことなく気だる気な足取りだが、これはアセビだ。後ろ足でクッションを蹴り飛ばして起きようとしたが、キバナのフライゴンが寝ているのが視界に入ってそっと身体を起こすに留めた。

ぱしゃ、とシンクに水が跳ねる音がする。手を洗っていたらしいそのあとにがしゃ、と冷蔵庫の開く音が聞こえてリビングに光が差す。とたとたと床を押すようにして歩いて、冷蔵庫の中身を物色するアセビの足に軽く頭を擦り付けた。

「!?、ガーディ、起こした…や、寝れなかったのか?」

「きぅん」

大きく吠えないように鼻を鳴らす。よく見たら裸に下着とズボンを引っ掛けただけのアセビが、くすりと笑って屈んだ。頭の上で冷蔵庫が音もなく閉まる。

「いい子、皆寝てるもんな、…優しい子」

「…すん」

首辺りを指で掻くようにする飼い主の指は、水で洗ったのにいつもより火照っている。手に持たれたおいしい水のペットボトルを頬につけて、アセビはふう、と一つ熱い息をついた。

「…煩くしてごめんな」

少し上擦ったような声でそう言って、わしゃ、とガーディを撫でるアセビ。それからかりかり、とペットボトルの蓋を回して一口だけ煽る。もう一度ガーディの頭の毛を撫でつけたアセビは、うし、と勢いをつけて立ち上がった。

「お前も寝な、今日はもう煩くしないから…たぶん」

「……」

自信なさげに苦笑したアセビに白い目を向けてしまう。困る。これ以上鳴き声が止まないようなら本格的にガーディは眠れない。じ、と見上げてくるガーディに、アセビはウッと息を詰めて、それから気恥ずかしそうに頭を掻いた。

「…なんだよ、しょうがないだろ…俺のせいじゃないぞ」

「……」

「……俺だけの、せいじゃないぞ」

言い直して、頭をワシャワシャと掻き乱される。乱暴な手付きにガーディも頭を振って抵抗すれば、アセビはその隙に立ち上がっていた。

「おやすみ」

ひらひら、と後ろ手に水の入ったペットボトルを振るアセビの背中を、ガーディはジトっとした目線で見送った。本当にお休むのか、飼い主。絶対だな。そんな意味合いを込めた視線で少し眺めたあと、ガーディは自分のお気に入りのクッションへと戻っていった。

その日の夜、ガーディは甘い鳴き声ではなく、遠くから聞こえる囁くような二人の話し声を子守唄に眠りについたのだった。何処となく心地良いから、これならばまぁ、許してやらなくもない。







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