赤髪の彼は悪い魔女の番人付き



愛しの王子様は荊の向こうで、魔女に捕まっている。どこぞの絵本かと思うくらいのシチュエーション、これは現実なのだ。

王子様はヒーロー科で同じクラス。赤い髪をして、くりくりの目で、誰にでも優しく、クラスの猛獣・爆豪くんだってお手の物。協調性があり、正義感にも男気にも熱い。フレンドリーで、クラスのムードメーカー。上鳴くんや三奈、瀬呂くんとよく、わいわいやっている。その王子様の名前は切島鋭児郎。中学からの友達だ。

私は中学の頃から彼が好きだったのだけど、切島の心を射止めたのは、普通科の魔女だった。魔女と呼んでいるのは私だけで、外見は魔女とは程遠く、一般的に彼女は可愛いとされている。

しかし、魔女は魔女なのだ。その魔女は、切島以外にも彼氏がいた。それも他校のヒーロー科。ツイッターで発見した魔女のツイートに書かれていたが、夢はヒーローと結婚することらしく、切島はその為のキープに過ぎない。同じ学校の生徒ではなく、キープの彼氏全員が別々の学校なのだから卑しい。そのくせ、切島には女子と話すことも、隣に立つことも許さない。何様のつもりなんだ。

わがままも度が過ぎている。“毎日電話して”、“メールが来たら5分以内に返して”、と。火、木は一緒に帰ろうと言うまではいいけど、授業が終わって5分以内に迎えに来てだとか、休日は絶対に遊んで、と。どこかに行くといつも切島がお代を持ち、魔女の行きたいところにだけ行かされる。毎日ハードな授業内容なのに、休む暇も与えられない切島があまりに疲れていたので、みんなも「別れた方がいい」と言った。

なのに、別れ話を出せば、魔女は「別れるなら私死ぬから!」と泣き出したらしい。嫌な女。死ぬ気なんてないくせに!優しく純粋な切島は信じてしまったらしく、それはいけないと関係を続行している。

「切島!コスチュームの話しに行くんでしょ、一緒に行こう!」
「……あ、あー、その……俺、上鳴と一緒に行くから……」
「? 別にみんなで行けばよくない?こっちも耳郎居るしさ」
「いやあ、別にみょうじだからってわけじゃなくて……。あいつがさ、他の女子と話すなって言ってるから……」

………ふうん、そういうこと。彼は今でも、魔女の魔法でがんじがらめにされている。隣にいる耳郎と顔を見合わせた。

「失礼かもしれないけど、それってどうなの?」
「私たちはまだいいよ。でも、ヒーロー活動のときはどうするわけ?女の人は助けないの?」
「そ、それは助けるよ!当たり前だろ!」
「“尽くす彼氏”もいいけど、授業中くらいはちゃんと話してよね。そもそも、被災したときに特別な彼女を優先なんてできないんだから。公私混同はやめて、しっかりしてよ!」

こんなことを言いたいわけじゃない。だけど、本心は言えない。

“私なら切島にそんな顔させないのに。私なら切島を幸せにしてあげられるのに!” そんなこと言ったって、きっと切島は微妙な顔をして困るだけ。

切島が魔女と別れたって、私に振り向いてくれるのはまた別の話だ。だったら、特定の人なんて作らないで、たくさんの人だけ見ていてほしい。ヒーローとして。助ける側の人間として。

「あ、切島だ」
「まーた一緒かー」
「懲りないねえ。友達なら説得してやれば?」
「………いんじゃね。当人が幸せなら」

夕暮れをバックに、切島と魔女が歩いている。魔女が何か耳打ちして、切島が笑った。

「…………あんな顔、しないでほしいなぁ」
「だね。毎日窶れてるもんね」

三奈が言ったのと、私が言ったのとは意味が違う。魔女は本当に嫌な女だ。人の良いところに漬け込んで、内側に侵食して、逃げようとしても縛り付けて苦しませる。切島じゃなくても代わりがいっぱいいる。そんな魔女に、綻んだ顔を見せないでよ切島。せめて魔女さえ倒れてくれたら。

ーーこんなことを思ってしまうのだから、きっと私も魔女の一人なんだろう。